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パッカー車の襲撃  作者: 比留間大五郎
2/5

パッカー車の襲撃 その2 所長 人質となる

「最近の清掃業者は、猟銃を持つようになったのかい」

大和田所長も、この期に及んでも落ち着いていた。かえって若い飯島警部補が立ち上がろうとして、腰を抜かしたように椅子に座り込んだ。

「両手を上げろ」

「上げなかったらどうするの」足立巡査部長が、ドスの効いた声で言う。

「殺すだけだ」

 大和田所長は、

「そうかい、殺すなら殺せよ、女房は2年前にガンで死んだし、この春に定年退職、いつでも殺されて、いいよ。

最近、毎日、朝になったら死にたくなるんだよ、これ、鬱病かな」

飯島警部補が、少し落ち着いたのか、

「へー、そうなんですか、そうは見えませんがね」と言う。

「首を吊ろうと思う時もあるけど、首吊りは、第一発見者に多大の恐怖を与えるからな、申し訳なくて」


銃を構えて入って来た3人の男は、共に清掃員の作業着姿だったが、髪がボサボサというわけでもなく、肌も汚れた感じがしない、サラリーマンが似合う風情だった。

3人の中で1番背が高い男は、猟銃の他にパソコンも持っていた。180センチはあろうか、やせぎすで背ばかりが高いからトンボ鉛筆のようだ、その男は40歳代と見えたが、他の2名は20歳代のお兄ちゃんだった。

