料理を始める王女様
「よ〜し!!じゃあ料理をやっていくぞ〜!!」
現在台所にエプロンを着た彩花が立っている。
「…彩花、本当にやるの?」
「うん!もちろんやるよ!!流石に優くんに教えて貰ってお手伝いもしてもらうけどね」
前日、彩花が急に料理をしたいと言い出した。
彩花の料理は料理というより実験のような感じだ。
失敗する時は丸焦げになったりとんでもない味になったりするが、稀にすごい化学反応が起こると僕より美味しい料理を作る。
ほんとにほぼくじ引きのようなものだ。
「じゃあ今回はプリンを作ります!!」
「なんでプリン?」
「優くんがプリンとかの甘いもの好きだからだよ」
彩花の言っていた通り僕は甘いものが好きでその中でもプリンが1番好きだ。
その僕の好物を彩花が作ると言っているので僕としても嬉しいのだがスイーツを作るとなると怖い部分が少し多い。
というのも彩花のポンコツが炸裂して塩と砂糖を間違えて入れるや分量を間違えるなどを普通に起こしそうだからだ。
「…彩花、塩と砂糖を間違えて入れたりしないでね」
「ふっふっふ、優くん、そんなにベタなミスをこの私がする訳ないよ」
…と言っていたがもう結末は想像できた。
初めてからちょっとした間はだいぶ良かった。材料もしっかり測っていたし砂糖と塩を間違えなかった。
しかし、
「うぅ…優くん…材料こぼした…」
なんと完成間近になった時に材料を全てひっくり返してしまったのだ。
原因となったのは床に転がっているあの瓶だ。
彩花が買ってきたプリンに入れる予定だった果物の瓶を思いっきり踏んで漫画のように転がった。
そして彩花の腕にしっかり抱えられていた材料のボウルは空中を舞い彩花の頭の上に落ちた。
「…彩花、とりあえずお風呂に入っておいで。ここは掃除しておくから」
「…ごめんね優くん、お風呂行ってくる」
彩花は半泣きの状態でお風呂場へと向かって行った。
見事に頭上でひっくり返ったボウルの中にはもう使い物にならないベチャベチャになった材料が残っていた。
僕は床にこぼれた材料を拭き取ってから作業台を見た。
「…これはまさか」
*
「…優くんただいま」
「おかえり」
お風呂から帰ってきた彩花はやっぱり少しへこんでいる。
仕方ないと言えば仕方ないのだ、自分で材料まで買ってきてやる気満々で始めたのに結果は全部ひっくり返して終了。なんてのはやっぱり納得出来ないだろう。
「彩花、こっちにおいで」
「…どうしたの優くん」
「これ、固まったら一緒に食べよ」
「それって…プリン!?」
そう、これは彩花が作ろうとしていたプリンだ。
じゃあなぜそのプリンがここにあるのかと言うと僕が片付けている時に作業台の上に残っていたプリンの材料を見つけたのだ。
彩花はプリンを作る時にボウルの中に入っているのとは別にもうひとつの入れ物に練習用の材料を出しておいてあった。それを僕が少し改良してプリンにしたという訳だ。
流石に量などの問題もあったため増やさせてもらったが味の方は彩花の作りたかったプリンをそのまま再現出来たと自信を持って言える。
「もちろん彩花が自分で作りたかったろうけど彩花が僕の為に作ろうとしてくれたことは本当だからね、このプリン食べて機嫌直してくれる?」
「うん!」
彩花は勢いよく返事をして笑顔になった。
*
「いや〜美味しかった〜」
「味はだいぶ良かったね、後は作り方とか周辺をしっかり片付けるとかをすれば失敗しないと思うよ」
「うん!今度する時は気をつけます!」
今度は今度で別の何かをやらかしそうな気がして仕方がないが彩花が楽しそうにしているのでいい方向に上振れてくれることを祈る他無い。
まぁ彩花が笑顔になったのでそれでもうなんでもいいという事で今回の事件は解決にしよう。
「ねぇ優くん」
「ん?どうしたの?」
「どうして優くんはそんなに料理上手なの?私とは違ってレシピとか見ずに楽々こなしてる感じがして」
「そうだね〜、うちはお母さんが居なくてお父さんが頑張ってくれてたから料理僕の担当だったんだ。『1人で暮らしていくのに必要な事は自分でできるようになれ』っていうのがお父さんの教え方だったからね」
お父さんは基本的に一日中仕事をしている、為家に帰ってくるのは夜の21時を回ったくらいになるのが毎日だ。
そんなお父さんにせめてもの恩返しをしたいと思って始めたのが料理だ。
今までは夜遅くにお父さんが仕事から帰ってきてから夜ご飯を作ってくれていた。
その負担を少しでも減らすためにとしていたのだが気がつけば僕のひとつの趣味になっていた。
そしてその趣味を小学校5年生の頃から今日までほとんど毎日続けているためここまで腕が上達したのだと思う。
「やっぱり長い時間続けないといけないんだね」
「そうだね〜1回上手くいっても次上手くいくか分からない、どんなに上手な人でも失敗をする可能性が大いにあるのが料理だからね」
実際僕も料理中に失敗することはある。
しかし料理をしている人としていない人の違いはそこからどうしたらうまく巻き返せるかを思いつくかどうかだと思っている。
そう考えると彩花はまだまだ成長途中と言う感じなのかも知れない。
これから色んな料理を教えて行ったら普通に料理をすることができるようになっていったらいいなと思う。
いや…ただ僕が彩花と一緒に何か楽しめることを作りたいだけなのかもしれないな。
わっしょい