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第9話 ドクター・プラテンの日記

 ワタシはクリストファー・プラテン。

 夢の未来を願う科学者、発明家だ。

 もう七十歳になるかの。みんなワタシのことを奇人変人、派手オヤジ、ドクターとしてではなく毒々しい意味での『ドク』と呼ぶ。勝手にしやがれだ。

 逆立った白髪に大きな目、一九〇センチから見下ろされれば、みなビビって寄りつかん。

 プラテン家の血は濃く、ワタシはプラテン一世に瓜二つ。

 書斎に飾られたご先祖様の写真はどれも奇抜でインパクト大。

 ここに導きの書、家宝の日記がしまってある。


 

 初代ドクのことを語ろう。何百年も昔の話だ。

 エメット〝ドク〟プラテンは世紀の大発明〝タイムマシン〟の開発に明け暮れていた。

 しかしその核となる次元転移装置の起動がうまくはいかなかった。

 ちょうど同じ頃、金属産業の町ストームアックスで落雷事故が起きる。

 その話題は被害者数や建造物の崩壊よりも、『雷とともに現れた巨人』で持ちきりだった。

 エメットはそれを聞いて確信した。

 巨人は雷の力で時空を超えてやってきたのだと。


 僅かな目撃者情報とはいえ巨人が拳で壊したと思われる廃墟ビルの跡も、歩いてうろついたとされる足跡も確かに残っていた。

 あれは幻ではない……『雷の塔の男』『紫色のガーディアン』『ライトニング・マン』……などと呼ばれ、未確認生物扱いで、やがて都市伝説となった。


 ストームアックス九番地のゴーストタウン。立ち入り禁止区域とされた廃墟ビルにエメットは密かに侵入した。

 次元転移完成に繋がるサンプルを探しに。


 暗闇で足元に散らばる人骨におののき、煤で顔を真っ黒にしながらやっとの思いで見つけたもの。それは血で汚れ、切り刻まれ捨てられた『包帯』。ひとりでに動く、まるで生きているような包帯だった。


 エメットは包帯を研究室に持ち帰り、電子顕微鏡でその正体に迫った。

 見たこともない、細胞はまるで機械仕掛けの生きた歯車。

 未確認の……この星のものとは思えない――機械生命体。『ライブマシン』とでも呼ぼうか。

 エメットはそれを『包帯くん』と名づけた。


 両手いっぱいにおさまるほどの切れ端『包帯くん』を飼育ケースに入れ、実験してみる。

 いっしょに入れたネズミは包帯くんにぐるぐる巻きにされ、死にかけた。

 いっしょに入れたハエや蝶も精気を吸いとられたかのように弱ってしまった。

 あれこれやってて飼育ケースの中に腕時計を落とした時はびっくりした。

 二十歳から使っていた時計が包帯くんに包まれた途端、新品同様になったのだ。

 錆びた釘を入れてもピカピカに。

 生物を死滅させる力と、金属や機械を活性化する力を秘める……というのか? なんとも怪奇!

 しかし次元転移装置に貼り付けてみても起動はしなかったが。

 ヤケを起こして包帯くんをペンで刺そうとしたらダイヤモンドのように硬くなった。そんな自己防衛本能もある。

 一応〝繊維〟なだけに、構成している糸を引っ張ると力が弱まるようだ。

 飼育ケースの中でうにょうにょ動く様は風に揺れているというより主人を捜しているようにも見えた。

 エメットはなんだか切なくなり、彼を大切に見守り、次世代に引き継がせた……。



 そう。初代ドクは博愛のお方だったのだ。

 『包帯くん』はしっかりと、ワタシの代まで託され、この地下シェルター研究所内に保管されている。

 もちろん次元転移開発も引き継がれている。装置は未だ起動しないままだが。

 初代も祖父も父も成し得なかったことを、ワタシが必ず! 

 いいかげん愛車に搭載するという発想から脱しなければ!



 挿絵(By みてみん)



 ……ということで、ある日旅に出かけた時、ワタシはある街のスポーツジムの前で素晴らしいものを見つけた。

 幻の白い『トミタ3000GT』!!

