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傷ついた魂を癒す方法は、ゲーム内でイタズラすること!?

目が覚めたら天国にいると思ったのに、なぜか私は真っ白なベッドに寝かされていて、見知らぬ美人女性が私の顔を覗き込んでいた。


「私、確か校舎の屋上から飛び降りたはずなのに。もしかして死に損ねましたか?」


「いえいえ!バッチリ死んでますよ!」


「あ、そう?よかったちゃんと死んだんだね、私」


「ええ、それはもう見事な飛び降りでしたよ!地面が真っ赤に染まっておりました」


「そっか……じゃあここは天国でいいんですか?」


「いえ、ここはとある乙女ゲームの中にある保健室となります」


「は?」


「あなたは選ばれたのです」


「選ばれた?何に選ばれたんですか?」


その美人女性は待ってましたと言わんばかりの笑顔になる。


「西野めぐみさん、あなたは魂いたわり制度適用該当者に選ばれたのです」


「魂いたわり制度?」


私の頭の中にハテナがたくさん浮かぶ。


「世の中には現実が辛くて自殺する方が後を絶ちません。悲しいことですけどね。そして自殺によって死後の世界に来られた方の魂というのはとても傷だらけで脆いんです。」


「……」


「そしてそう言う方は、せっかく転生できるチャンスがあってもなかなかしようとせずこちらの世界に留まろうとします。現世がいやでこちらにきたのに、転生してまた同じような人生だったらどうしようという恐れの気持ちもありますでしょう。そこで、この度いじめを苦に自殺してしまった中高生を対象に、いじめっ子への復讐を達成していただき、少しでも傷ついた魂を癒してもらう制度を導入することがこちらの世界で決まったのです」


「いじめっ子への、復讐……どうやって?もう死んでいるのに?」


「死んでいるからこそ、です」


「いまいちよくわからないのだけど」


「先ほど、ここはとある乙女ゲームの中にある保健室だとお伝えしましたよね?実は、ここは中川姫乃さんが最近ハマっている乙女ゲームの中なんですよ」


「えっ……」


「そう、あなたを自殺するまで追い込んだ犯人のゲームデータの中なんです。ここであなたは中川姫乃さんが操作しているヒロインのクラスメイト役として次回現世に転生するまで人生を送ってもらいます」


「転生するまでの人生?」


「はい。このゲーム内であなたが起こしたアクションはきちんと中川姫乃さんのセーブデータにも反映されます。例えば……今回は特別に私がお手本を見せましょう」


そういって、女性はベッドを仕切るカーテンを開けた。

するとそこには、もう一つベッドが現れて、これまた綺麗な女子高生がすうすうと寝息を立てていた。


「あ、この女子がまさしく中川姫乃が操作するヒロインです。ちょうど夏バテイベントのところで一旦セーブされてゲームが中断されています。再開されると今1番親密度が高いキャラが様子を見に来るのですが、その前に」


女性がどこからともなく極細のマッキーを取り出す。キュポンと音を立ててキャップを外すと、大胆にもその女子高生の手首に「斉藤裕太」と書く。


「この斎藤裕太というのは攻略キャラの一人なのですが、残念ながら親密度は今1番低いです。そしてこの上からこうして」


次は絆創膏を取り出して貼り付けた。ただし、右端を貼っただけでべろんと剥がれてしまったような形だ。


「昔、とある恋愛のおまじないで『手首に好きな人の名前を書いて上から絆創膏を貼り、1週間気づかれなかったら両思いになれる』というのがありましてね。効果は知りませんが、手首に異性の名前が貼られてて、それを絆創膏で隠している形跡があると気になるのは確かですよね。しかもそれが自分とは別の名前だったら」


つまり、女性はこの後訪れるであろう攻略したいキャラに対して変な勘違いを起こさせるのが目的のようだ。

小さい悪戯だけど、本当に効果があるのだろうか。そもそもゲームには元々決められたプログラムがあるはずなのに、そこにこうした介入ができるのかも疑わしい。


そうこうしているうちに、誰かが保健室にやってきた。姫乃がゲームを再開したらしい。私たちは慌てて元のベッドに戻り、息を潜める。


「姫乃、具合はどうだ?」


ガラッと隣のベッドのカーテンが開けられる音がする。

どうやら姫乃は本名でプレイするタイプらしい。

本来のシナリオだと、寝ている主人公が寝言でお見舞いに来たキャラの名前を呟き、キャラがドキッとして親密度があがるというイベントなのだそう。


「あきら君……」


本当につぶやいた!そしたら次はこのあきら君とやらが赤面して、キラキラ音と共に親密度があがるはず。

と、思いきや。


「絆創膏が剥がれているな……ってなんだ?これ。なんで裕太の名前が……」


どうやら赤面する前に絆創膏とその下に書かれていた(ように見せかけた)別のキャラの名前に気づいたようで、怪訝な声が聞こえてくる。


「何か意味があるのか……?もしかして、姫乃は裕太のことが?」


キラキラ音の代わりに、カーテンを開ける音が聞こえる。

あきら君が出て行ったらしい。

どうやらこの状況に相当混乱したようで、親密度は上がらず、かといって下がることもなくイベントが終わったようだ。


すると、次は上から声が聞こえてきた。

聞き慣れた、あの元クラスメイトの声が。


『なに!?なんのバグ!?それともそういう泥沼ルート!?誰かにイタズラされた感じ!?攻略サイトにこんなのなかったはず』


そう、中川姫乃本人の声だった。想像していたのとは違う展開にストーリーが進んで相当混乱しているのがわかる。

ゲーム中の姫乃の声は、こちら側に丸聞こえという仕様らしい。


『おかしいなもう一度やり直してみよ』


「何度やり直しても同じなんですけどね」


その後も何度かやり直しをしたものの、結果は同じ。結局私たちは8回ほど同じイベントの同じセリフを隣のベッドで聞くことになった。


『なんで!?もうそういう裏ルートなのかな。てことはこんな陰険なイタズラした犯人も探しながら進めなきゃいけないの?』


「まぁ、一生わからないでしょうけどねぇ」


女性はくすくす笑う。その笑いにあんまりにも邪気がなさすぎて驚いた。いたずらした張本人なのに。


「やり方はわかりましたか?めぐみさんがアクションを起こせるのは、ゲームが中断された間だけです。その隙に色々やってみてください」


「はい!」


「あとこちらを渡しておきます。本来のこのゲームの進み方や、攻略方法をまたまた資料です。きっと役に立つと思います」


こうして私は傷ついた魂を癒すために「いじめっ子のプレイする乙女ゲーの世界で悪戯を仕掛ける」とという、なんともふざけた生活を始めることになった。

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