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#4 異世界にはメカ娘がいる

 洞窟を潜ると、青色の太陽らしき物体が遥か遠くで輝いていた。


 周囲は風化した遺跡が目一杯まで続いているが、何か攻撃的な存在の気配は見当たらない。


 目の前に地下へと続く階段がある。分かりやすくて実に助かる。


 前の人達も既に階段を降りているようだ。ボクも続いて階段を降りていった。


 地下は壁に松明が間隔を空けて取り付けられてこそいるが、かなり薄暗い。


 松明の火の粉か何かか、キラキラしたものも舞っている。


 「死角から襲ってくるかもしれねェ。気を付けて行こうぜ」


 ゴンドーさんの言う通り、そう広くない通路だ。何が起きるか分からない。


 ボク達は注意深く探索を進める。他の人達は何処へ行ったんだろう。


 それから三十分程経過した。


 「……おかしいスね。魔物と全然鉢合わないス」

 「……そうだな。他の奴らが全部殺したとは思えねェが」


 確かに。これまで誰とも何とも遭遇していない。拍子抜けさせてくれたら嬉しいに越したことは無いのだけれど。


 「ん?」


 何かを踏んでしまった。見てみると……。


 「わっ!!??」


 ぐちゃぐちゃのバラバラにされた血みどろの肉塊だった。


 「あちゃあ……。まぁでも良かったな。人間じゃなさそうだぜ」

 「あんま嬉しくない……」

 「でもまぁ、一応いたじゃないスか。生き物」

 「確かに」


 ようやく状況に変化が訪れ、ボク含めたメンバーもそれらしい会話に興じることができる。


  「……おい、見てみろよ、やばいぞ」


 メンバーの一人が指差した先には、似たような肉塊が無数に散らばっていた。


 「……他の奴らがやった、のか?」

 「……いや、他でこんな芸当ができるような武器を持った奴はいなかった。気を付けろ。何かやべェのがいるぞ」


 空気が変わる。並の緊張感の比ではない。


 どうやらこの通路の先に開けた場所があるようだ。きっとそこに何かあるのだろう。


=========


 肉塊を踏み越えて進んでいくと、人の悲鳴みたいな物が通路に響いた。


 「……あの、これヤバいんじゃないです!?」

 「……あ、あぁ、そうだな。これはヤバい。一度戻ろう」


 わざわざ危険だと分かっている物に突っ込む必要など無い。


 現在進行形で地獄を見ているであろう人達には悪いが、ボク達は慌てて来た道を戻ろうとする。


 「た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」

 「!?」


 すると向こう側から両腕が無い男が足を引き摺ってこちらへ向かってきたのだ。


 「……ッ!?」

 「よせ!アイツはもう無理だ。構ってたら俺達も死ぬぞ!」


 もう助かりそうにないならまだしも、まだ生きて動ける人まで見殺しにするのか?とは思ったものの、ゴンドーさんの言うことも最もだ。


 無理矢理自分を納得させ、メンバーに続こうとすると、


 男の断末魔と共に、少女の声が聞こえた。


 「あら、まだいたんですの」


 ボク達は通路の肉塊と似たような状況になっている人間の死体らしき物が散乱している広間にいた。


 ……何で??逆方向の通路へ逃げたはずだ。


 「ワケが分からないといった顔をされてますわね」


 声がした方に振り返る。そうすることでしか情報を得られない。


 そこにいたのは赤い瞳の上で白銀の長い髪をたなびかせた少女、服装はゴスロリとかお嬢様とかを思わせる……いや、そして何よりも、下半身が明らか生物のそれでは無かった。


 ドレスを模したと思わせるブースターらしき装置から火を噴かして浮遊しており、その下から見える足もまた鋼鉄の装甲に覆われていたのだ。


 今まで散々魔法に触れてきたからこそ、この世界での『メカ』という概念が恐ろしく異常に感じる。


 「私は隣人会の第二選を務めております、『工場長』と申しますわ。どうせすぐ死ぬので覚えなくても構いませんけれど」


 ……工場長?それより、隣人会だって!?


