偽りの顔*上総視点
まさか石見が甲斐のことを狙ってたなんて、誤算だったっつーの。
潔癖っぽいし何よりストレートで通ってたからな石見センセーは。
にしても気に入らねぇな――もう少しで暴けたかもしんねぇってのに。
アイツ――甲斐の首にキスマークを付けた時の反応を見て、慣れてねぇのはモロバレだった。
付けられる方に、かもしんねぇが、違うだろ。あの取り乱し方は。俺のことおもいっきり蹴りやがったし。
でもあのビクリと怯えるように震えて見せた表情は――嫌いじゃない。涙を薄っすらと浮かべた瞳に、紅潮する頬。押し倒したい衝動に駆られた。
しかも口調もいつもの緩いもんじゃなくて、切羽詰ってるって感じで年相応の少年って感じだった。
まさに俺の理想ってやつ?これで髪が黒とかだったら最高だっつーのに。
でももし、甲斐の本当がそれだったなら。
俺にキスマークを付けられた時に見せた顔が本当の甲斐の顔だったなら。
……普通に、俺の好みだ。
俺がそのことについて聞こうと思っても、甲斐は狙ったように授業休みやがるし?イイ度胸してんじゃねぇか。
ってことで今日俺の授業にやっと出て来た甲斐に、前と同じようなことをした。あわよくば放課後呼び出してやろうってな。
授業中、甲斐だけを当て続けてたのは俺を焦らした甲斐への罰だったわけだが。――大人げないのも分かってる。けど、俺をこれだけ焦らしたんだ。それくらいは許せよ、と。
しかしそれを相模に邪魔された。――そういえば敷地内で甲斐を見かける時に、よく隣にいたことを思い出す。
ヤツは友情に厚いってわけじゃなさそうだ。冷静な瞳の中に、俺への敵対心が感じられるし。多分、相模は甲斐のこと友達以上に思ってんだろう。
ま、それに甲斐本人は気づいてねーんだろうけど。アイツは普段、誰にでもへらへらと笑う奴だし。
邪魔はされたが、甲斐の放課後の時間を確保した俺は、上機嫌で自分のクラスのSHRを終わらせると、すぐに数学準備室へと向かう。
甲斐はSHRが終わったらすぐにここへ来るだろう。以前もそうだったからな。
で、まぁ予想通りにすぐに甲斐は来たわけだが。
「本当のお前は、どこにいんだよ?」
「何言ってるか分かりませんけどー?」
カマかけてみたが、アイツは笑うだけで何も答えようとしねぇ。
なら、仕方ないよな――言わせるようにするしか。
俺が甲斐の腕を掴む力を強め、引き寄せようとした瞬間、石見が来やがった。
クソ。俺は舌打ちをしながら石見を恨めしそうに見つめる。
俺は知りたかったってのに。甲斐の本当の顔ってやつを。
まぁそれも石見に阻まれたってわけだが。
つーか、石見の方が甲斐に触ってねぇか?しかもいやらしい手付きで、だ。
俺の時みたいに甲斐が反抗しねぇってことは、甲斐も石見のことを嫌ってはねぇってことだ。まぁ戸惑ってはいるみたいだったけど。
……って、何で俺イライラしてんだ。
まだ中身が俺の好みだって確証もねぇし。ただ外見が好みだってだけだろ。
ああ――何か本当イラつく。気を許した相手には警戒心がねぇのか、アイツは。
甲斐の顔を見ると――胸がざわついて、ムカムカすんだよ。好みの顔だってのに。他の相手に笑いやがって。その顔で。
俺はこの場から去ろうとする甲斐の背中にプリントを叩きつけると、甲斐は驚き振り向いた。
「なっ、何ですかー?」
「課題だ、お前何時間か休んでたからな――その罰だ、次回の授業までにやって来い」
「げぇー」
苦い顔をしながらも甲斐は腰を屈め、床へと落ちた束ねられた俺特製のプリントを拾う。
そして俺は元の体勢へと戻ろうとする甲斐の肩を押さえ、屈んだことによって無防備になった首筋に軽く噛み付いた。
「いっ……!」
「甲斐くん!……上総先生!」
甲斐とその後ろにいた石見は、驚き目を見開く。石見に関しては眉間にシワを寄せ、珍しく怒りを露にしていた。
油断したな、甲斐。俺に隙を見せたお前が悪い。
――まぁ、蹴られたことも、色々邪魔されたことも、今回はこれでチャラにしてやるか。
俺はいつものようにニヤリと笑い、口を開く。
「――俺は諦めねぇからな、甲斐」
いつか、お前の全てを暴いてやる。
そんな思いを込めて、俺は甲斐の耳元で囁いた。
上総視点……end




