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第11話 ムライ・コナーのファングセイバー

 夕暮れ。おれとギュルちゃんはDMC13というスーパーマグナビークルに乗って砂漠のハイウェイを疾走してる。

 

 ギュルちゃんは強引だったが、

「CSAをあの研究所で迎え討つわけにはいかない。早くここを出なければ」と、ドクを気遣っての行動でもあった。

 ドクター・プラテンは、

「じゃあ、ギュルコさん。ワタシもいつかタイムトリップを体験したい。それが条件だ」

 と言い、この乗り物を貸してくれた。


 ギュルちゃんはまだ左手に包帯が巻かれた状態だしおれがハンドルを握ってる。

 サイドシートに座る彼女から伸びた鞭がおれの腹を捕らえてる。まるでおれは手綱を引かれた馬だ。


 逃げようと思えば逃げられる。

 ダンとの戦いでおれの力は明確になった。

 きっと彼女にも対抗できる。

 でもそれをしないのは、単に女の子に手荒な真似はしたくないのと、彼女への興味だった。

 少し心を開いてくれたギュルちゃんのことをもう少し知りたいと思ったからだ。


「死ぬ覚悟はできているか?」と訊かれて、心の片隅でずっと考えていた。

 それは、実は、もうとっくにできていたのかもしれない。

 幼少期のことだ。戦禍をさまよいながら、どうすることもできない自分の弱さに泣くしかなかった。

 怖くて怖くて、ぶるぶる震えて、いつ殺されても仕方ないと思っていた。

 覚悟は決まっていた。

 落ちて、落ちて、落ちて、着いた先に見つけたもの。それは『魂の意地』というべきか。

 幼心に自分の弱さを知って、常に死と隣り合わせと知ったからこそ強く這い上がれたのかもしれない……。



 目的地の墓地(セメタリー)はドクの研究所から南東へまた約千キロほど、だろうか。

 気になる地鳴りが時折頭まで響く。

 ピキピキと行く手を遮らんとばかりに打ちつけるが、とりあえず平静を保ってギュルちゃんの指示通りに浮上走行している。



 だいぶ暗くなり、いくつものトンネルが続く。

 長い長い最後のトンネルかと思いながらアクセルを踏むが、いつまで走っても先が見えない。

 おれは自ずと械奇文を唱えていた。

 

 速度を落とし、DMC13を停めた。マグナユニットも止め、前照灯も消し、二人とも身構える。

 左側からギュルちゃんが言った。


「怪しいな」

「ああ。風の流れを計測した。前方は塞がれてる。欲が渦巻いている。どうやらおれを狩りに来たらしい」

「そのようだな。わたしの獲物を横取りに」

「……ギュルちゃん。逃げないからさ。とりあえずこの鞭はずしてくれる?」


 ギュルちゃんはうなずく。

 よし、とフロントウィンドウを開け、外へ出て足で地を蹴って踏ん張り、さらに耳を澄まし、闇と同化する。

 無音状態から微かな空気の流れを感じ取ると、暗がりからムクリと土埃をかぶった骸骨たちが顔を出した。

 ドクロの笑い顔がおれとギュルちゃんにまとわりついた。


 《《《ムライ・コナーはオレサマがいただく》》》

 と骸骨たちが言うと、ギュルちゃんが説明した。

「こいつらはガシャ。カイジング・ゴメラの手先だ」


 しつこい蝿を追い払うように体中に噛みつく無数のガシャを二人で撃退してゆく。


「くっそ、潰しても潰しても沸いてくる!」


 そのうちゴメラの械奇データがおれの脳裏(ビジョン)に映し出された。

 《《……カイジング・ゴメラは超硬金属ウルツァニウムでできた甲羅を纏う鉄壁防御の戦士。フリスビーのように甲羅ミサイルを操る。幻覚で闇のフィールドに取り込む。それは彼の胃袋と直結している……》》


