前編
突然雨が降って、何処か雨宿りが出来る場所を探した、帰り道の事だった。
宮本愛は、傘を持たずに出掛けた事を後悔していた。早足で動くと、スカートに飛び散った水が付き、仕方なく歩く。
何処を見渡しても、雨宿りが出来る場所が見付らず、幼馴染の桂圭吾に傘を持って来させようと思い付いた愛は、早速電話を掛けた。…が、出ない。
「電源切るなんて、圭吾のくせに…」
ぶつくさと愚痴を呟き、携帯を閉じた。
雨に濡れたせいか、体が冷えてきた。擦れ違う人達は皆、傘を持っている。
「圭吾が悪いんだから…。ちゃんと、傘を持って来ないから」
震え出す身体。明日は熱出すなぁ―と確信しながら歩いていると、前方に圭吾と思わしき人物が歩いていた。隣には、見知らぬ女性も居る。二人は仲睦まじく、まるで恋人同士の様に見えた。
何時も、圭吾は自分優先だと思っていた愛にとって、其の光景はショッキングなものだった。其れと同時に、嫉妬を覚える。
「………私が居なきゃ、何も出来ないくせに…っ」
震えた声。自分が動揺してると、嫌でも分ってしまう。
二人に気付かれない様に、家から遠回りではあるが、別の道を歩いた。
古びたマイホームを見て、さっきの事が脳裏を過り、つい溜息が洩れてしまう。
「愛!? 何やってるの、そんな処で! サッサと中に入りなさい」
母に中に入る様に促され、渋々中に入る。
びしょ濡れになった娘を見て、溜息交じりに「何で、電話しなかったのよ? 車で迎えに行ったのに」と言う母に、愛は「気分」と返答し、洗面所へと向った。
濡れた服、全てを脱ぎ捨て、御風呂の戸を開ける。其処には、丁度好く沸かされた湯が、今にも入って欲しそうで、愛は思いっ切り御風呂に体を浸けた。全身に熱が周り、体を洗う為、一旦御風呂から上る。と同時に、熱が冷めてしまった。
御風呂上り。冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取出し、中身を硝子のコップに注ぐと、一口飲む。美味しい、と思った。が、口には出さない。何故なら、其のビールを買ってきたのは、圭吾なのだから。
何時もの、我儘な頼みだった。ビールが飲みたくなった愛は、圭吾に買い出しを要求した。勿論彼は、二つ返事で承諾し、自腹でビールを買ってきてくれたのだ。あの時、久々に、軽く御礼を言うと、圭吾は一瞬驚いたものの、直ぐに嬉しそうな笑顔を浮べ、踵を返すと、隣の家に帰っていった。
そう。彼は何時も、どんな我儘でも、今迄一つも断らず、要求を呑んでくれた。なので、携帯が繋がらない日は無かった。
「圭吾の、馬鹿…っ」
其の時、電話が鳴った。ナンバーディスプレーには、圭吾の文字。
愛は、電話に出るのを躊躇った。が、しつこい位に鳴るコールに折れ、電話に出る。
『もしもし、愛? 』
「何? こんな時間に? 何か用? 」
『今日は御免ね。電話に出なくて…』
「其れだけ? 」
『え? 』
「其れだけで、電話したの? 」
『…うん、そうだけど。何で――』
圭吾の言葉を遮る様に、電話を切る。愛の手には、拳が固められていた。
彼が、我儘な頼み事をきいてくれてたのは、自分の事が好きだからなんじゃないかって、密かに期待してた。だが、其の考えは、今日のあの光景で、全て打ち砕かれた。
「もう、寝よう…」
悩んだ処で始まらない。そう考えた愛は、ベットにダイブする。そして、其の儘眠りに着いた。
続く
後書き
我儘な女性を描くのが好きです
余裕ぶって、実際、嫉妬ばかりする女の人って、可愛いじゃないですか(●^o^●)
今回は、喧嘩相手というより、前述の言い成りになる男性という設定(う~ん…結構、難しいぞ)
初出【2011年3月16日】




