午後の授業は
あーあー、委員長に恥ずかしいところ見せちまったな。
つい本音が出たっていうか。動揺していたってのもあるとは思うけどよ。
でも、委員長の言葉にすごく救われた。
委員長なら、本当の俺を知ってもきっと大丈夫だと信じてる。けど俺は臆病だからまだそれを告げることは出来ないけど。
いつか、委員長に本当の俺を打ち明けられたら良い。
――それにしても勇助くんには申し訳ないことをした。
告白の件もだけどちゃんと上着を返すことも出来なかったし。ちゃんと次に会ったときに話してくれればいいんだが。
でも、勇助くんは本当に良い男だから、俺なんかよりももっと人間出来てる人がお似合いだって。
俺のことを、いつかきっと若気の至りだったって笑い話にすることになるだろう。それもそれで複雑だけどよ。
俺はパンの袋をポケットに突っ込むと、隣にいる委員長をちらりと見る。
委員長はまだパンを食べていた。そういえば委員長、食べるのゆっくりだっけか。
まぁ多分授業には間に合うだろう――午後の授業は古典と、数学。古典はまだしも数学とかかったりぃ。つーか憂鬱だ。上総先生じゃねぇか。
朝向き合うって決めたが、やっぱり気は乗らない。もしこの前のことを突っ込まれたらどうしようか。つい素の自分を出しちまったしな。
でも、呼び出される前にさっさと帰るっていうのもありだよな……ってそれって逃げてるのと同じじゃねぇか!
あーもうどうすればいいんだ俺。
「何呆けてる」
「あ、あーちょっと考えごとー」
歩きながらも無言でいる俺に、委員長が声をかけてくる。それに俺はハッと意識を委員長の方へ向けると、へらりと笑って見せた。
「そうか」
委員長はそれをさらりと流すと、パンの袋を俺と同じようにポケットに突っ込んだ。
俺はそんな委員長を眺めていると、委員長が口を開く。
「お前のことだ、数学が憂鬱だとか考えていたんだろ」
「え、何で分かんのー?委員長ってばエスパー?」
「最近数学の授業出ていないし、以前もずっと当てられていたからな」
「すぐに予測できる」と委員長は眼鏡を直しながら言った。おお、すげぇ委員長。まったくその通りだ。
しかもその仕草、頭良さそうだ。って委員長は頭良いんだけど。
「予習はしてあるんだろう?」
「んーまぁ、一応ねー」
まぁそうなんだか。あんまり授業面では心配してはないんだが。
あのキスマーク事件とかあったし、おもいっきり蹴り上げちまったし。うう。やべぇじゃねぇか。
そういえば、キスマークといえばその後石見先生に消毒とか言われて……って!何思い出してんだよ!それで何体温上昇させてんだよ!
ああ思い出すな俺!平常心、平常心。
「……顔赤くなっていないか甲斐?」
「え、気のせいじゃなーい?」
顔に出てるしよ。しかも委員長気づいてるし。そんな訝しげに俺のこと見ないでくれ委員長。
俺はそれを笑顔で誤魔化すと、教室へ足早に向かう。内心は滅茶苦茶焦ってるけどな。
焦りの感情が先行して、憂鬱とかそんな気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまったみたいだ。
もう、なるようになれ。




