委員長の想い*委員長視点
――この馬鹿。
俺は口に出しそうなその言葉を飲み込んだ。
今は授業中だからだ。優等生で通っている俺が真面目に受けないわけにはいかない。
しかし俺の横で爆睡している男を見るとそうも言いたくなる。
――隣の男、甲斐 孝彦に。
アイツは俺が隣だなんて知らないだろう。最近席替えしたばかりだし。
俺が席へ戻る前にもう睡眠タイムだったからな。
だが、朝来たときのアイツの顔を見れば寝不足なんだろうと理解できた。
相変わらずの緩そうな雰囲気にへらへらとした締まりのない顔。
その目の下には薄っすらと隈が出来ていて、その笑顔にもいつもの様な明るさがなかった。
(まぁ、大体理由は分かる)
アイツは生徒会役員で、その仕事量も多いと聞く。
ここ最近は生徒会役員は転校生である一年の若狭光に夢中だともっぱらの噂だ。
だからアイツはその仕事に一層追われているんだろう。
このクラスでは時折甲斐も若狭の虜になっているのではと心配の声が上がるが、それはない。
基本的にアイツは他人と自分に境界線を引いている男だ。さっきもそうだった。
俺が少し踏み込もうとした瞬間アイツはさっさと立ち去って。
――アイツは皆平等に接するためにそうしているんだろうが。
そしてアイツは自分では隠しているつもりだろうが俺には分かる。根は真面目だということ。
理由がない限り授業は休まないし、いつもなら寝たりもしない。
疲れているから眠ってしまったんだろう。そんな無理などしなければいいものを。
よほど深い眠りについているのか、寝息すら聞こえず生きているのか?と思ってしまう。
俺みたいな人間にはアイツが実は外見とは違う人間だと気付いてしまうだろう。
このクラスには風紀委員もいるし――厄介だ。気付かなくて良い。
アイツの本当は俺が知ってれば、それで良い。
そんな独占欲に俺は自嘲的な笑みを一人浮かべる。
俺は横目でアイツの寝顔を一瞥すると再び黒板の文字を追った。
委員長side......end