誘いの電話
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食べてる最中に会話はなく、互いの食べる音だけが響いていた。
俺自身あんま食べてる時喋るの好きじゃねぇしな。それに何話していいか分かんねーし。
まぁ、普段は人目があるところで食べるから食事中でも話すけど。俺の学校でのキャラ的に。
別に休みの日までやんないでいいだろ。相手は日向だし。日向もあんまり喋んないしな。まぁそれでも日向に素を知られるわけにはいかねーんだけど。
俺はちらりと日向を盗み見ると、丁度日向は食事が終わり、箸を置くところだった。
「ご、ちそう……さま、です」
「お粗末様ー」
俺もだいたい同じタイミングで食べ終わったため、さっさと食器を洗ってしまおうと日向の食器に手を伸ばす。
その時だった。テーブルの上から電子音が聞こえてきたのは。
音の根源は俺の携帯だった。普段はマナーモードにしているが、部屋ではマナーモード切ってるんだった。
まぁ初期設定の音のままだけど。設定すんのめんどいし……とか言ったら喜美花に怒られたから、喜美花だけは専用の着信音だ。
でもその音じゃねーってことは喜美花以外ってことだよなー、誰だ一体。俺の番号とか知ってるの中学時代のダチか生徒会か――
俺は携帯へと手を伸ばし、画面に表示されている名前を見る。
"長門 壱岐"
壱岐かよ。何なんだ。
俺は一度日向を見て、へらりと笑う。
「ごっめーんちょっと電話してもいいー?」
「は、い」
「どーもー」
電話を無視すると壱岐が後で五月蝿そうだし、といって日向に別れの挨拶もなしに部屋に帰すのもな。隠れてこそこそ電話すんのも微妙だ。
そう思った俺は日向に了承を得て、電話の通話ボタンを押し、携帯を耳へと近づけた。
「もっしー甲斐くんでーす」
『……孝センパイ、今誰かと一緒にいるの?』
第一声からそれかよ。挨拶とかなしか。
演技した俺が電話に出たから分かったんだろうけど。
ってか最近だんだん敬語使わなくなってきてねぇか?前なら"~ッス"とか付けてたのによ。
……余裕がねぇってことか?すっげー情けない顔してたときもそうだった気がする。
ちゃんと言わねーとまた拗ねそうだし。ここはちゃんと言っておくか。
「今ねぇー日向といるよー」
『は?何で?』
「前髪切ったりさぁ、色々」
『……』
うっわーめっちゃ不機嫌そうな声なんだけどよ。
っていうか何の用なんだよ本当。黙りこみやがって、居辛いじゃねぇか。
『……孝センパイの浮気者!』
「……本気で言ってるー?」
またかお前。俺はおもわず溜息を吐いた。
ああ、日向がいなければ”ふざけんな”とか言ってやれるのに。
でも日向の前ではそんな暴言吐けないな、流石に。
俺は微かに腕を震わせながら携帯を持つ手の力を強めると、壱岐は電話口でふ、と息を漏らし。
『本気だけどさぁー』
「で、何の用事ー?」
『明日俺とデートしてよ、孝センパイ』
いつもより低い声で本気と口にしておきながら、打って変わって明るい口調で言葉を口にする壱岐についていけない俺がいる。
こいつの本気はいまいち読み取りづらいよな。相変わらず。
っていうか何で俺が壱岐とデートしねーといけねぇんだよ。デートじゃねぇだろ。普通にでかけるって言え。しかもテスト前だってのに余裕かよ。
「テスト前だけどぉ?」
『それを理由に断っちゃうんスかー?日向の前で?』
こ、こいつ……!
日向を逆に利用しやがった。たしかに日向の前では生徒会会計でありながらも、軽いチャラチャラしている俺を演じなければならない。
いつもへらへらして緩い俺は、テスト勉強を真面目にするなんて言えるわけねーって。
俺は空いている手をギュッと握りしめると、心の乱れを日向に悟られないようにいつもの笑顔を顔に貼り付ける。
「まっ、いっかぁ、いーよー」
返答の選択肢は、イエスしかなかった。
俺の返事を聞いた壱岐は満足そうに「へへ」と笑う。ったく本当にしょうがない奴だ。機嫌の上下が激しいし。
『じゃー明日、十一時に寮の入り口で待ち合わせってことでー』
「りょーかーい」
俺は電話を切ると携帯をテーブルへと置き、日向に微笑みかけた。
とりあえず、日向に一言謝ろう。電話してごめんと。
そして明日二人になったら即行で壱岐のこと殴る。よし。決めた。
でもまぁ、出かけること自体は嫌じゃねぇし、寧ろ気晴らしになるからいいかもしんないな、最近街に出てないし。
出かけることをなんだかんだで楽しみにしている自分がいた。




