第20話 ギュルコの念いとムライ・コナーの復活
ムライ! ――『リュウジ』ッ!!
わたしは心が張り裂けそうになり、気づかぬうちに上空のレッドダストの塊に向かって跳んでいた。
無我夢中でソルバ様の胸元に身ごと突っ込んだ。
ドドちゃんがわたしを呼ぶ声が聞こえる。
それでも次第に意識が遠のき、頭の上から爪先まで、蠢く砂嵐にわたしは包まれた。
* * *
ムライ! ――『リュウジ』ッ!!
……お
れ
は……。
……ギュルちゃんの
声が
聞こえる。
おれを呼ぶ
声が。
リンリンと、
彼女の、体を震わす……
ラトルの澄んだ
鈴の音も……。
あの声は……ギュルちゃん……。
おれは……ソルバとして……
この赤い砂塵に包まれ、
……おれは死んだのでは……
なかったのか?
意識がぐるぐる高速回転して戻ってくる。
まるで時が巻き戻され、『自覚』が再生してゆく。
そう、おれは
ムライ……リュウジ。
『リュウジ』だ!
* * *
はっと目を開けるとギュルちゃんがおれの胸に飛び込んできた!
「リュウジッ!!」
「ギュルちゃん!!」
完全に意識を取り戻したおれは彼女を目いっぱい抱きしめた。
白い硬質なボディを強く強く引き寄せた。
「生きていたかムライ! いえ、リュウジ!」
「ああ! おれはここにいる! うん、ムライでもリュウジでもどっちでもいい! おれはここにいるんだ!」
「あ、会いたかった!」
「おれもだギュルちゃん! 会いたかった!」
おれはソルバの力に覚醒した時の鎧を纏った姿。
この姿もソルバの力も、残ったまま。
ダンやターコイズとは違い、マシン回路が溶け入ったせいでどうやら元のヒトには戻れない。
おれは刺々しい胸元や腕を申し訳なく思った。
彼女の手首に通した花冠が純真で健気だった。
「ごめん、強く抱きしめて、痛かったろ?」
ギュルちゃんは潤んだ目で首を横に振る。
「ううん、全っ然! おまえに会えてわたしは嬉しいんだ、心から」
「おれも同じだ!」
「ソルバ様に念いが通じた。わたしは思う。それはきっと、『リュウジという人間』にソルバ様も惹かれたからだ。おまえが誠実で穢れがないから」
「そ、そんなんじゃない。ギュルちゃんが呼んでくれなきゃ……」
「ムライ、またいろんな話を聞かせてくれ。そして」
「……そして?」
「……そしてまたラーメンを、いっしょに食べよう」
「うん。もちろんだ。今度はキミの奢りで」
「ふふっ。もちろんだ」
少しずつ勢力を弱めるレッドダストの中、中空に浮かんでいたおれとギュルちゃんはゆっくりとその山の頂に降りてゆく。
そこにはあの狐の化身のようなドドさんがキナを抱いているのが見えた。
やはりモンキャット姿だが、ソルバに飲まれず戻された。
スヤスヤと眠るキナの顔を確かめ、おれは安堵した。
それに紫の民族服を着た女の子と包帯を巻いた猫らしき動物、カジュアルな格好のダンの姿も見える。
よかった。ダン、おまえも無事のようで。
空が重く押し寄せてくる感覚。
雲が怪しく竜の如く旋回しているように見える。
ぐっと息を呑むおれはみんなに囲まれ、想いを託された。
《キョジュウシンとひとつになり、星団をはね除けてくれ》と。
おれは崖の岩場に踏み出した。
ギュルちゃんに振り向いて笑顔を見せた後、山のようなキョジュウシンとあらためて対峙した。
巨獣は目を赤く光らせ、おれに告げた。
《この星はいずれ滅びる。争いが絶えない》
《……それでもおれには……守りたいものがある》
《食われるぞ。やつらに》
《やつらとは……我らの祖》
《……そう。おまえが止めるんだ。この先の運命はおまえの心に懸かっている》
《おれの……心》
《我々が争うのをやめなければ……》
《どうすればいい? どうすれば》
おれは怯えながらも両手を広げた。
渦巻くレッドダストに巨獣は声を轟かせた。
《信じて……跳べ》
《信じて……》
《このわたしの、全方位、あの霞む地平線まで広がる原野に、おまえが信じて跳び込むんだ》
キョジュウシンはおれを受けとめると言う。
おれたちは力を合わせなければいけない。
それはこの星を守るため。
守るために、ひとつになるんだ。
おれは崖から跳び込んだ。
勇気を持って、信じて、跳んだ。
* * *
やあ、また会えたな! ムライ・コナーだ。
会えて嬉しいよ。うん。
俺は信じてみようと思う。
敵対する相手だったキョジュウシンだが、ここから先は信じて、その胸に跳び込もうと思う。
次回は最終回。『ムライ・コナーはキミと行く。』
おれたちは生き延びてみせる!




