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#1 異世界ではボクは超強い?

 「ここがヴァータン共和国、南アガレイ帝国、スエダント連邦、そして北ロンドロート王国です。私達は……この辺りに居ますね」

 「北ロンドロートちっちゃいね」

 「う……。でも、『騎士団』は他の国に負けないくらいお強いんですよ!」

 「騎士団?」


 ルミさんから話を聞くに、ボクは元いた世界と異なる世界に迷い込んでしまったようで、しかもここには魔術なる物が存在しているらしい。魔術は非常に深い歴史を持っているようで、故にここはボクが元いた世界とは異なる進化を遂げているようだった。


 しかしここで少し時間を過ごすだけでも生活水準はボクの世界と全く引けを取っていないのが分かる。不思議な光る石が天井にぶら下がって灯りの役割を務めているし、何なら水道っぽい物もあるようだ。


 何で日本語が通用してるんだろう? ……いや待てよ。これ英語か?


 ……まぁいいか。見せてもらった地図には大きな大陸が一つしか無く、国家と言える物が4つ(連邦国が存在するので厳密にはもっとあるが)。


 その中でも北ロンドロート王国は特に小さい。うっかり気を抜くと他国に吸い込まれてしまいそうなくらいに。


 そんな小国でも成り立っているのは、個人で魔術を扱える魔術師なる者達で結成された騎士団が存在するからだとルミさんは言う。


 この国の騎士団は四つの国の中でも特に優秀な魔術師が揃っているそうだ。……国力が乏しい分、個人の力で補っているのか。大丈夫なのかなぁ?


 「魔術ってボクでも使えるのかな?」

 「素人でも生活に役立つくらいの程度なら練習すれば会得できますが、セバナさんはここではない別のところからいらっしゃったんですよね? 私もそこまではよく……。多分前例も無いでしょうし……」

 「そっかぁ」


 これまで魔術など迷信と信じてたしそれが正しかったからこそ、それが現実である世界に迷い込んだからには一度で良いから使ってみたかったのだが。


 「部屋は空いているので行く宛も無いでしょうし当分ここで過ごして下さって構いませんよ」

 「……ホントに? 助けて貰っただけじゃなく……何から何まで有難いよ。お礼と言っちゃなんだけど、できる手伝いはさせて欲しいな」

 「よろしいのですか? ありがとうございます!」


 命を救って貰っただけでなく住居を提供してくれるんだから、このくらいはしないと。苦労してそうだったし。


 そうしていると、僅かに空いた扉の隙間から幼い男の子がこちらをじいっと見ているのに気付いた。彼とボクの目が合うと、彼は急いで扉を閉めてしまった。扉の向こうからドタドタと音がする。


 「あっ、ごめんなさい。さっきの子、ちょっと気難しい子で。でも悪い子じゃないんですよ!」

 「ハハ……。警戒されても仕方ないよね」


 突然空から落ちてきた奴が自分達の面倒見てくれるお姉さんと話し込んでたらボクでも警戒しまくるよ。施設の男の子の初恋奪いまくってそうな顔してるもん。


==========


 それからここで数日が経過した。不思議なことにまだオーロラは揺らめいていたので、これまでに何とか元の世界に戻ろうとしてみたけれど、高すぎて届かないし、そもそもあれで帰れるのかも分からない。


 ボクのことも施設の皆以外には知られていないみたいだし、オーロラが観光名所みたいな扱いになって人だかりが増えたこと以外は特に異常は無い。


 何故ならこの世界が想像以上に異常だったからだ。


 「(まずこの世界、思ってたより治安が悪い)」


 国家間の仲が悪く、常にピリピリしているのでその余波が国民にも来ている。二日前にもこの施設の扉の前に赤子が置き去りにされていた。


 新聞で『魔術研究所本部に隣人会の構成員と思われる魔術師が襲撃 死傷者多数』なんて見出しを見た時は知識が浅いボクでもヤバいなって理解できたよ。


 ちなみに『隣人会』っていうのは国を跨いで活動してるテログループだってルミさんが教えてくれた。まだ分かってないことだらけだけど、少数精鋭だということは確定してるみたい。


 この国の騎士団は強いらしいけど、それでも捕まえられないのかな?


