つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
超イケメンと付き合い始めた幼馴染に、「てことで、もう一緒に遊んでる暇ないから」と言われて、呆然としたままエスカレーターを逆走しそうになった僕、中学の時の美少女後輩とぶつかり、二年ぶりに再会する
幼馴染の利穂は昔から可愛くてよくモテたが、基本的に告白は断っていた。
利穂は、まだほんとに好きな人はいなくて、もしほんとに好きな人ができたら、自分から告白する、と言っていた。
まあそうなんだろうなと思いながらも、利穂から告白する日が近いうちに来るとは思っていなかった。
でも来てしまったみたいだ。
あまりに家が近いのでよく僕と利穂は一緒に登下校してるんだけど、今日の放課後は利穂から連絡がなくて、下校時間になっても来なかった。
だからまあ、先に帰ろうかと思った時、利穂を見つけた。
校門の横に立っていた。
もう最終下校時刻も近いくらいなので、そこまで人もいなくて薄暗い。
でも利穂の姿は見慣れてるからわかるし、利穂が誰か男子と一緒にいるのもわかった。
影的には背が高くて、ちょっと考えれば、男子の方も、同じクラスのバスケ部のイケメン、廉大だとわかった。
僕から見ると影絵みたいになってるから、何をしているのかはわからない。
だけど……最終的にどうなったかはわかってしまった。
なぜなら校門の前で、二人は抱き合ったから。
☆ ○ ☆
そして次の日、僕は利穂から、バスケ部のイケメンと付き合い始めたと報告を受けた。
「おおー、利穂に彼氏かあ……」
「ふふん、そうだよ。てことでもう一緒に遊んでる暇ないから」
「あー、まあそうだよな」
「うん」
予想できる流れだったけど、ずっと色々と一緒だった利穂に堂々とそう言われてしまうと、なんだか寂しかった。
僕は今あんまりこの高校に友達がいないし。まあこれは僕が悪いんだけどね。
「じゃあ、また」
「おお、またな」
最後はいつものように別れてくれたけど、やっぱり、これから一緒に過ごすことは格段に減っちゃうんだろうな、と思ったのだった。
放課後。
今日は部活もないし、さっさと帰る日だ。
しかし僕はさっさとというよりは、呆然と帰っていた。
僕はもともと、ショックを受けやすい人なのだ。だから怖がりでもある。
もともとと言っても、生まれた時からではないんだろう。
利穂にずっと優しくされてきたからそうなのかもしれない。
とにかくなんか、利穂に、あんまり遊んでる暇ないから、と言われたのは、納得できるはずなのに、つらいのだ。
特に誰かに問題があるわけではないのに、勝手に自分の中で悪循環がはじまりかけてるので、呆然としているわけだ。
フリーズしたパソコンみたいなものである。
高校の最寄駅に着いた。
ホームに降りるエスカレーターに乗ろうとした時、目の前に人が接近してきた。
わっ、どん。
ぶつかってしまった。
ていうか今……僕、逆向きのエスカレーターに乗ろうとしてた。
何やってんだよ……。とてつもなく僕が悪いじゃん。
「すみません」
「いえ、たまに間違えますよね! 大丈夫ですよっ……あれ? 先輩ですか?」
「え、先輩………? ……おお、久しぶり」
エスカレーターを背景にして僕を見て笑うのは、中学の時の、後輩だった。
☆ ○ ☆
そしてそれから、改札内の喫茶店に、僕と後輩……流羽はいた。
「先輩と会うのはほんとに久々ですね! 二年ぶりですか? はい二年ぶりですねうん計算したら」
「そうだな」
「先輩……大人っぽくなりましたか? それとも悲しい気分なんですか?」
「……少なくとも大人っぽくはなってないな。大人っぽい人は、エスカレーターを逆走しかけないし」
そんなふうに答えた僕に、流羽は、
「大人でも疲れてたらエスカレーター逆走しかけるくらいしますよ多分」
笑いながらそう言った。
