朝に弱い王女様
朝早くから2人前の朝食を用意するのが僕の日常だ。
今日はトーストと目玉焼き、サラダ、ベーコン、ミルクとなんの変哲も無い朝食である。我が家では朝は必ずトーストなので基本的にはおかずや飲み物が変わるだけである。
なぜ朝は必ずトーストなのかと言うと。
「ふわぁ〜…おはよう優くん…」
「ん、おはよう。もうすぐご飯も出来るから先に顔を洗っておいで」
「ん…」
この我が家の王女様のご要望だからだ。
彩花は寝起きがだいぶ悪い為何もしないと起きて15分程は頭がボーッとし続けたままなのだ。
彩花は夜と比べてボサついている白い髪を引き連れて洗面所へと向かった。
*
「優くん準備出来たよ!」
僕がお皿を机に置いたのと同時に制服を着た彩花が帰ってきた。
チェック柄のスカートにシャツとブレザー、そして女子はリボンとネクタイが選べるのだが彩花はリボンを付けている。理由は「可愛いから」という事らしい。
「彩花、ちょっとリボンがズレてるよ」
「え?あ!ほんとだ!優くん直して〜」
「はいはい、ちょっと待ってね」
僕は彩花のズレているリボンを直した。
「優くん!優くん!早くご飯食べよ!」
「そうだね、時間もそんなに無いし」
先に席に座った彩花が僕に向かってそう促してきた。
僕も席に座って同時に手を合わせた。
*
「おはようさん、優希」
「ん?おはよう」
自分の席で静かに本を読んでいると前から爽やかな男の声で僕の名前を呼ばれた。
声の方向を向くとそこには僕のイケメンで友達の「月城 翔」がこっちを向いて座っていた、
「そういやお前、王女様がまたイケメンの先輩に告られたらしいぞ」
「別にそんな珍しい事ではなくない?」
「告白されること自体は珍しくねぇんだけど今回はその人だよ人。なんとあの生徒会長様だってよ」
「へぇ〜また別ベクトルの有名人に告白されたんだね」
「…お前ほんとに王女様に対して全く興味無いよな」
「うん、『王女様』には特段興味は無いね」
「はぁ〜…お前の方が珍しいと思うわ」
「翔も同じだろ」
「もちろん!!俺の彼女が1番かわいい」
「朝から惚気ご馳走様でした」
「いや〜そんな褒めなくても」
「褒めてねぇ」
その後も朝のベルが鳴るまで僕は翔と雑談をしていた。
イケメンで女子からモテるがまぁこんな彼女大好き人間にそう簡単に近づくこうとする訳も無く、入学当初はかなり告白されていたが今では告白しようとする者は居ない。
*
「はいじゃあ今日の授業はここまで。来週までに出された課題と今日の授業まとめをしておくように」
授業終了のベルが鳴り先生が教室から出ていった後、僕のポケットに入っているスマートフォンが揺れた
そっと取り出し画面から見ると1件のメッセージが来ていた
送り主は「彩花」内容は「今日の帰り食材などの買い出しに行くんだけど一緒に来てくれない?」という事だった
もちろん断る理由もない為僕は「了解」のスタンプを送った。
しかし学校内で彩花に馴れ馴れしく近づくと「何だあいつは」と思われるし、周りにいる取り巻きたちに引き剥がされるので近づくことは出来ない。
なので
「優く〜ん!!おまたせ〜!!」
何故か毎回買い出しに行くだけなのにデートみたいな待ち合わせをする必要があるのだ。
もちろん彩花の人気ぶりなどを考えるとこの行動は正解だと思うが何より普通のデートの時の特別感が薄れてしまう感じがするのだ。
「えへへ〜なんだかデートみたいだね〜」
まぁ可愛いからなんでもいっか
*
「ねぇ確かみりんが切れてるんだよね?」
「そうだね、みりんと醤油が無いから買ってかなきゃね」
「分かった!!」
そう言うと彩花は調味料コーナーの方へ走っていった。
あの光景を見ると本当に買い物のお手伝いをしている小さい子供のようにしか見えない。
「醤油とみりん持ってきたよ〜!!」
前の方から醤油とみりんのボトルを抱えた彩花が歩いてきた
あのボトルはどちらともまあまあな重さがあるのでコケないか心配していたがそんなに心配する必要も無かったようだ
と思っていたその瞬間、彩花は思いっきり躓いてコケた
…やはり期待を裏切ってこないなと思った。
「ほら彩花大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。怪我も多分してないと思う」
僕が手を差し出すと彩花はその手を掴んで立ち上がった。
彩花はスカートのゴミを払い僕の隣に来た。
「なんだか今の私たち新婚さんみたいに見えてるのかな」
「どっちとも制服着てるし兄弟か恋人じゃない?」
「まぁ将来的には新婚さんになる予定なので」
彩花はそう言って僕の顔を覗き込んで笑った。
*
買い出しが終わり僕と彩花は家に帰ってきていた。
流石に1週間分の食材を買ってくるとなるとかなりの重量になる。それも調味料があるとなると普段と比べても重たい。
「今日の夜ご飯は何を作るの?」
彩花は台所の前のカウンターに腕をかけて僕の料理の光景を眺めていた。
「今日は彩花の好きな肉じゃがにしようかなって」
「肉じゃが!!やったぁ!!」
彩花は肉じゃがが好きな料理であり1週間に1度は作っている。じゃがいもがホロホロな物が好きなのでその要望に沿うように彩花の実家からのレシピを再現したのだ。
今も僕の目の前で目をキラキラさせながら完成を待っている。
「ご飯はまだまだ時間がかかるからゆっくりしててね」
「は〜い」
そう言って彩花は机を拭いて箸を出してからテレビの電源をつけた。
「そういえばね優くん」
「ん?どうしたの?」
「私料理できるようになりたい」
…とてつもない一言が彩花の口から放たれた。
料理って案外簡単で楽しいんですよね
ちなみにこのお話に書いてあることは基本的に恋人にしてもらいたいことなどをそのまま書いています