美しくて可愛い王女様
うちの家には王女様が居る。
まぁ王女様と言っても本当に1国の王女様という訳では無い。
「白雪さんおはようございます」
「おはようございます。皆さん」
クラスの女子達からの挨拶に鮮やかな礼儀で返したこの美少女は「白雪 彩花」
運動神経抜群、学力テストは常に上位、容姿端麗、それでもって性格も良くどんな生徒にも優しく平等に接する誰もが羨む完璧な美少女だ。
真っ白の雪のような髪に空のように透き通った水色の目、陶器のように毛穴ひとつ無い白い肌は本当に自分と同じ人間なのか疑う程でまるで人形かと思ってしまうくらい綺麗だ。
椅子に座れば女子に囲まれ外を歩けば通りすがりの人がみんな振り向く。どっかで見た事のある「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言葉をそのまま具現化したような人物だ。
もちろん男子生徒達にはものすごくモテる為入学してまだ半年程だが同級生の1/2程が告白し撃沈している。
中にはイケメンモデルやバスケ部の有名な選手等も居たが揃いも揃って「すみません、貴方に興味が無いので」の一言でキッパリ断られているそうだ。
そんな彩花は外で見せている姿と家の中での姿は似ても似つかない程ギャップがある。
学校などでは優しく清楚な完全完璧な王女様というイメージだが家の中ではほけ〜として天然な甘えん坊の王女様という感じだ。
何故僕がこんな王女様の事を知っているのかというと。
「優く〜ん!おかえり〜!!」
僕はこの甘えん坊の王女様と「同棲」しているからだ。
*
「優く〜ん、甘やかして〜」
今僕の膝の上でごろごろしているのがあの王女様だ。
彩花は学校で見せている優雅なイメージは一体どこに行ったのかと思うくらいの甘えん坊化をしている。
というか本当の彩花の人格はこちらの方なのだ。
入学式の日、緊張のし過ぎで話しかけてくる人達にお嬢様言葉で話しかけてしまいそこからあれよあれよという間に「白雪 彩花=綺麗で優雅なお嬢様」というイメージが付いてしまったのだが、なんだかんだ便利な立場の為そのままにしている。
「彩花、今寝ちゃったら夜寝られなくなっちゃうよ。ほら、起きて」
「ん〜」
僕が彩花を起こそうとすると彩花は両手を上に突き出して僕の方をじっと見てきた。これは「抱き起こして欲しい」という合図だ。
僕は王女様のご要望の通りに彩花の背中を両手で抱えて引き起こす、彩花は自分の両手を僕の首の裏に回した。
「ふふ〜捕まえた〜」
彩花は目をふにゃとさせながら僕の方を見ていた。
何だこの可愛い生物一生幸せにしてやりたい…
しかし僕は心を鬼にして彩花を離した。
「ほら彩花、また明日も学校があるんだからお風呂に入ってきなさい」
「ん〜分かった〜」
彩花は頬を膨らませ少し不機嫌になりながらリビングの扉から出てお風呂場へと向かって行った。
僕はそんな彩花を見送ってから台所に行き、溜まっている皿を洗い始めた。
うちでは家事を当番制にしているのだが何しろ彩花は料理が出来ない、それ以外の洗濯、掃除、買い物などは出来るのだが何故か料理だけは出来ないのである。
教えた通りに作っても何故かダークマターが出来上がったりベタな砂糖と塩から醤油とコーヒーを間違えるなどとポンコツ具合が分かりやすく出てくる。
この間なんて「肉じゃがを作る!!」と意気込んでいたのだがじゃがいもを切るという初手の段階で指を切り即刻中止させた。
普段は料理は僕が、そして洗濯、掃除、買い物は1日おきや1回おきに交代という形にしている。
全部僕がやると初めの時に提案したのだが彩花が「優くんの負担が大き過ぎるから私にできることはする!!」と言われた為こういう風になったのだ。
*
「優く〜ん出たよ〜」
「はいおかえり」
僕がソファに座ってテレビを見ていると彩花がお風呂から上がってリビングに帰ってきた。
いつも通りのダボッとした大きい半袖のシャツに短パンという明らかにパジャマだと判断できる格好で僕の方に駆け寄ってきて僕の横に座って来るとドライヤーを取り出してきた。
「優くん、髪の毛乾かして」
「はいはい、じゃあちょっと向こう向いててね」
「ん」
普段から僕はお風呂上がりの彩花の髪を乾かしている。
彩花に聞くと「めんどくさいんじゃなくて優くんに乾かしてもらうのが気持ちいいから」と言っていた。
毎日乾かしていても「やっぱり綺麗な髪の毛だな」と毎日思う。オイルとトリートメントを付けているのかサラサラで柑橘系のいい匂いがする。
僕が乾かし終わった彩花の髪の毛を触っていると彩花が不思議そうにこちらを向いてきた。
「私の髪の毛いじいじしてどうかしたの?」
「ううん、やっぱり綺麗な髪だな〜って思って」
「毎日頑張ってお手入れしていますから」
彩花は僕が髪の毛を褒めるとドヤっとした表情をしていた。
本当にこういう所は子供っぽいと言うか…
髪の毛を乾かし終えた彩花は体勢を変えるように立ち上がって僕に深く寄りかかる感じに座り直した。そして僕の肩にスリスリさせながらこっちを向いた。
「今日はあんまり相手を傷つけずに告白断れた気がする!褒めて!」
「偉いね、よく頑張った」
「えへへ〜」
僕が褒めて頭を撫でると彩花は溶けたような顔をして喜んでいた。外では孤高の猫、家では甘えん坊の犬っていう感じで不思議と彩花に犬耳とブンブン降っているしっぽが見えてきた気がする。
「じゃあ彩花、もうすぐ23時だから寝よっか」
「うん、分かった〜。今日こそは一緒に寝る?」
「同棲はそこら辺の線を超えないっていう約束で許されたんでしょ?今は守らなくちゃ」
「むぅ〜、私が良いって言ってるから良いじゃん…」
「彩花のお父さんに「守る」って言ったからね。こればっかりは仕方がない」
「…分かったよ、じゃあまたあしたね」
「うん、おやすみ」
そう言って僕たちは各自の寝室に入っていった。
これは僕と王女様との同棲のお話である。
また懲りずに新作です
基本的に書きたい感じの話と逸れてきたら即ボツです
どれだけ見てくださってもボツです