転校生と王女様
「おいおい!今日うちのクラスに転校生が来るらしいぞ!」
学年の半分が終わり、あまりに中途半端なタイミングでうちのクラスに転校生がやってきた。
噂では女子との事でクラスの男連中どもは「かわいい子がいいな」「逆にかっこいい子でもいいな」とまぁ妄想を浮かばせている。
「たかだか転校生の1人くらいでここまで騒ぐかねぇ…」
「まぁやっぱり転校生って特殊感というか別とはちょっと違う感じするしな。後は女子ってことだから男どもは騒ぐしな」
「僕はどんな子が来てもいいからいいけどね」
「なんだよ〜興味ねぇ〜な〜」
「お前だって特段興味無さそうじゃねぇか」
「いやさすがにこの時期の転校生はどんなのか気になるさ」
「まぁ確かに」
さっきも言ったが転校してくるにはあまりに時期が微妙すぎる。
大抵は長期休暇明けの日に転校してきたり学年が変わるタイミングで転校してきたりするものだ。
「…となると何かしら事情を抱えた子…ってこと?」
「…すまん、そこまでは考えてなかった」
あの言い方からして何かしらの考えがあるのかと思ったが翔はそこら辺特に考えていなかったらしい。
でも確かに僕もこの時期の転校生は少し興味がある。
女子という方ではなく転校生という方が興味深い。
*
「よ〜し全員席に着いたな〜。それじゃあ今から転校生を紹介する。入ってきていいぞ」
「はい!」
先生が教卓の前で廊下の方向に向かって声をかけると教室の出入口ドアから元気そうな返事が返ってきた。
返事があったおよそ1秒後に扉が開いて1人の女の子が入ってきた。
身長は少し低めの赤髪のくるくるショートカットでオレンジ色の目だ。
「どうもこんにちは!私は今日この学校に転校してきた『有栖 有紗』です!この学校の全員とお友達になりに来ました!!よろしくお願いします!!」
挨拶からわかる通り元気、元気、ひたすら元気な子だ。
それでもって小さな身長に口から出ている八重歯などから見方を変えれば幼女にしか見えない。
ランドセルを持ったら小学生の6年生くらいには間違えられるかもしれないのでは無いかと思うくらいだ。
*
「有栖さん!どこから来たの?」
「私?私はね〜前は三重県の学校に通ってたよ!」
「三重県!?結構遠いけどそんなとこからなんで転校してきたの?」
「いや〜お父さんの仕事の都合でこっちに来ることになって、それに着いてきたからだね〜」
HRが終わってから想定通り有栖さんは質問責めにあっている。
このクラスで有栖さんの席に行ってないのは僕として翔、そして彩花だけだ。
しばらくして有栖さんへの質問が一区切りついたのか人が少しずつ離れていった。
すると有栖さんは突然席を立った。
そして彩花の方向へと向かっていって彩花の席の前に立った。
「初めまして!!貴方の名前はなんて言うの?私は有栖 有紗!!」
「初めまして、私はね白雪 彩花って言います」
「いや〜教室入ってきた瞬間すっごく綺麗な子が居るな〜って思って気になってたんだよね〜。良かったら私と友達になってくれない?」
「え、ええいいですよ。それじゃあこらからよろしくお願いします有栖さん」
「有紗でいいよ〜」
「じゃあ有紗さんで」
「うん!よろしく彩花ちゃん!」
あの人見知りで緊張しいの彩花と直ぐに打ち解けられるなんてとんでもないコミュ力だな…。
僕は心の中でそう感心した。
「…なんか凄まじい子だなあの子」
「うん、明らかにうちのクラスの最大瞬間風速はあの子だね」
*
「彩花ちゃんって賢いんだね〜」
「まぁこれでも学年2位をずっと取っていますからね。なかなか1位にはなれませんが」
ギクッ
彩花の視線が今一瞬だけこちらの方向を向いた。これは気の所為ではなく絶対にあっている。
何しろその前に話していた内容がテスト順位のことだったからだ
ここまでである程度予想がつくと思うが今までテストで1位を総ナメしてきているのは正真正銘この僕だ。
2度の中間考査と学期末考査。どちらも彩花は僕に挑んで来たがその結果は10点の差をつけ僕の勝利。それも期末考査に関しては当日僕は体調を崩していたので心配しつつも勝てるだろうと踏んだ彩花は…無事惨敗
でもこれも彩花のお父さんとの約束だからな。
1位を取るためだったら寝る間を惜しんで勉強するし彩花に勝利を渡さない。
それくらいの覚悟で毎回テストに挑んでいるのだ
「…なぁ優希」
「どうしたの?」
さっきの彩花たちの会話を聞いて翔が少し嫌な顔をしながら僕に質問してきた。
「次の考査っていつだっけ」
「え〜っと…あと2週間」
「やべぇ〜!!勉強しないと!!」
「翔だって別に成績悪くないでしょ?それに今までテスト勉強なんてしたこと無かったじゃん」
そう、翔は別に勉強できない訳では無いのだ。
その根拠として特にテスト勉強をしていないのにテストで30位以内を取り続けているし点数だって悪くない。
しかし今回は何か点数を取らないといけない理由があるらしい。
「ちなみになんで勉強するの?」
「いや〜今回のテストで20位以内を取ったら年末にうちの彼女との旅行のチケットをやろうって親父に言われたんだよ」
「あ〜」
何か深刻な悩みがあるのかと思ったらやっぱりこの男、彼女のことしか頭の中に無いらしい。
「彩ちゃん教えるの上手だね!!私ずっと解けなかった問題もう解けちゃったよ!」
「これはね〜初めは勘違いしがちだけどAの公式に当てはめるんじゃなくてBの公式に当てはめるんだよ。そうするとこことここが計算できるようになるから後は答えを出すだけ」
「ほぇ〜なんか先生みたいだね!彩ちゃん先生!」
有栖さんの元気な声がしてそっちの方向を向くと彩花がアリスさんに勉強を教えていた。
なんだか気づかないうちに彩花と有栖さんがすっごく仲良くなっているようだった。
その証拠として学校内ではきっちりしたイメージを保っていた彩花の中に少しずつ素のほわ〜っとした天然彩花が紛れ込みつつある。
「ねぇ彩ちゃん!」
「ん?何?どうしたの?」
「今日の放課後彩ちゃん家に勉強しに行ってもいい?」
「え"」
…有栖さんが衝撃の一言を放った