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パッカー車の襲撃  作者: 比留間大五郎
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奥多摩分所 所長の大和田は

団塊の世代 敗戦後の1947年から1950年に生まれた人々を言うらしいが、その世代の最終ランナーが60歳となり定年退職した頃の話しである。

時は、東日本大震災の年、2011年2月28日、立川の昭和記念公園の東に位置する警視庁多摩総合庁舎の通信指令本部多摩センターで、重要事案を知らせる赤ランプが点滅した。


7:10  

― 警視庁(通信指令本部)から各局 福生(警察署)管内 銃砲店からの非常通報、現場はあきる野市秋川1-1-1「曙銃砲店」

近い局どうぞ ―

― 福生2(パトカー福生警察署2号)は福生駅から向かう どうぞ ―

― 福生2は福生駅から 警視庁了解 他にないか どうぞ ―

― 機捜(機動捜査隊)45から警視庁 ―

― 機捜45 どうぞ ―

― 機捜45は福生分駐所から向かう どうぞ ―

― 警視庁了解 警視庁から福生(福生署の無線機) ― 

― 福生です どうぞ ―

― 専務幹部(捜査等)も合わせて出向されたい どうぞ ―

― 福生了解 捜査 山本係長以下 出向準備中 どうぞ ―

― 捜査山本係長が出向予定 警視庁了解 

― 福生3から警視庁 ―

― 福生3どうぞ ―

― 福生3は待機中のところPS(署)から出向 どうぞ―

― 警視庁了解 福生3はPSから了解 ―


― 警視庁から現場に向かっている各局に指示する。現場は銃砲店であるところから、カー(パトカー)を降りる前に必ず積載の銃弾防護衣の着装、盾の携行を願いたい 受傷事故防止に万全を期されたい 以上警視庁 ―


― 福生2 現着 どうぞ ―

― 福生2 現着 7時16分 警視庁了解― 

― 至急、至急 福生2から警視庁 ―

― 至急、至急、福生2どうぞ ―

― 銃砲店裏口が開放状態、店内には、警備員と思慮される男1名が、両手両足を縛られ猿ぐつわをかまされて倒れている。意識あり、ケガなし 事情聴取中 どうぞ ―

― 警視庁から福生2宛て 銃が強奪されたのか この点 至急 報告されたい どうぞ ―

― 散弾銃が3丁 強奪されたもよう、警備員の話によると、インターホンで届け物というから、裏口を開けたら、いきなり男がサバイバルナイフを突きつけて、銃を3丁よこせと言われ、散弾銃3丁を保管金庫から出して渡した、その隙に、カウンターの下の非常通報ボタンを押した どうぞ ―

― 警視庁了解 マルヒ(被疑者)の人着 逃走方向 を送れ どうぞ ―

― マルヒは 2人組の20歳代の男、逃走方向、手段、不明 どうぞ ―


― 警視庁了解、警視庁から各局 7:22 現時点をもって、あきる野市秋川1丁目を中心とした30キロ圏配備(30キロを範囲とした緊急配備)を実施する。―


― 警視庁から福生2 ―

― 福生2です どうぞ ―

― 店内の防犯カメラ は如何どうぞ ―

― 店内に2台、店外に2台あり どうぞ ―

― それでは至急 解析を願いたい どうぞ ―

― 現在、専務と機捜で 扱い中 どうぞ ―

― 警視庁了解 ―


― 福生2から警視庁 ―

― 福生2 どうぞ ―

― 店内の防犯カメラで、マルヒを確認 2名共に黒の目だし帽、衣服は上下黒のジャージようのもの、靴はスニーカー

なお、店舗正面と裏口のカメラ 裏口からマルヒが駆け足で逃走するのが映っているが、以後の足取りは掴めず 以上 どうぞ ―


― 警視庁了解 警視庁から 緊急配備従事中の各警戒員に連絡する。

これまでの状況は傍受のとおりである 逃走車両は判明せず。

なおマルヒらは当然、着替えている可能性もあることから、検問にあっては服装にとらわれることなく、徹底した車内検索を実施せよ。

なお、猟銃を所持していることから、検問に当たっては、いつでも拳銃を取り出せる体制を保持すること。

なお、検索員とは別に全体を観察する責任者を必ず置いて、受傷事故防止に万全を期されたい。 以上警視庁 ―



ここは東京の片田舎、奥多摩町所在の警視庁青梅警察署の分所、「奥多摩分所」、大和田所長以下15名の体制である。

奥多摩駅から徒歩15分のところにある。目の前は多摩川の渓谷、裏は崖、崖の上は林の風景である。至って田舎の風景。

大和田所長は近くの公舎から8:20に分所入りした。

事務所には当直明けの飯島警部補と女性警察官の足立巡査部長がいるばかりだった。飯島警部補が報告する。

「所長、7時過ぎに秋川で銃砲店襲撃事件がありましてね、猟銃3丁が強奪されたもようです。30キロ圏配備がかかりまして、当所もギリギリで引っかかって、明けも 出勤してきた当番員も全員出払っています」