 なんてことを考えながら作業をしていたら今日もすっかり日が暮れた。


 「お疲れ様です。今日はこのくらいにしておきましょうか」

 「そうだね。お疲れ様」


 子供達とは随分打ち解けたけど、未だにあの男の子とだけはまだ話せてない。多分嫌われた。


 「まぁでも、ここでずっと暮らすのも悪くないかな」


==========


 その日の夜、ボクは中々寝付けなかった。別に何か体が悪いとかではないし枕が合わないわけでもない。


 「(何かおかしい)」


 悪寒がする。鳥肌が立っている。体内で危険信号が電流となって迸る。


 いてもたってもいられずに、光る石が入ったランタンを手に部屋を出た。


 一人で真っ暗な廊下を踏み締める。


 「違う。ここじゃない……」


 何故か、分かる。二階ではない。一階だ。


 ゆっくり階段を降りると、ボクは部屋の構造を思い出した。子供達は一つの部屋に四人で寝ている。暑かったら居間でも寝れるけど……。今はそんなこと問題じゃない。


 施設の柵もそんな高くな「どうしました?」


 「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 「ちょ、静かにしてください!皆が起きちゃいます!」

 「あ、ご、ごめんなさい。い、いい嫌な予感がしたんだ」

 「嫌な予感?」


 ルミさんは首を傾げる。何の理由も根拠も無い直感でしかないのだけれど、ボクは1階に何かヤバいことが起きようとしていると伝えて説得を試みた。


 下手したら子供に手を出そうとするヤバい奴みたいになってしまう。


 「そ、そこまで言うなら分かりました。私も同行します」

 「ルミさん……!」


 ルミさん!


 気を取り直して、探索を再開しようとしたその瞬間、


 体内の電流が更に激しく。


 「ヤバい、ルミさん、子供達の部屋片っ端から開けて確認して」

 「え?」

 「いいから!」


 ルミさんは順に扉を開けて中を確認していくが、ボクの方はまたしても電流を頼りに、一番近い部屋ではなく、あの男の子がいるはずの部屋を開けた。


 「何してんだオマエェッッッ!!!」


 人攫いだった。窓から侵入して子供を連れ去ろうとして今まさに退散しようとしているところだった。


 ボクが大声で叫んだのでルミさんもやって来て、眠ったまま連れ去られようとしていた子供達も目を覚まし始める。


 突然の状況に子供達は混乱している。


 「チッ、見つかった!」

 「調べ通り男と女一人ずつだろ!殺っちまえ!」


 人攫いの人数は三人。しかも刃物を携えている。


 正義感で考え無しに突っ込んでしまったが、めっちゃヤバい。


 「キミ達、調べ通りって言ったけど、前々から下調べしてたの?かか、観光客に紛れてじっくりやったんじゃない?あのオーロラの」

 「ああそうだ。それに最近は魔術研究所へのテロもあって騎士団の注意がそっち向いてんだ。隣人会様様よ。そこの女!動くんじゃねぇぞ。ガキの命が大切だよなぁ?」


 あの男の子が人質にされている。必死に暴れているが、大人の男の力の前にはどうしようもない。


 「な、何でこんなことするの?悪いことは駄目だよ」


 ボクは必死に言葉を紡いで時間稼ぎをする。策を考えているつもりだったが、何も浮かんでこない。


 ルミさんはボクの後ろで動けない。子供が人質に取られていてはボク諸共どうしようもない。


 「やめろー!離せー!」

 「うっせぇぞガキ!死にてぇか!」

 「やめて!」


 足が震える。汗が止まらない。声が遠くなっていく。時間稼ぎも限界がある。結局何も解決策は編み出せなかった。


 後悔している。


 元の世界でもそうだった。いつも考え無しにペラい正義感でいらないことに突っ込んで手酷く帰ってくる。ボクは向こうではそんな人生だった。


 「セバナさん!」


 いつの間にか刃物を持った男が、ボクに向かってきていた。


 終わった────。


 然れど電流迸る。


 意識より先に身体が動いていた。


 「グッ、おっ……」


 男の腕を掴んでる?それよりボク……


 どこまで、力が入るんだ?


 「グァァッ!?」


 男は堪らず刃物を落とす。咄嗟に人攫い達の手の届かない場所にナイフを蹴飛ばして、直近の男の顔面に拳を打つ。


 男はにらめっこ世界チャンピオンを目指せる顔で面白いくらいに吹っ飛んで床に倒れ込む。


 「え……?」


 この場の誰もが同じ音を発した。無論ボクもだ。


 だが、これならいける。


 「ッ!?待て!ガキがどうなっても──ブゴォッ!?」


 ボクは窓から飛び出し、人質を取っていた男の顔面にも、彼が到底反応し得ない速度で蹴りを放って黙らせる。


 残りの一人が銃らしき武器を構えようとしているのが見えたが、次の瞬間には顔面がひどく腫れ上がった男とひしゃげた武器が転がっているだけだった。


 「セ、セバナさん……?」

 「いや、あの……ルミさん、これ……ボクも、何が何だか……」

 「す……」

 「す?」


 「凄いです!!あんな簡単にやっつけちゃうなんて!!」

 「いや、あの」

 「セバナ兄ちゃん」


 男の子に声をかけられた。


 「助けてくれてありがとう。すっごくカッコ良かった」

 「……、へっ、へへ……」


 それからすぐ他の子供達も助け出し、翌朝に人攫い達は騎士団に突き出した。


 ボクは一躍施設のヒーローになったのだが、また新たな危機に直面することになるのはすぐの話だ。

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