#3 異世界にはダンジョンもある
扉を開けると外以上の喧騒を真っ向から浴びてしまい、少し圧倒される。
耳を慣らした後、受付と思われるカウンターへ行き、喧騒の中でも微動だにしない女性に話しかける。
「すいません、冒険者登録をしに来たんですけど」
「かしこまりました。こちらに名前と住所をお願いいたします」
言われた通りに差し出された用紙に自分の情報を書き記す。住所は孤児院でいいのかな。
「それと異種空間の探索を行う場合は何か自分だと分かる物を身につけていてください。死体の判別が不可能な場合に必要になります」
…………。
「わ、分かりました」
「それでは、力量等級測定をしますので、動かないでくださいね」
「力量等級測定?」
「冒険者の実力の指標となります。基本、冒険者は自らの等級を参考にして探索する異種空間の難度を決定します」
受付嬢がおもむろに体温測定器みたいな器具を取り出すと、そこから光を照射してボクに当てた。
「……おお、これはすごい。三級です」
「それってすごいんです?」
「最低が十級です」
「十ある内の上から三番目かぁ」
いつの間に自分にそんな力が宿ったのだろうとボクは疑問に思ったけど、お金稼ぎをする上で強いに越したことはないので深く考えなかった。
「この力量ならば高難度の異種空間も突破可能でしょう」
「じゃあそれを」
「いいえ、最初は絶対に大丈夫な難度の異種空間に行ってノウハウを積んでいただきます」
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ということでボクは新聞の見出しにあった仮難度五とされた新種の異種空間の探索チームにあてがわれた。
受付嬢さんには「異種空間の難度は数字が大きい程難しくなります」と言われた。
仮というのが気になるが、ボクの他にも強そうな人がたくさんいるし、もしもの時にはボクが本気を出せば良いから、そういう計らいなんだろう。
「よォボウズ。見ねェ顔だな。名前は?俺ァゴンドーだ」
「あ……背花っていいます。初仕事です」
うひゃー、でかい。
ボクに話しかけてきたのは、190cmはあるであろう巨漢で、筋肉質でスキンヘッドのおじさん。いかにもって感じ。
「初めてなのに五に挑むのか?」
「受付嬢さんにそれがいいと言われたので……」
「へぇー、てことは結構才能あるってことかい」
「それ程でも……」
ある。
「にしてもセバナ、おめェ武器は?素手でやるのか?」
「あ」
確かに。人攫いでもないのに素手は無理はある。
「はァ、しょうがねェなァ。来な。俺が持ってるの貸してやるよ」
「マジすか?いやぁほんと助かりますわ」
「知り合った奴が死ぬのは、いつだって気分が悪ィからな」
……やはり、軽い気持ちで挑んでみたが、常に死が隣にある世界だということを覚悟して臨まなければならないようだ。
ゴンドーさんについていくと、彼の仲間と思われる男達がテーブル席に座っていて、その横にはかなり大きいリュックサックが三つ置いてあった。
「ゴンドーさん誰スかソイツ?」
「期待のルーキーだよ、そら、こん中から好きなの一つ選びな」
ボクは圧倒された。ゴンドーさんがリュックサックの一つをひっくり返して中に入っていた大量の武器を並べる。あまりにも壮観だ。
「どれも気に入らなかったら協会でも貸し出ししてるけどよォ、それよりかは種類はあると思うぜ」
「え、えと……じゃあ、これにします。カッコいいので」
ボクが選んだのは、芝刈機みたいな円形の刃に柄が取り付けられた武器だった。
「ほォ、魔刃ギャリギャリトか。お目が高いねェ。ソイツは難度五の異種空間で採れた魔導具だ。異種空間にはこういうお宝も眠ってたりするんだぜ」
「へぇ……。スイッチが無いですけど、どうやって回すんですか?」
「魔力を注ぐんだよ。念じるんだ」
言われた通りボクは意識を集中してベリベリトを握る手に力を注いだ(つもりになった)。
「おォ、そうだそうだ。よくできてるぞ」
目を開けると、電動音と共にギャリギャリトの円形の刃が景気良く回転しているのを確認できた。
こんなにカッコいい武器を貸してもらえるなんて、この世界は治安が悪いがその分親切な人もたくさんいるんだ。
めっちゃ気に入った。今回の探索が終わったらこれと同じ物を探しに異種空間に挑むのもアリだ。
「よし、それじゃあそろそろ集合の時間だ。何かの縁だ。一緒に行こうぜ」
「是非!」
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今回ボクと同じ異種空間に挑むのはおよそ二十人程度。ゴンドーさんの仲間も四人参加する。ボクとゴンドーさんを入れて六人だ。
ボク達はその六人で目的の異種空間の入り口まで運ばれている。
事前情報によると、今回探索する異種空間は広大な遺跡の形状を取っているらしい。
「そういえばゴンドーさん、あのオーロラって知ってます?」
ボクはなんとなしに尋ねてみた。
「あァ、あれだろ?天気や気温に関係無くずーっと残ってるって、異種空間への入り口じゃねェかって騎士団が調査したらしいが、特に『そこにあること以外は』異常は無かったとよ」
……異常が無い?もう閉まってるってこと?
それはつまりもうボクは戻れないということになるのだけれど……。
「ゴンドーさん、もうすぐ着きますぜ」
ゴンドーさんの仲間の一人が促すと、皆そそくさと最後の確認を始める。
難度五は丁度真ん中辺りの難しさ。用心していても上級の冒険者でなければ死ぬ時は死ぬそうだ。
輸送車が止まった。
出番だ。
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「この洞窟が異種空間への入り口となります。地上は比較的安全ですが、地下には攻撃的な魔物が多くたむろしておりますので、ご注意ください」
「シャー!」「行くぞー!」「ウオオオ!!」
周囲の冒険者達が気合いを入れる中、ボクも浮かないようにそれっぽい真似をした。
次々と冒険者が突入していき、やがてボクの眼前に異種空間の入り口という洞窟が広がった。
よく見ると薄暗い洞窟の中は僅かに揺らめいていて、明らかに普通ではないことをボクに再三突きつける。
「大丈夫だ。やろうぜ」
ゴンドーさんが背中を押してくれた。ボクは頷いて、洞窟を潜り抜けた。
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