 そうかこれだ! ワタシのDMC13じゃなくこいつなら! と、その車を舐めるように見ていたら持ち主にどつかれてしまった。


「おいオッサン。(ちけ)えんだよ。ほら離れろ、わしの車だ」

「き、キミ、いや、すまんすまんつい見惚れてしまって」

「……まあそんなこったろうとは思ったけどよ」

「この車、譲ってもらえんかね? 金はいくらでも出す」

「は? 何言ってんだボケ」

「ワタシにはこの車が必要なんだ! これは世界のためでもある。世界の未来発展のためでも」

「るせえよタコ! 世界の発展だあ? ざけんな。何ボ積まれても譲れねえもんがあんだよ!」

「頼む。全人類の夢のためだ」

「この車には死んだ女房との思い出が詰まってんだ。ぜってぇー譲れねえ!」


 もの凄い力でその筋肉マッチョの持ち主に胸ぐらを掴まれた時、ワタシはひきつけを起こしてしまった。


「お、おい、大丈夫か? おい! しっかりしろ!」

「……ぁ……すまん……発作だ」

「立てねえじゃねえか、くっ、来い、わしの車に乗れっ!」


 その男はワタシのデカい図体をトミタ3000GTに押し込み、診療所まで連れてゆく。

 なんと、彼は医者だった。その街の医師ポー・クアーズという。


 ベッドでしばらく休んで、朦朧としながら目を覚ますと、クアーズくんは傍らにいてくれた。

 作ったお粥を手に、あーんと口を開けて見せ、同じようにしろと言う。


「き、キミ……」

「オッサン。ちゃんと寝てちゃんと食ってっか?」

「あ、ああ。もう大丈夫だ。ありがとう」

「よかったらこれ食ってけ」

「恩に着る」

「見た目からしていかにも変わりもんだなオッサンは。……で、世界の未来発展てどういう意味だ?」

「……ああ、その……タイムマシンだ」

「タイムマシン?」

「あの車なら、時速241キロ出るだろ」


 クアーズくんは意外にも、真剣に語るワタシを真剣に受け止めてくれたが、答えはやはりノーだった。ちなみにあれは240キロまでしか出ないと。うーん! 惜しい!



「その装置を車に搭載するという発想から脱したらどうだ?」とクアーズくんにも突っ込まれたりしたが、まあ、なんだかんだ友人ができた。

 クアーズくんはワタシより十歳くらい若いが、若々しく頼もしい。

 そんな彼から今朝久しぶりに電話があった。


「ドク! ダチのムライがそっちへ向かう。負傷した女の子を、少し怪奇な女の子ひとりを連れて。どうか診てもらえないものか」と。

 イメージとしては甲冑を着込んでる。機械の身体を持つ女子らしい。なんだそりゃ。

 ……しかし。ワタシを介抱してくれたクアーズくんの頼みだ。なんだか興味深いし、オーケー。受け入れよう。



 薄暗く雑然とした地下シェルター研究所内のシャワー室にいて久々の来客に備える。

 ひと月ぶりの垢が流れてゆく。

 女の子というから嫌われんようにせんとな。

 ムライくんの話は聞いたことがある。クアーズくんよりパワフルで真面目な若者だと。

 近くまで来たらまた電話が鳴るだろうと注意してる。このシェルターは隠れ家だし、遮蔽バリヤーを張ってるし、普通には入ってこれない。

 ああ……熱いシャワーが気持ちい……



 ーードガアアアアーーンッ!!ーー



 突然、鳴った! え? じ、地震か?!

 ワタシは慌ててシャワー室から出て、研究室内に駆け込んだ。


 お、驚いた! の、レベルを超えてあり得ない! アンビリーバボゥッ!!

 ワタシの書斎に帯電した虹色の光の球体が出現していた。誰かが中にいるのが見える。

 これはまさに、とワタシは叫んだ!


「じ、次元転移だっっ!!」

ワタシの書斎でヘビーなことが起きた。まるで1.21ジゴワットの電気が走ったように光に包まれた男女が現れたんだ! もしかしたら未来に全人類の指導者となったワタシの存在をターミネイトしようとT-800とT-Xがこの時代へタイムスリップしてきたのだろうか?!


次回、『ムライ・コナー、ドクに会う』

……未来は自分で切り開くものだ。

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