 「二つ名だと……!?」

 「ふ、二つ名って、なんです?」

 「高い実力を持った個人に国が指定する名前だよ。最低基準は……二級以上だ!」


 ……つまり、格上。


 「有史以来一級認定されたのは四人しかいねェ。だからアイツは二級と受け取るのが妥当だが……、それでも二級は、俺達と力の差がありすぎる……」

 「ウフフ、よくお勉強されていますわね」


 工場長の掌が変形し、そこに光が集束していく。


 電流が……、いや、これはそんな物なくても……、


 「ヤバいと分かるッッッ!!!」

 「避けろォッッ!!!!」


 しかし既に味方の一人の頭が水風船みたいに破裂していた。


 「ジ、ジオォォォォォォ!!!」

 「ゴンドーさん!逃げられない!戦わなきゃ!」

 「クソォォッ!よくもジオをォォッッ!!!!」


 全員が武器を取って工場長に一斉に襲いかかる。


 この数なら、誰か一人の攻撃は届くは────


 「お静かに」


 ボク達は吹き飛ばされ、壁に背を付けていた。


 工場長は内の一人を触れずに引っ張り、その身を未知の力で雑巾みたいに搾り上げてしまった。


 「あ……が、が、が」

 「バルタ……!!」


 これは……勝てない。今更知ったことだが、二と三の間には非常に大きな差があるらしい。


 すると、口元から血を垂らしているゴンドーさんがボクに話しかけてきた。


 「……セバナ、おめェは、逃げろ」

 「は?なんで?」

 「おめェはまだ若い……。俺達で、時間を稼ぐ。その隙に……」

 「それは……」


 ボクが死ねば、ルミさん達も迷惑を被る。それに外の人間に隣人会の構成員が暴れていると伝えるのも立派な役目。


 誰か一人逃がすとしたら親切なゴンドーさんはまだ若いボクを選び、仲間達と共に少しでも時間を稼いで生涯を終えるつもりなのだ。


 「駄目だ」


 だが、それは気分が悪い。


 「ボクは強い。貴方よりも。だから、ボクがやるべきだ」

 「元気な方がいらっしゃいますわね。どなた?」

 「背花陽一、三級冒険者だ!お前の目的はなんだ!何でこんなことをする!」


 ボクが工場長に大声で問いかけると、彼女は困った顔をしてこう言った。


 「別に、貴方のような無駄に有望な冒険者を事前に叩き潰すためですわ。私達とは違って貴方方は数だけは虫のようですので」

 「そんな力を持ってやることが格下狩りかよ!」

 「威勢のいいお口だこと」


 広間の壁を未知の力で引き剥がしてボクに投げつける。


 右手に力を込め、ギャリギャリトを振るう。刃は描いた螺旋に壁を巻き込み、粉砕する。


 開いた道は、工場長へ一直線。


 ……かに思えたが、眼前には無数のミサイル。


 「ごきげんよ~う」


 大、爆発。


 「セバナァァッ!!」

 「うっ……ぐ、ゲホッ、ゴホッ」

 「あら、さすがは三級ですわね。頑張ってくださいまし。もう少し、あとちょっとで届きますわよ」


 直撃しても五体満足で済んだのは、ゴンドーさんが逃げずに魔術でボクに支援をしてくれたからだろう。


 それでも恐らく、爆発の衝撃で骨が何本か破壊されている。


 痛い。


 「でも……ウッ、立ち上がるさ」

 「わ~」


 あのゲスが敬意の無い拍手をボクに手向けるけれど、見ていろよ。すぐにひっくり返してみせる。


 奴はムキになってボクに完全に狙いを定めている。奴に格上としてのプライドがあるならば、人質を取るなんて真似はしてこないだろう。


 そしてあの人を持ち上げたり壁を引き剥がしたりした未知の力……最初に広間に引き寄せた力と同じのはずだ。


 あれは魔術なのか?どちらかというと超能力のそれでは……。


 そもそもなんでボクに同じことをしない。早く終わらせたいならさっきみたいに持ち上げてミンチにすればいい。


 舐めプかぁ?……ん?


 「(なんだこれ……光ってる)」


 地下に降りた時に見たキラキラした物が貼り付いていた。


 「……鉄の粉」


 ……分かったぞ。


 「……うおおっ!!」


 ボクは再び奴に襲いかかる。


 「芸の無い」


 またミサイルだ。ボクは向かってくるそれを、ギリギリで回避し、……追尾してきた。


 「(予想通り)」


 壁に退避し、ミサイルが激突する直前で避ける。ミサイルは曲がりきれずに立て続けに爆発していった。


 即座にジオさんを粉砕した光が照射される。


 ボクは必死にかわし続け、壁側の外周を回る。


 「避けに徹していては勝てませんわよ?」

 「勝つさ」


 ボクはギャリギャリトをできる限りの出力で回転させ、風を生み出す。


 こびりついた鉄の粉が剥がれ、宙を舞う。


 「……!」


 ほんの少しだけ奴が驚いたような顔を見せた。


 「お前は魔法でも超能力でもなく、磁力を操る力を持っているな!人をいつでも楽にミンチにできるように鉄粉をばら蒔いてね!」

 「……えぇ、そうですわ。当たりです。ですが……」


 目を凝らさなければ見えなかった程度の鉄粉が奴の元に集まり、銀色の龍の模倣物と化したそれがこちらを睨む。


 「こういうこともできますの」


 龍がこちらに高速で突進してくる。間一髪で回避し、龍は壁に激突する。


 しかし、そのまま壁の中を潜航したかと思いきや、真下から大口を開けて飛び出してきたではないか。


 「うああああああああああ!!」


 ボクはギャリギャリトを振り下ろし、死物狂いで龍の両断を試みる。


 が、磁力でいくらでも再生する龍の前には歯が立たず、龍はボク腹に噛みついて天井を突き破った。


 後頭部と背中で強引に土を削られる。


 途中で意識を失ったが、恐らく落下した際の衝撃で目を覚ましたのだろう。


 「あら……三級って案外耐えますのね。それとも、貴方が異常だったりしますの?」

 「どうかな……でも」


 「馬鹿なことしたね」

 「は?」


 地面が揺れる。奴に取っては突如だろうが、ボクは予見していた。


 「ゴンドーさん、逃げますよ!」

 「!?一体何がどうなってるんだよ!」

 「ボク達の勝ちです!」


 天井が崩落し始めた。


 「これ……は……!?」


 奴は驚愕した顔で鉄粉を集め、天井の崩落を阻止している。この隙だ。


 「こんな地下であんな暴れたらこうなるに決まってるだろ!」


 ボクとゴンドーさんで一人ずつ、生きているが負傷している仲間を連れて地下を後にした。


 今一瞬でもボク達を逃がすまいと攻撃を仕掛けたなら、天井が一気に崩落し、生き埋めルート。


 だから奴は、ボク達を見送るしかなかった。


 「セバナ……名前は覚えましたわよ」


==========


 その後、唯一生き残った四人の通報により、騎士団長『鉄剣』を始めとした精鋭が『工場長』の逮捕のため同異種空間の調査を行ったが、当該人物の発見には至らなかったという。

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