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#5 異世界なら友達も多い

 その日は宿泊して、明日の朝早くから帰ることにした。こっちの世界では今は冬のようで早朝ならば中々の気温だ。


 朝、会計を済ませて宿を後にする。


 薄暗い寒空に身を縮めながら閑散とした商店街の真ん中を歩く。ボク以外に人は誰もおらず、車も通っていない。


 始発までまだ余裕はある。ぶっちゃけると別に始発に行かなきゃいけないわけでもない。


 何とか早いところ孤児院に戻りたいという気持ちがあったのだが、やはり始発までは時間があるので大してそれが意味を成すことは無い。


 そんな感じで途中で空いてる店に寄ってお土産でも買おうかと考えながらバス停へ向かっていると、男女四人程のグループがたむろしているのを見つける。


 あの感じは冒険者だ。こんな時間から大変だ。


 ……と思ったけど、皆一様に神妙な顔持ちだ。命をかけてる仕事なんだからそのくらい当然だろうが、彼らはボクと同じくらい若い。


 ちょっと放っておけやしない。これがボクの悪いところだ。こうやって関係無い物事に首を突っ込んでは馬鹿を見る。


 「失礼。こんな時間から探索?何か余裕無さそうだけどどうしたの?」

 「え……?あ、貴方は、もしかしてあの『工場長』を撃退したっていう……セバナ・ヨーイチさんですか!?」


 えっ。


 「え?うん、そうだけど……そんなに有名になってるのかな」

 「そりゃあ有名ですよ。初探索で『工場長』と対等にやり合う程の力量を持ってるって!なぁ皆!この人に協力してもらおうぜ!そしたらあれも手に入るよ!」


 そんなに有名人になってたのか……。少し誇張されてる気もするけれど。


 「あれって何?」

 「あー……解呪ポーションっていうどんな呪いも治す魔導具があるんですけど、それが難度七の異種空間にあるって知ったんです。俺達……本当は五人だったんすけど、一人が探索で大怪我負っちゃって。回復魔術を使ったり……色々試してみたんですけど、一種の呪いにかかってるって分かって……」


 なぁるほど。状況は理解できた。一刻も早く仲間を治すために高難度の異種空間に行こうとしてたのか。


 「仲間を助けたいって気持ちは分かるけど……七って相当な難度だよ?見た感じ君達それを無事にクリアできそうな等級じゃない。ボクが通らなかったらどうするつもりだったの?」


 受付嬢さんにボクが単独で探索できるのは七までと教えられたことがある。……あまりにも無茶だ。仮に場所が分かっていたとしても辿り着く前に全滅は確実だろう。


 「す、すみません……でもアイツ、多分今も苦しんでて……早く治してやらねぇとって思って……」

 「病院……は、無理だったからこうなってるんだよね」

 「はい……病院にも診てはもらったんですけど、解呪まではできなくて……」


 仕方あるまい。そこまで事情を聞いてお断りする程カスなボクではないのだ。


 「分かった。ボクが取ってくる。但し、君達は待ってて。ボク一人で行く」

 「あっ、あの!それについてなんですけどぉ……」


 後ろの方でずっと黙ってた小柄な女の子が口を開いた。


 「私……ポーションの場所を知ってるんです……だから……私も連れて行ってくれま……せん……か……」


 喋るにつれて声が小さくなっていく。


 「あー……いや、気持ちは有難いけど、止めておくよ。七ならボク一人でも行けるからさ。確かに時間はかかっちゃうかもしれないけど」

 「私のせいなんです!」

 「お、おい……リスズ……」


 リスズと呼ばれた少女は声を再び大きくして続ける。


 「私がうっかりして前に出過ぎちゃったからミントちゃんが庇って……結局退かざるを得なくなって……ミントちゃんは『大丈夫、気にしないで』って言ってくれてるけど……すっごく苦しそうで……わ、私!回復魔術と防壁魔術が使えます!場所も知ってます!足は引っ張りません!もしもの時は見捨てても構いません!だから……」


 ボクは悩む。


 しかし答えは案外早めに出た。


 「見捨てろと言われて見捨てる人なんていないよ。……これ以上断ってもキミは納得しないよね。分かった。一緒に行こう。でも絶対ボクから離れないでね」

 「あ、ありがとうございます……!」

 「すいません……リスズのことお願いします」


 リーダーっぽい青年が頭を下げると、他の二人も一緒に頭を下げた。


 「それじゃあ一刻も早く。キミ達は……その、ミントちゃんのところにいてあげて」

 「はい!」


 異種空間への出入り自体は自由だ。しかし無断で入った際には報酬は生まれないし、何かあった時は完全に自己責任となる。


 既に開いている協会でしっかり準備を整えてから、受付嬢に探索を申請した。当然だが受付嬢には彼女を置いて一人で行くよう忠告されたが、事情を話すとため息をついて認めてくれた。


 「そういえば、さ。どうしてポーションの場所を知ってるの?」

 「父は少し変わった冒険者でして。異種空間が発見されては探索を繰り返して地図を作るんです。それなのに公表したりはしませんでした」


 彼女は肩より少し上くらいまでの長さの桃色の髪の毛を揺らした。彼女のお父さんはすごい冒険者だったのか。


 「元々ポーションを取ろうという発想に至ったのも地図があったからです」


 お目当ての異種空間の入り口に辿り着いた。どうみてもただの廃屋だが。


 「後ろから案内してほしい」

 「わ、わかりました」


 ボクは木製の扉を開け、揺らめく空間へ突入した。


==========


 中は密林のようだった。太陽がギラギラと煽るように輝いており、辺り一面に生い茂る植物があまりにも鬱陶しい。


 「そのまま真っ直ぐすすんで、右側に一際大きな樹があるはずです!そこまで一旦行きましょう」


 草根を掻き分けて進む中、木々の合間からヒョウに似た姿をした魔物がボクに飛びかかってきた。


 「ひゃ……!」


 リスズちゃんは息を詰まらせるが、ボクは落ち着いて電流に従い、ギャリギャリトで魔物を八つ裂きにした。


 「キミにも襲いかかってくるかもしれないから、注意してね」

 「は、はい……」


 ところで、生命に関わる呪いを解くのに必要な薬がここまで高難度の異種空間にしかないのかと疑問に思ったかもしれないが、確かにボクもそう思った。だが、よりおかしいのは……


 「ねぇ、キミ達って本来大体どれくらいの難度の異種空間で活動してるの?」

 「よ、四が精一杯です……」


 難度四の異種空間に難度七で取れる薬でしか治せない程強い呪いを持った魔物なんて普通いるのだろうか?だ。


 難度は人が定義するのだから細かな変動くらいはするだろうが、あまりにも場違いにも思える。


 「そこを右に、しばらく続いたら小さな湖があるはずです」

 「しっ!待って」


 屈ませる。単眼と触手が目立つ一際大きな二足歩行の魔物がうろいていたのだ。


 「何……?あれ……お父さんの地図にはあんなの書かれてなかった……」


 だとしたら、新種?いや、やっぱり何かおかしい。一先ずやり過ごして遠回りするしか……。


 「ウオオオオオオオオオオオオ」


 突如怪物が雄叫びを上げ、何処かへ行ってしまった。


 「……行こうか」

 「はい……」


 呪いの魔物といい、あれといい、……『工場長』といい、本来いるべきでない存在がいるべきでない異種空間に増え始めているらしい。兎に角、深追いは止めて早いところポーションを回収しよう。

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