ナニカ
三題噺もどき―にひゃくにじゅうさん。
陽が落ちて。
月が昇り。
煌々と地面を照らしている。
心もとない街灯が、チカチカとあたりを照らしていた。
「……ねぇ」
「なに?」
「やっぱ帰らない?」
「え~ここまで来て?」
「……」
「…ってか寒っ」
ぶるりと震える体を、自らの腕で抱きしめながら、無意味にその身をさすっている。
冷えすぎて、鼻の頭が痛い。というか、普通に風邪気味なのかむずむずしてきた。
「……はぁ」
お人よしもいいところだと、自分に嫌気がさしてきた。
こんな奴についてくる自分が嫌で仕方ない。
すぐにでも放っておいて、帰りたいぐらいなのだが。それができないあたり、ホントにめんどうな奴になってしまったと、自分の変遷が憎くてならない。
それでも自分なのだからと割り切れるほど、大人になってはいない。
「……」
びゅうと吹く、寒風にさらに体感温度は下がっていく。
ただでさえ、暖かな陽の落ちた夜の時間だ。こんな時間に外に出るものではない。ましてやこんな季節で。
「とりあえずいこ~」
「……ん」
このまま寒い外に居続けるよりは、今回の目的である室内にさっさと入ることにした方がいいだろう。もう、帰ることは諦めた。
「……」
目の前にあるのは、小学校の小さな門。
その横にある、低めのフェンスを乗り越え、校内に入り込む。
ここを出てから、二度と来ることはないと思っていたが……。まさか、こんな形で再来することになるとは、誰が思うだろう。
「……」
噂好きの相方が、どこかでこんなうわさを聞き付けた。
地域にある小学校で、夜中、ナニカが徘徊していると。校内の中をうろうろと、何かを探しているような、追いかけているような。それに捕まると――というような、よく聞く怪談話のようなものだ。
その舞台が、過去に通っていた小学校だった。ちなみにあまりいい思い出はない。ほとんど嫌な思いでしかない。
―というわけで、噂好きの相方は、乗り出そうと言い出した。要は季節外れの肝試しという所だろうか。
訳が分からん。こういう所に行動力を使うな。別のことに使えっての……。
「っしょ、ここから入れるはず……」
「……何で知ってんの」
「何で知らないのw」
置いて帰ってやろうか。1人で行けないくせに。
「……」
前方をなぜか自信ありげに歩く相方を、我ながらじとりとした嫌な目で見やる。
ホント、なんでこんな奴に……あぁもう余計なことを考えるのはよそう。今は今に集中しなくては。この状況を、どうにかして。さっさと諦めさせて、帰ろう。
「ん~と…」
「……」
すんなりと、校舎の中に入り込む。
いくら古い学校とは言え、セキュリティ。仕事してくれ。いや、今は仕事されると困るのだが。怒られるのは嫌だし。誰でもそうだろう。…ならそもそもここに来るなってなぁ。
「…たしかねぇ」
「……」
ご丁寧に靴を昇降口で脱ぎ、靴下のみで廊下を歩く。
さすがに、この時期にこの状態で歩くのはきついなぁ。寒すぎてホントに無理。
「……ここの」
「……」
ほんの少し歩いた先にある、階段を上り始める。
確か、こっちの校舎の二階には、美術室とかがあった気がする。音楽室とか、理科室とか。そういう移動先教室みたいなやつが、集まっている。
「………?」
二階に上りきり、教室が並ぶ廊下に出る。
その時、に、視界の端で影が動いた。
「……ぇ」
暗闇の中に何かが居た。
「―――!」
反射的に、走り出していた。
あれはやばい。あれに見つかったらヤバイ。直感的にそう思った。
あれに捕まれば最後だと、本能が告げている。
鈍感な自分の本能なぞ、あてにするものでもないが。
しかし、あれは、ダメだ。
「―――っ」
ちなみに相方は、あれの気配を感じたのか否か。
目の前で固まりやがったので、とっさに腕をつかみ引っ張ってきた。
あれが危ないという噂で来ているくせに、なぜそんなに後ろ髪惹かれているような走り方をするのだ。
さっさと走れ。もたもたと。
「―――っちょ、」
そう思った瞬間、なぜか腕を振りほどかれた。
何をしたいのだ。こんなところで最後を迎えたいのか?
振りほどかれた驚きと、相方の謎の行動に思考が停止し、つい足が止まる。
「何してんの!!」
しかしためらっている猶予はない。さっさとこの馬鹿を連れて外に出なくては。振りほどかれた腕をつかみなおし、引っ張る。こんなことになるなら来るんじゃなかった。
「ねぇ!」
しかしびくともしない。そこに縫い付けられているように立ち尽くす。
後ろを追いかけるナニカを、見つめ、相方は固まっている。
「――かぁさん」
そんな風に呟いたと思えば。
自分の腕が、相方につかみなおされる。握りつぶされるのではないかと思う程の握力で。絶対に離しはしないと、言うように。
そうして、そのまま。
腕を引いて。
―相方は、そのナニカに向かって走っていた。
「――なにして!?」
引かれるまま、足はナニカに向かっていく。
あぁもう終わりだ。
何もかも。何もかもが。終わった。
「 」
ナニカが、腕のようなものを振り上げ、もう手遅れだと諦めた。
「――――――――――!!!!」
びくっと、身体が跳ねる。
なぜか息が上がり、心臓が早鐘を打っている。
「???」
起きた瞬間から疲れているんだが…。
何か悪い夢でも見ただろうか。
お題:過去・美術室・むずむず