明らかにリーダー格のトンボ鉛筆のノッポが、

「おまえら3人共、手を上げて奥の部屋に入れ」

と1階事務所の奥にある所長室を銃で指差す。

この奥多摩分所は1階が事務所と所長室、2階が休憩室とシャワールームの至って小さな作り、交番を少し大きくしたようなものである。

大和田らは手を上げながら所長室に入って行った。

男たちは、入ると所長室のドアの鍵を閉め、ブラインドを下ろした。

外からは見通しが効かなくなった。

足立巡査部長が言う、

「あんたたちも考えたね、パッカー車だったら検問受けても、中身は見られないからね」

ノッポの男が、

「ババアは、うるさいんだよ、少しは怖がれよ」

「御生憎様、この年になったら、キャーキャー騒いでいられないよ」

「もう手を降ろしてもいいかな、最近、五十肩で痛くてな、いや六十肩か」

 大和田は両手を降ろした。飯島警部補と足立巡査部長も手を降ろした。

 ノッポの男は、それに対して何も言わなかったが、

「よし、ババアとお前は開放する、この建物から出て行け」

ノッポは、銃で足立巡査部長と飯島警部補を指した。

「俺は残るよ、所長を残して退散できるわけないだろう」

所長に銃を突き付けて、「ぐちゃぐちゃ、余計なことを言うな、言われた通りにしろ」

ノッポは怒鳴った。人質達の予想に反した言動や行動にイラついているようだ。

「それじゃ、仰せの通りにしますか」と言って、足立巡査部長が先に所長室を出て行った。

「準備ができ次第、必ず所長を救出に来ますから、待っていてくださいよ」

飯島警部補は、そう言うと足立巡査部長に続いて所長室から出て行ったが、2人とも所内でウロウロしていた。立ち去りがたいようだった。

そんな2人に、

「お前たち、所内から出て行くんだよ」

 所内でウロウロしている2人に追い打ちをかけた。

「前の道路まで出て、門扉を閉めろ、その内、パトカーで所員が帰って来るだろうが、敷地には一切入らないように、みんなに言っておけ」

 ノッポは怒鳴った。普通、開放された人質は、真っ先に逃げて行くのだが、この2人は違った。警察官だからだろうか、それとも個人的な性格か、ノッポは苛立っていた。

 喋ったり怒ったりするのはノッポ1人だった。他の2人は無言である。ノッポは2人の内の1人に、顎で2階を指した。その1人は2階の休憩室に上がって外を見張る。

「座っていいかな」

 と言いながら、大和田が所長席のデスクの椅子に座ろうとすると、

「そこは俺が座る」

 大和田は仕方なく窓側のパイプ椅子に座り込んだ。1人が大和田に銃を突き付けている。 

ノッポは所長の机の上にある無線機のスイッチを入れた。


―  8:50 警視庁から各局 あきる野市秋川で発生した銃砲店襲撃事件により、7:20から30キロ圏配備を実施中のところ、被疑者未検挙のまま解除する  ―


 ノッポは所長に銃を突き付けながら、無線機のマイクを握る。

― 奥多摩分所から警視庁 ―

― 奥多摩分所どうぞ ―

― 無駄な緊急配備 永らくご苦労さんでした。ちょっとお願いがあるんだけど、警備1(警備一課)に、この9方面系(多摩西部を管轄する現在の無線系統)に開局するように言ってくれないかな どうぞ ―

― 君は誰だ、いたずらはよせ、官職氏名を名乗れ どうぞ ―

― 官職氏名なんかないよ 名無しの権兵衛とは俺のことか どうぞ ―

― 名も無きものの要求には応じられぬ どうぞ ―

― もう少し待てばわかるさ ―


「君は警察無線マニアか、しかし、近ごろはデジタルで一般人には聞けないが、そうか、警察OBだな」

 ノッポは無言だった。

 2階にいる男が降りてきて、パトカーが2台が帰ってきた、と報告した。

 緊急配備を終えて戻ってきた分所のパトカーに、門の前で待っていた飯島警部補と足立巡査部長が駆け寄って事情を説明している。


― 奥多摩分所1(奥多摩分所パトカー1号)から警視庁 ―

― 奥多摩分所1 どうぞ ―

― 奥多摩分所の大和田所長が猟銃を持った3人組の男に所長室に閉じ込められたもよう。人質となっているもようです どうぞ ―

― 奥多摩分所1号に確認する 所長室には無線機がありますか どうぞ ―

― 所長の机の上にあります どうぞ ―

― 警視庁了解 先ほどマルヒらしき者からの通話あり ―

― 警視庁から奥多摩分所 ―

― 奥多摩分所だ 事情が呑み込めたようだな どうぞ ―

― 君の要求を入れることにする どうぞ ―


しばらくしてから

― 警備1から警視庁 ―

― 警備1 どうぞ ―

― 本事案につき、9方面系にて開局した どうぞ ―

― 警視庁了解 ―

― 警備1から奥多摩分所 ―

― 奥多摩分所だ 警備一課長を この無線機に出せ ―


しばらく間が空いた。


― 私は警備一課の理事官の長谷部だ 私が対応する どうぞ ―

― 理事官じゃだめだ 俺は一課長と話したいのだ。同期のよしみで、じっくり話したい ―


またしばらく間が空いた。


― 警備一課長の大石だ、君は誰だ どうぞ ―

― 金田だよ 君と一緒に警察庁に入庁した同期の金田だよ 思いだしてくれたか どうぞ ―

― 覚えているよ 青森生まれの金田君だな どうぞ ―

― 君は俺みたいな ぼんくらとちがって優秀だったからな 機動隊長や広報課長を経て今じゃ 天下の警備一課長だ すぐに警備部長、警視総監か 目出度いことだ どうぞ

― 君の要求はなんだ 所長を人質にとって 何を企んでいるのだ この無線で会話するのは辞めよう 無線系統を私物化はできない なんなら携帯の番号を教えるから 携帯で話そう どうぞ ―

― それはダメだ。あくまでも無線を使って 公明正大にやる どうぞ ―

― 何が公明正大だ 公明正大が聞いて呆れるよ どうぞ ―

― 俺が要求したいこと その1 警察官・マスコミは総て この分所から100メートル以上離れろ、要求を無視して近づいた場合は 容赦なく所長を殺す その2以降の要求は、これからわかる どうぞ ―


町の災害無線スピーカーから住民への避難命令が出された。

氷川の住民の皆さん 奥多摩分所に猟銃を持った男3人が所長を人質に取って立てこもっています。皆さんは直ちに氷川小学校に避難してください。消防団員が誘導に当たります。


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