それにつられて少し笑ったら、流羽が訊いてきた。
「先輩……恋愛してますか?」
「えっなんで……恋愛?」
「いえ、失恋でもしたから悲しい感じなのかと思いまして。まあそしたら私も失恋したことになるかもしれないんですが」
「え、そうなの?」
「そうなんです」
「そうか」
つまりは……もしかしたら、流羽は僕のことが好きなのかもしれない。
いや好きだったのは二年前だろうけど。
だって、当時もちょっと感じていたのだ。でもそれを確認することが怖くて、勝手に知らないふりしてたというか……。
要は僕は怖がりなのだった。
「……で、失恋したんですか?」
「してないよ」
僕はかなり正直に答えた。
「それはよかったです」
「……」
「……」
どういうふうに沈黙を破るのか。
「流羽ってさ」
「はい」
「僕のこと好きだったの?」
「……流石に気づいてましたか」
「微妙」
「微妙……か」
流羽はため息をついて、カップを持って立ち上がり、僕の近くに座ってきた。
くっつくくらい近く。
中学の時、文芸部の部室でいつもそうだった。
「ほっぺに指でつんっ……!」
「……!」
「あ、意外とすぐ赤くなりますね。まあこれでも私……女の子ですから。先輩をドキドキさせることくらいは、できちゃいます」
「できちゃうな」
僕はそんな簡単に人を好きにならない。ショックを受けるのが嫌いで怖いのと通ずるのかもしれないけど。
だから利穂が好きということもなかった。
だけど今、利穂に彼氏ができた今、なんだか寂しいのだ。
今……そんな寂しい僕の頬が赤いのだとしたら、流羽に、やられかけてしまっているんだろう。
まだ中学の制服を着ている流羽だけど、高校生に見えた。
ちょっと目元が大人っぽくなってた。
髪型が変わってた。
胸も……大きいかもしれない。
そして………なんだか優しかった。
「ふふっ。意外とちょろっと勝てそうです」
そうつぶやく可愛い後輩に、怖がりな僕は、負けちゃうな、と思った。
☆ ○ ☆
「パパー! 楽しみだね」
「楽しみだな」
「とか言ってるパパはね、実はあんまり楽しみじゃないの」
「え、そうなのママ? どうして?」
「怖がりさんだから。ねーパパ」
「い、いや怖がりじゃないぞ」
実は怖がりだ。
だけどそれは、いま待ち受けているものに対して怖がるのとは、ベクトルが違う。
いま待ち受けてるものも怖いけどね。
「ちゃんと私、110センチあるかな……突然縮んでたりしないよね?」
「しないよ。大丈夫」
「よかった。じゃあいよいよ私の初ジェットコースター!」
列が短くなるにつれ、テンションが上がる娘。
そんな姿を微笑ましく思いながらも、やっぱりジェットコースターは怖くね? と大人になっても僕は思うのだった。
そしてそれから二十分経過したら。
「こ……こわ、こわかったよおおお………」
涙目になっている娘がいた。
「あらあら、じゃあもうジェットコースターはやめときましょうね」
「……うんやめる」
涙をこする娘の濡れた頬に、いつしかの思い出がある指が置かれた。
「はい、ほっぺに指でつん……!」
「……!」
すごい。新しい涙が出なくなったぞ。
「次、何か怖くないの乗りに行こ? たくさんあるよ」
「……うん!」
娘はうなずいて、そして自分の小さなリュックから、園内マップを取り出した。
「じゃあねー、ここ行きたい! くまさんの乗り物! パパ連れてって」
「よしわかった。えーとこっちの道だな」
そう言うと、連れて行ってと言ったにもかかわらず、娘は先に歩き出していく。
その様子をすぐ後ろから眺めていたら、話しかけられた。
「怖がりなところも、ちょろいところもそっくりね」
「なんだようるさいなあ」
「はいはい怒らない」
そう声がして、僕の頬に、あったかい指が触れるのだった。
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