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パッカー車の襲撃  作者: 比留間大五郎
3/5

パッカー車の襲撃 その3 所長と警備一課長

「君が大石警備一課長の知り合いとは驚いたな、やはりOBだったか」大和田が言うと、ノッポの金田は無言だった。 


10:00 奥多摩分所の周囲は人っ子一人いなくなった。時折、ヘリコプターが飛ぶ。

― 奥多摩分所から警備1 ―

― 警備1です どうぞ ―

― ヘリ が飛んでるぞ マスコミだろうが すぐに遠ざけろ 広報課長をやったこともあるんだから簡単だろう  どうぞ ―

― 警備1 了解 ―

― 大石君 君から命令して 大和田所長のパソコンと警備一課のパソコンを繋いでほしい。それからテレビ電話方式にして こちらの状況を見せたい どうぞ ―

― 了解した ―


10分ほどすると、警備一課のパソコンに所長室の画像が入って来た。大和田所長はパイプ椅子にロープで縛りつけられている。ノッポの金田なる男が、大和田に銃を突き付けている。

逆に奥多摩分所のパソコンには、大石の緊張した顔が映っている。

 大石君も年をとったな、大和田は画面を見ながらそう思った。大和田所長は警備一課長の大石を知っていた。20年ほど前になるだろうか。大石は警察庁入庁後間もなくして、大和田が当時勤務する神田警察署にやって来た。ノンキャリの警察官は巡査からスタートするが、大石はキャリアだから警部補からスタートして、警ら課(地域課)係長として所轄の実体験をすることになったのだ。

 その指導に当たったのが、当時、警ら総務係長だった大和田だった。慣れてきたころ勤務終了後に赤ちょうちんで二人で飲んだことがあった。酔いが回ってきたころ、大石は演説を始めた。

「大和田さん、なぜ、日本の警察は銃を撃つことに戸惑うのでしょうかね。60年代や70年代の極左が、投石、火炎瓶、鉄パイプで機動隊を殺そうとしても、放水とガス銃で対処するだけ。

極左の騒動が一段落したとき、日本警察は1発の銃を撃つこともなく、完全にこれを取り押さえた、とある警察官僚が自慢していたが、それは違うでしょう。

 その陰には、大勢の機動隊員が負傷したり、死んだりしたんですよ。銃を使っていれば、機動隊員がケガをしたり死んだりすることはなかったんですよ。

 私が機動隊長だったら、銃を撃つことを許可しないならば、機動隊は出動せず、と宣言するんですがね」

「若いあなたがそんなことを言うとは驚いたな。俺も同感だが決して公言しない方がいいですよ。事なかれ主義の官僚に睨まれますよ」

「実は大和田さん、私の叔父が青森県警で機動隊をやっていた時、大学紛争の60年代の頃でした。田舎の青森でも大学紛争があったのですよ。

その叔父が半殺しの目にあったことがありました。拳銃を撃とうにも機動隊員には拳銃携帯が許されていなかったから、やられるだけ、おかげで叔父は半身不随となって、寝たままとなり、私が大学に入った時、亡くなりました」

「そんなことがあったのですか。当時は反権力の気分が蔓延していましたからね、ガス銃を撃つのが精一杯で、拳銃1発でも撃ったら政府が倒れる時代でした」

「大和田さん、警察って何なんでしょうかね、時の政府にべったりはまずいでしょう。警察が守るべきものは市民であって、政府を守るためにあるのではない」

「同感です」

「世間を知らぬ、青二才の独り言と思ってください」


 大和田と大石に相通ずるものがあった。大石とはその後、年賀状のやりとりをする程度の付き合いだったが、3年前の年賀状に大和田はこう添え書きをした。

「私も、定年退職を3年後に控えて、やっとショチョウになりました。署長ではなく、所長ですがね。総監になったら、ためらわず銃を撃つ警視庁にして、部下を守ってください」


― 奥多摩分所から警備1 ―

― 警備1です どうぞ ―

― これで所長 絶対絶命の危機は わかってもらえたと思う これからある事案が起きるが警察はこれに手を付けぬように どうぞ ―

― 何をしようとしているんだ とにかく、これでテレビ電話もつながったから、後のやりとりはテレビ電話にしよう どうぞ ―

― それはだめだ、警視庁4万の警察官が耳をそばだてて聞いているこの無線機でやりとりをする どうぞ ― 


膠着状態が続いた。SATも捜査一課のSITも奥多摩分所を遠巻きにしているが、なにせ一歩も近づくことができない。

裏の崖から降りて突入も考えられたが昼間は無理だ。捜査一課特殊班の新井管理官は、奥多摩分所長には悪いが、人質は民間人ではないことから時を待とうと思った。


膠着状態のまま、13:00 


― 奥多摩分所から警備1 ―

― 警備1です どうぞ ―

― 大石警備一課長に告げる 要求のその2 まず、無線を現在使っている9方面系と1方面系(麹町署、丸の内署などがある都心部を管轄する無線系統)をリンクしろ。


― 警視庁から各局 現在時から 9方面系と1方面系をリンクする 以上警視庁

 ―


― 奥多摩分所から警備1 ―

― 警備1 大石です どうぞ ―

― 名前まで申告してくれてありがとう それでは本題に入る 国会構内にいる警察官を今すぐに すべて退散させろ 待機している機動隊員、正門など各門に配置している警察官、SP、警察官すべては国会議事堂、国会構内から消えろ。

そうは言っても、私服もいるからすべて退散したとは 残念ながら 確認はできないが警察官であることが判明次第 奥多摩分所長 を殺す ―

― そんなことできる訳ないだろう、今は本会議が始まったところだ ―

― 国会の様子は、仲間によりすべて把握している ―


 金田は持ってきたパソコンを開いている。


― 嘘だと思うだろう 嘘ではない証拠に国会正門前に止まった観光バスから降りて来た小学生の女の子が転んだろう すべてはお見通しだ ―


大石警備一課長はじめ、警備一課員は16階の大部屋から、17階の総合指揮所(大警備などの指揮所で、都内各箇所の状況もモニターで見ることができる)に移動していた。

国会正門前のモニターを見ると、まさしくそのとおりだった。


― 大石君 俺は俺のパソコンで、仲間が送る国会周辺や内部の画像を見ているから、下手な手出しは禁物だよ ―



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