団塊世代の最終ランナー、この春に定年退職を迎える大和田所長は、自慢のグレーのふさふさした髪をかきあげて、

「そりゃ大変だ、大事にならなければいいが、猟銃強奪はこれから起こることが心配だな」

 飯島警部補が無線機を前にして、

「逃走車両は取れていません」と言う。

 大和田は事務所の机に広げられた朝刊を手にしながら言う。

「大相撲八百長問題か、いいじゃないか、大相撲は興行の一種だよ、面白ければ、誰に被害が及ぶって言うわけじゃないよ」

 40歳を過ぎたばかりの飯島警部補が、

「所長、八百長はやっぱりまずいでしょう、見ていて面白くなくなりますよ」

「それは、八百長を知っているからだろう。八百長をわざわざ公言するから、こういうことになるんだ、見ていて面白ければいいじゃないか」

「そんなもんですかね」

 飯島警部補は納得できないようだった。

「俺のように還暦を過ぎれば、君も俺のように考えるかもしれんぞ、それは、ともかく、飯島係長は真岡の銃砲店襲撃事件を知っているか」

飯島警部補は大和田の問いかけにキョトンとしている。

「たしか、1971年だったかな、俺が上赤塚の交番に立っていたころだった。栃木県の真岡の銃砲店襲撃事件、極左の犯行だった」

「私が生まれた年ですね、警察学校で教わったような気もしますが」

「そんな昔になるのか。それでは、あさま山荘事件は君でも知っているよな、そこの銃砲店で強奪された猟銃が使われたんだ、そんな事件に発展しなければいいが」

「そうなんですか、今、明けと出勤してきた所員で奥多摩駅前の青梅街道で検問中ですが、さすがに、こんな田舎まで来ないでしょうが」

「油断は禁物だよ、あさま山荘も山の中だった」


女性警察官の足立巡査部長も大和田所長と同じく還暦を迎え、この春に定年退職だ。足立巡査部長が、大和田と飯島にお茶を差し出しながら、

「あれは、真岡の事件は、京浜安保共闘でしたかね」

「足立長(巡査部長)さんは詳しいね」と大和田が言うと、

「今じゃ、山奥の分所でお茶くみをしていますが、これでも当時は公安の女性刑事でしたからね、と言っても、お茶くみだけでしたがね」

「そうかい、あのころはお互いに大変だったよな。60年代や70年代は、今から思えば考えられないような時代だった。極左が次々とどえらいことをやっていた時代だった。

1970年当時、私は志村署勤務でね、独身寮で寝ていたら深夜、非常招集がかかった。上赤塚交番が襲われたということだった。後から聞いてみれば、3人組が鉛入りのゴムホースを武器にして拳銃強奪を図ったが、警察官が射殺したんだ」

飯島警部補が言う。

「今じゃ考えられない事件ですよね。今でも交番襲撃事件はあることはあるけど、自殺志願者だったり、その程度のものですね」

 足立巡査部長が言う。

「新宿追分交番でクリスマスツリー爆弾が爆発して警察官が片足切断したのは、1971年でしたかね。四谷署の特捜本部に応援に行きましたよ、お茶くみでね。それから、当時の警視庁土田警務部長の私邸に送られた小包みが爆発して奥さんが爆死したり」

 大和田は、腕を組みながら、

「当時は、毎日、毎日、どこかで極左が騒いだり、人を殺していた、大相撲の八百長問題とは、平和な時代になったものだ」

足立巡査部長が、

「爆死した奥さんは可哀そうだったな、奥さんに何の関係があるって言うのよ、土田さんがテレビで、君たちは卑怯だ、って痛切にコメントしていましたね」

大和田は茶を一口すすると、

「俺とか、足立(巡査部長)長さん団塊世代は、大変な、と言うか、奇妙な激烈な時代を体験したね」

と感慨深げだった。

若い飯島警部補が、

「さすがに、今、この時代に、極左のゲリラでもないでしょうがね」

と言う。

「銀行強盗でもやる気なのか」

大和田は、嫌な予感がした。


8:30 始業開始のチャイムが鳴ると同時に、ゴミ収集車のパッカー車が入って来た。

「今日は早いわね、ちょっと立ち会ってきます」

足立巡査部長が、裏のゴミ収納庫へ歩いていった。パッカー車の運転手に、

「今日は3人も乗っているの」

と言いながら、ゴミ収納庫の扉を開けようとすると、背中にコツンと何かがぶつかった。振り返ると、コツンと当たったのは猟銃だった。猟銃を突きつけられている。作業服を着た男3人はそれぞれ猟銃を構えている。

「あんたたち、なによ」

「ババア、騒ぐな、おとなしくしろ」

「ババアとは、聞き捨てられないね、セクハラだよ」

足立巡査部長は警察官生活40年のベテラン、それに知る人ぞ知る剣道5段の猛者、おんなだてらに気が強い。

男たち3人は、銃を足立巡査部長に突きつけながら所内に入って来た。



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