バレてしまった王女様
「え、え〜っと…なんで如月くんが彩ちゃんの家に?」
現在我が家の玄関は静寂に包まれている。
その原因は優くんが私の家に帰ってくるのを有紗ちゃんに、しかも超近距離で見られてしまったからだ。
「あ〜っと…これはやらかしたかも〜…」
そう言うと優くんはそ〜っと私の方向を向いてくるので私は頷いた。
すると悠くんは「やっぱり?」という顔をして目を閉じた。
「あの〜有栖さん…ちょっと時間大丈夫?」
「う、うん…」
「じゃあもう一度リビングに戻っていただいて」
*
まずいまずいますい、この状況はひっじょ〜にまずい。
僕は有栖さんをリビングに誘導しながら心の中で叫んでいた。
このまま彩花との関係を明かすか嘘で切り抜けるか。
正直な所を言うと嘘で切り抜けたいが有栖さんには見抜かれてしまうような気がする。
つまり残っている選択肢はただ1つ
しっかり事実を伝える
*
僕達はリビングにある食卓テーブルの所に座った。
「え〜っと…じゃあ色々事情を話していきますね」
「はい、お願いします」
「まず有栖さんが1番気になっているのは『なんで僕が彩花さんの家に帰ってきているのか』というところだと思います」
「うん、それが気になってる」
「最初に言っておくと僕と彩花は高校が始まった時から同棲をしています。それは親にも許可を取った正式な同棲です」
「うん」
「そしてじゃあ僕と彩花との関係は一体何なのかというのが次の疑問に出てくると思います」
「その答えは僕と彩花は『許嫁』という関係だからです」
そう、僕と彩花は将来の結婚を誓い合った『許嫁』という関係性である。
なぜそうなったかと言うのは僕の小学校4年生の時に遡る
僕のお父さんと彩花のお父さんは仕事を共に助け合う関係で
あり昔からの仲良しだった。
その事で僕と彩花は幼い頃から一緒だった。
そして小学4年生の頃に僕は彩花のお父さんに「彩花を幸せにするので彩花と将来結婚させてください!」と言った。
すると彩花のお父さんは「今のままではまだ彩花を任せられない。だから高校生になるまでに立派な男になれ。そうすれば彩花がお前と婚約するのを認めてやろう」ということだった。
そして色々あり、高校生になって無事に僕と彩花の婚約、そして同棲を認めて貰えたという訳だ。
「というのが全貌です」
「…なるほどね。それで彩ちゃんと如月くんが一緒に住んで居るってわけね。」
「…あんまり驚いたりしないんだな」
「驚いてないわけないやん!そんなさっきまで一緒に勉強してた友達は実は同棲しててしかもそれは同クラスの男の子です!とか衝撃以外の何者でもないやん!」
有栖さんは相当驚いていたのか無意識のうちに方弁が出てしまっている。
「…ま、まぁとりあえず全部の内容は理解出来たわ。それで、とりあえずそれを学校の人とかにばらさないでくれって事やろ?」
「さすが有栖さん、話がわかるね。
その通り学校では黙っていて欲しい。うちのクラスを担当している先生たちには予め言ってあるけれど生徒にバレたら僕の命が危険に晒させることになるからね」
「了解!」
*
「あ〜未だになんだかこの状況に実感がないわ」
有栖さんはそう言うと座っている椅子に体重をかけてぐで〜っとしている。
今の数分の間で相当体力を使っていたようだ。
まぁ確かに話の内容的に考えると相当カロリーの高い話だったのでしょうがないと言えばしょうがない。
「まぁ私は別に話すつもりないけど別の子にバレないかは気をつけなよ〜彩ちゃん人気者だからもし如月くんが許嫁ってバレたら多分殺されると思うから」
「だよね〜」
「でも正直ずっと隠し続けるのはキツいと思うからいつかはばらす日が来るとは思うね」
「その時はその時でどうするか考える必要があるな…」
確かに有栖さんの言っていた通りこのまま誤魔化し続けるのがどこまで耐えられるのか分からない。
明日バレるかもしれないし1週間後にバレるかもしれない。
今のうちに覚悟だけはしておかないのかもしれないな…
*
「それじゃあ私はそろそろ帰るね。私は誰にも話さないけど2人ともこれから気をつけた方がいいよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ〜ね〜!」
…
「なんだかとんでもないことになったな」
「明日からどうしよ〜!!」
有栖さんが玄関から姿を消した瞬間に彩花は僕に抱きついてきた。
有栖さんに説明する時は外での彩花の状態だったから有栖さんが帰って体の力が抜けたのだろう。
「お疲れ様。今日はすぐにご飯食べてゆっくりしようか」
「うん。」
僕は腕の中にいる彩花を抱えてリビングに向かった。
リビングのソファに座った瞬間に彩花はいつもより度を増して引っ付いてきた。
「彩花。今からご飯を作ってくるから離してくれない?」
「ヤダ。今日はもうご飯要らないからそばにいて」
「ご飯は食べなきゃだよ。明日が休みなのにゆっくり眠れなくなっちゃうよ」
「…じゃあご飯食べるけどキッチンに居ていい?」
「いいよ。おいで」
「ん…」
今の彩花はどことなく元気が無い。普段から元気がない時はさらに甘えん坊になるのだが今日は特段甘えてくる。
こうなると僕から一瞬も離れたくないモードに突入してしまうためずっと近くにいる必要があるのだ。
*
僕達は夜ご飯を食べ終え各自お風呂を済ませてからソファでテレビを見ていた。
隣には僕の腕にしがみついている彩花が居る。
「彩花、もうそろそろ寝る時間だから寝室に行こ?」
「うん」
そして僕はテレビを消して彩花と一緒に2階へと上がって行った。
彩花の寝室の前に行った時、僕が自室に行こうとすると彩花は僕のシャツの裾を掴んだ。
「彩花、離してくれないと寝れないよ?」
「…優くん」
「どうしたの」
「今日は、今日だけは一緒に寝て欲しい」
「いやだめだ…今日だけね」
「本当にいいの?」
「うん、今日の彩花はいつもより元気がなかったよね。彩花が元気になってくれるなら一晩だけならいいよ」
「うう…優く〜ん!!」
「うわ!」
彩花は僕のお腹付近に突撃してきた。
僕はその彩花を抱き寄せてから自分の寝室に入ってベットに横たわった。
「優くん頭撫でて」
僕はお願いされた通りに横に居る彩花の頭を撫でた。
すると彩花は顔を上げて僕の方をまっすぐ見て話し始めた。
「あのね、優くん。私このままずっと秘密にしておくのは少し嫌なの」
「…なんでか聞いてもいい?」
「私は学校でいつもとは違う皮を被ってるの。それは私自身が望んでやっていることなんだけどずっとしてると素を出すのが怖くなっていくの。今ですら自分を変えるのが少し怖い。」
彩花は僕の前で以外、それも学校では特に『王女様』という皮を被っている。
それがどれだけ彩花の心の中の負担になっているかは僕には知ることも出来ない事だが客観的に見ても楽なものでは無いと言うことだけは分かる。
「だから学校でも少しずつ普段の私を出していきたい。それが優くんが今まで我慢してきたことを全て無くしてしまうことだと思うの」
「うん」
「でも今から変わらないともうチャンスはない時思う。だからこそ今変えないといけないの。だからね、優くん」
彩花は何かを決めたような顔をして僕の方を見てきた。
「私と学校でも普段通り話しかけてきてくれる?」