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1.入学式

幼馴染の二人が恋仲になるまでを書きたくて綴りました。

お互いしか見えてない系の二人が相思相愛になる過程が大好物です。



「けんちゃん……」


 桜が舞い散る四月のこと、俺と幼なじみの”たく”は高校の入学式に参加していた。


 ギリギリで受かった俺とは対照的に、もう二つほど上のレベルの学校でも余裕だったたくはそれもうあっさりと受験をクリアした。

 わざわざ低いところを受けなくてもいいんじゃないかと言えば「けんちゃんと同じじゃないとやだ」となんとも幼なじみ冥利に尽きることを言ってきた。

 でも、もう少し外にも目を向けた方がいいと思う。


「ほら、そんなに引っ付いてたら歩きにくいだろ」


「けんちゃんなら大丈夫でしょ」


「大丈夫でも歩きにくい」


「うぅ……意地悪しないでよ……」


「はぁ……」


「ため息やだぁ」


 たくは合格発表の次の日からずっとこの調子だ。

 なんでも、同じクラスじゃなかったらどうしよう、ってことらしい。


「こんなん運でしかないんだから。諦めろ」


「まだ決まってないよ……」


「俺らの中学からの志望者そんなにいないだろ。だから諦めろ」


「やだぁぁぁ」


 とうとう顔をベッタベタにして泣き始めたたくは、俺の腕に縋り付くように強く引っ付いた。また歩きにくくなったな、なんて思いながらも歩き続ける。えぐえぐと嗚咽を漏らすたくとそれを無視して歩き続ける俺に、周囲はちょっと驚いている気がする。

 やっとクラス発表の看板の前にたどり着くと、そこには大量の人、人、人。全く見えなかった。


「見えねぇな」


「このまま一組行こ」


「ん?見えたか?」


「見えないけど」


「なんで一組行くんだよ……」


 おかしなことを言ってるたくをとりあえず捨て置いて人混みを掻き分けて歩き出す。

 「けんちゃん」と呼びながらたくも着いてきた。


「よっと、やっと見えるとこ出た」


「けんちゃん速い……」


「別に速くないだろ」


 クラスの掲示を見ながら自分たちの名前を探す。マンモス校、というのほど多くはないけど、入学式ということもあり数が多く見つけにくい。いまやっと三組まで見終わったところだ。

 最後の八組からたくに見えもらえば良かったなと思っていると、隣にいたたくが「あっ!」と声を上げた。


「どうした?」


「……なんでもない」


「いや絶対なんかあったろ」


「気のせい」


「……クラス別だったか?」


「違う!信じない!」


「別だったんだな」


「やだぁぁぁ」


 とりあえず別なことだけはわかったが、たくはそれを頑なに認めようとしない。とりあえず探し続ければ、俺は五組、たくは六組のところに名前があった。


「隣だな」


「一緒……」


「まぁ、隣なら合同授業とかあるだろ」


「いっしょ……」


 同じ言葉しか言わず目に涙を溜めるたくは、俺の手をぎゅっと握りしめた。「いっじょぉ……」とどんどん言葉までもが崩れてきている。


「休み時間とかに会えばいいだろ」


「足りない……」


「朝一緒に登校して、放課後一緒に帰ってやる。時々寄り道もしてな」


「……ほんと?」


「あぁ」


「……」


 頬を膨らませながらも小さな声で「わかった」と言うたくの頭をポンポンと撫でてやる。ちらっと目線が俺をとらえて嬉しそうに破顔した。

 笑ってりゃ可愛いのに、なんて、本人には絶対言ってやらねぇけど。


「ほら、さっさと行くぞ」


「もうちょっと一緒にいてよ」


「とりあえずクラスまで行って、席にカバン置いてからな」


「わかった……」


 手を繋いだままクラスに向かうために歩き始めれば、たくはちょっとぶすっとしながらもギュッと握り返して歩き出した。

 一年生の教室は第二校舎の三階と四階だった。一組から四組が四階を、五組から八組が三階を使う形らしい。五組と六組が同じ階で良かったなと心底思った。

 クラスの扉の前には何人かの生徒がいた。ドアの窓の部分に座席表が貼られていることから、多分自分たちの席を確認しているのだろう。

 先に六組に向かいたくの席を確認する。窓際というなかなかいい位置に名前があったことを確認してたくに示せば、少しほっとしたような表情をした。


「すぐカバン置いてくるから、待ってて」


「はいはい。ちゃんと待ってるからさっさと行ってこい」


 手を離してひらひらと振ってやる。先に五組に見に行ってもいいが、離れたら確実に拗ねるから止めた。俺もなんだかんだ甘いな。


「お待たせ!」


 身軽になったたくがにっこり笑って戻ってくる。ギュッと俺の腕にしがみついて見上げてくる様子が、祖父母の家で飼っている大型犬のレオンみたいで笑ってしまった。

 不思議そうに首を傾げるたくの頭をぐしゃりと撫でて髪型を崩す。セットなんかしなくてもかっこいいくせに、俺にかっこよく思ってほしいからと毎朝セットするたくが可愛くて仕方ない。伝えるつもりはないけどな。


「ほら、次俺のとこ行くぞ」


「うん!けんちゃんも窓際だといいね」


「まぁな。でも俺の苗字的に真ん中くらいだと思うけど」


 予想は的中し、俺の席は真ん中の列の最後尾だった。一番後ろという点に関してはとても良い。こっそりなにかしてもバレにくいしな。でも、テストの時とかに毎回プリントを運ぶ役目を担うことになるのかと思うと今から憂鬱だ。

 たくは「けんちゃんの席僕が見つける!」と言って探そうとしてくれたが、座席表が見える位置に一人で行けず泣く泣く戻ってきて不貞腐れた。雑に頭を撫でてやればすぐに笑ったので、なんとも単純なやつだと思う。


 約束通りお互いのクラスの間の廊下で話していたが、先生が来たのでそれぞれのクラスに入った。

 たくは俺がクラスに入るまで手を振っていた。もちろん、ちゃんと俺も振り返した。



のんびり続きを書いていきたいと思います。

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