「えっ、これ、幻覚だってのか?」

「ムライ! ゴメラはやがて我々を溶かしにかかる」

「長い長いトンネルも、気づけばゴメラの腹ン中。奴の術中だったわけか」


 あらためてすっくと立つおれはマシン回路=ソルバの力を漲らせる。

 (たてがみ)を震わせ、下顎の犬歯を光らせた。それは牙となり、耳まで長く伸びた。


「うう……ウガァアアアーーッ!!」


 伸びた牙を抜き取るおれ。その二本を剣として両手に持ち、構えた。

 隣りのギュルちゃんが驚いて引いている。

「……ムライ、おまえ」

「痛みで目が覚めた。幻を追い払う」

「大丈夫か? わたし一人で……」

「戦いの時だ。引っ込んでるわけにはいかない」


 頬から銀色のマスクが形成される。髪と皮膚が増強され勇猛な獅子の鎧を纏う気持ちにさせられた。

 構えた先の骸骨たちの頭が崩れ、スプリンクラーのように酸を撒き散らしてゆく。

 おれは剣=ファングセイバーを縦横に大きく振るい、酸を弾くとともに、闇のフィールド全体に斬撃波を浴びせた。

 ここの主、ゴメラの甲羅と同じウルツァニウムでできた剣による遠距離斬撃はやがてじわじわと効果を表してゆく。

 《胃袋》だということは胃壁があるはずだ。闇でも到達する壁があった。

 行き着いた斬撃波は幻覚を切り開いた。


「うぎゃーーっ!!」とゴメラの絶叫。

 おれとギュルちゃんを覆った闇は次第に解かれ、目の前には腹を押さえてうずくまるゴメラがいた。亀のような姿の太めなやつ。

 砂漠のハイウェイに散歩に出た陸亀が、サソリでも食って苦しんでる感じ。

 こちらを睨む彼におれは剣先を向け、言った。


「ゴメラ。ギュルちゃんから()()を横取りしようとするからだよ」

「グギギッ、、オレサマがソルバ様を復活させ、カイジングのナンバー2になるんだ」

 ゴメラが前屈みになって一時黙ったかと思うと、今度は甲羅が展開してミサイルが発射された。


「うあっ、あっぶねっ!」

 甲羅型のミサイルが連射される。フリスビーみたいに回転しながら飛んでくる。当たると痛い。

 そこでギュルちゃんが左腕を振り上げ、包帯をほどいた。

 完全復活した白銀の必殺武器を発動させる。


「超振動ラトルブレイク!!」



挿絵(By みてみん)



 空間を揺るがす振動が光輪とともに襲いかかってくる甲羅ミサイルを破砕してゆく。

 粉微塵に、跡形もなく。


「うわっ、スゲ!」

 その威力におれは呆然と固まり、ゴメラもついに身の危険を感じて攻撃を止めた。



 * * *



 ゴメラはごめんなさいと言って謝り、去って行った。

 おれは気を鎮め、剣を元の犬歯に縮め、()()()()()()。肉体も波打って元に戻ってゆく。


 ギュルちゃんは先ほど外した『包帯くん』でキナを(くる)んだ。

 彼女はスヤスヤと眠るキナに微笑む。

 優しいねとギュルちゃんに言うと彼女は顔を赤らめツンと返した。

「このキナも獲物だからな。活きがよくなくては。こんな小さな体であれほどの術を使ったんだ。早く回復するように」

 彼女の解析では、

「キナのマシン回路も大脳皮質に溶け入っていて、ムライ同様に身ごと献上するしかない」

 ということだった。

 ……あーあ。



 DMC13の助手席に座ってギュルちゃんが言う。

「械奇族同士で戦ってどうしようというのだ。なぁ、ムライ」

「ほーんと。だよなあ、ギュルちゃん♪」

「……なにが(ギュルちゃん♪)だ。嬉しそうに」

「だって。助けてくれたから。ありがとね♪」

「なっ、バカモノ。わたしの獲物を傷つけられては困るからだ」

「うんうん。困る困る」

 調子づくおれにギュルちゃんは鼻で息を吐く。


「……しかしムライよ。おまえの情報はドドちゃんから聞かされた。『ムライ・コナーと名のる男。ソルバ様復活に最も重要な核の部分を埋め込まれてる』と。……マシン回路が溶け入ったことでソルバ様はいずれおまえを母体として魂を宿すのかもしれない。霊界をさまよってるソルバ様の〝お声〟を感じたりしないか?」

「……いや、声までは」

「ソルバ様が蘇ることでおまえが消えるのも……なんだか寂しいな」

「え? そ、そう思ってくれる?」

「……す、少しだけ。お、おまえはなんだかよく喋るし、退屈しない。だから、そう。少しだけ、思っただけだ」

「ふふぅーん♪」

「(ふふぅーん♪)じゃない。こっち見てないでちゃんと前を向いて運転しろ!」



 ……そんな話をしながら、おれたちはまた次へ進んだ。

刺客が次々に現れる。おれはギュルちゃんに守られて……いやいや、おれが彼女を守らなきゃって気持ちさ!

元は水虎モチーフだったゴメラの次は伝説の妖怪、二人組?


次回、『ムライ・コナーの重力落とし返し』

オマージュありきの宝輪鳳空。


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