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パッカー車の襲撃  作者: 比留間大五郎
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パッカー車の襲撃 その5 大和田所長 男の花道

1時間を待つことなく、大方の議員は本会議場から退出した。

 壇上の男が叫ぶ。

「国会中継をご覧の皆さん、これが彼らの実態です。こんな彼らに国政を任せられません」


警備部長が若干余裕が出て来たのか、「奴らがやっていることだって、全くのパフォーマンスじゃないか。あんな辞職願い、なんの意味もない。これで本当に辞職する議員がいたら大したものだ」と言う。

 副総監が、「脅されて書いた辞職願いは、法的効果全くなし、第一、あの辞職願書だって奴らが勝手に作った様式だ」

 刑事部長が、「要するに無様な国会議員の様子を国会中継で国民に見せたかっただけだ」と言う。

大石を囲んだ面々にも少し余裕が出て来たようだ。しかし、これから彼らはどうしようというのだ。


最後の最後に残ったのは、総理だった。これも当然と言えば当然と言えた。総理もこれで面目は保たれた、と言う様子で議長席の辞職願書を手にして署名捺印した。そして、総理は議場からゆっくり退出した。


総合指揮所のモニターを見ると、議場から出て来た議員達は議員会館へ足早に向かって行くようだった。最後に退場した総理は、SPもなく秘書官に守られながら官邸に向かった。

NHKを見ると、議場の男たちは議長席に集まった。猟銃はすべて議長の机の上に集められた。


「さあ、これで猿芝居は終わりです。我々は潔く縛につきます。皆さん、こんなことくらいでは、日本は変わらないでしょう。ただ、皆さん考えてください。

議員たちはスキャンダルを週刊誌から取り上げて騒ぐだけ。

テレビは朝から晩まで、視聴率稼ぎの人のあら探し、スキャンダル探し、発言の一部を取り上げての吊るしあげ、防犯カメラの車と車がぶつかるシーンや、強盗が金庫を叩き割るシーンなどショッキング映像でCMに繋げる、こんなのを見て育つ子供が可哀そうだ。

骨のある日本を取り戻そうではありませんか。

仕事から帰って来たお父さんを家族一緒に出迎え、みんなで夕食の膳を囲む、こんな昔の良き日本に帰ろうではありませんか」


 総監が、「トーンが変わって来たな」と言う。

 警備部長が、「こんな時に言う言葉じゃないが、しんみりするな」


男たちは行進をするように列を作って議場出口に向かった。


― 奥多摩分所から警備1 宛て これで猿芝居は終了だ ―

 パソコンの奥多摩分所の画面を見ると、金田他2人の男がそれぞれ猟銃を所長席後ろのの窓から外へ放り投げて、大和田所長をパイプ椅子に縛り付けていたロープをほどいている。


― 警備1から五機1中隊長及び麹町 国会に突入して奴らを検挙だ ―

 五機1中隊長率いる40名の隊員が南門から駆け足で突入した。そこへ男6人は両手を上げて、抵抗することなく、あっさりと検挙された。


― 警備1から奥多摩分所1号宛て、3人組は銃を窓から捨てた、突入検挙せよ ―


 SATもSITも突入した。これも全く抵抗することなく、あっさりと縛についた。

 3人組がパトカーで護送された後、飯島警部補と足立巡査部長が分所に入ると、大和田所長は、所長席で煙草を吸っていた。

「室内で煙草を吸っちゃダメでしょう」足立巡査部長が言うと、

「今日は非常時だから、大目に見てよ」大和田所長は、何事も無かったように言う。

「所長、御無事で何よりです」飯島警部補が言うと、

「良かったんだか、悪かったんだか」

「来月の定年退職の花道を飾りましたね」足立巡査部長が煙草の煙を手でパタパタして追い払うようにして言う。

「花道だか、なんだか」

 大和田は、大きく煙を吐きながら言った。

「奴らは何だったのだ。こんなちゃちな結末のために、俺様をパイプ椅子に縛り付けおって、五十肩が、またぶり返しちゃったよ」

 飯島警部補が、

「意味も効果もない議員辞職願を粛々と書いた議員も、何なのかね。一人ぐらい、パフォーマンスでいいから、奴らの襟首を掴みかかるとか、する議員はいなかったね」

 足立巡査部長が言う。

「そんな議員がいたら、金のかからない最大効果を上げる選挙運動になったのに」

 大和田は、

「こんな結末は、最初から分かっていたことなのに、奴らは国会中継のNHKテレビに出演して議員達を本会議場から追い出した、これで満足しているのかな」

 足立巡査部長が言う、

「考えてみればこの事件の主役は犯人の金田と大石警備一課長と、それに大和田所長だったんですね、大和田所長、やっぱり男の花道ですね」

 大和田所長はそれには答えず、

「そう言えば、今日2月28日は、あさま山荘事件が解決した日だった」

 奥多摩の町には小雪がちらつき始めた。


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