朝の密会
俺は日向と髪を切る約束をすると、一緒にエレベーターには乗ったがそこからは別々に学校へと向かった。
だってよ、昨日まで俺に好意的じゃなかった奴が、俺といたらおかしいだろ。だから日向に「俺先にいくからー」と一言声を掛け、足早にその場を去った。
まぁきっと日向もそこらへん理解してると思う。うん。
俺は下駄箱へと着き、自分の靴箱の扉を開ける。其処には何通か手紙が入っていた。
呼び出しの手紙とかではないのは分かっているから、俺は手早くそれを鞄をしまおうとそれを手に取る。
何故呼び出しの手紙ではないと分かるってのは、俺が特定の相手と付き合う気がないというのが暗黙の了解になっているからだ。
チャラ男で通っている俺は顔が好みであれば誰でも抱ける、なんて思われてるらしい。
ま、ガセだけどなー男相手では経験なんてしたことねぇっての。
「甲斐」
「わっ……む、武蔵!」
背後からいきなり声を掛けられたと思ったら、そこには武蔵が立っていた。
か、かなりびびったぞ。っていうかこんな所で声かけやがって――俺は焦り周りを見渡す。
「大丈夫だ、まだ誰もいねぇ」
「そ、そうか……っていうか転校生くんはどうした?」
「寝てる」
「――置いて来てよかったのか?」
早い時間だったおかげか、周りに人影はなかった。
俺はホッと息を吐くと、武蔵の同室者である転校生くんが一緒にいないことに疑問を感じた。
一緒に生活してんだから、一緒に来るもんじゃねぇのか?武蔵は元々転校生くんの取り巻きだったし。今も形的にはそうだけど。
「アンタは、俺が光と仲良くしてて嬉しいのかよ?」
じとっとした目でそう問われると、なんて答えたら良いか分からなかった。
俺が苦手な相手と、武蔵が仲良くしてる――まぁ良い気分ではない。よな。
「は?そりゃ……まぁ、嬉しくはねぇけど」
戸惑いながら俺は答えると、武蔵の表情が若干柔らかくなった気がした。
「なら、良い――にしてもお前……」
武蔵の表情が再び険しくなったと思うと、視線は俺の手に持っている封筒へと送られている。
俺はそれを鞄の中へとしまうと、ぱんぱんと軽く鞄を叩いてみせた。
「ん?あ、これ?ファンレターみたいなもんだよ」
「へー随分もてんだな……生徒会だから当然か」
「おう」
正しく言えば、人気があったから生徒会役員になったんだけどな。まぁ武蔵の言葉も間違いじゃねぇか、人気があるイコール生徒会なら。
すると武蔵は目を細め、俺の頭の後ろの方へ手を伸ばした……と思ったら結んでいる髪を引っ張られる。何だ。何なんだ。
「な、何だよ……」
「髪、戻ってるなと思ってよ」
「あー昨日からな」
「こっちのがいい」
そうか、昨日は武蔵に会わなかったからな。髪下ろしてるときだっけか?前会ったのは。
っていうか結構頭とか髪を触るのが好きな奴だな。別に構わねぇけど。
俺もこの髪型は嫌いじゃないから、とりあえず礼でも言っておくか、と俺は口を開いた。
「サンキュ」
「おう――じゃあな、俺週番なんだ今週」
「へ、へー……頑張れよ」
週番――日誌を書く武蔵、黒板を消す武蔵……花瓶の中の水を換える武蔵……似合わねぇ。
っていうかちゃんと真面目にそういう仕事やんのが似合わねーっていうか……外見的に。まぁ俺も人の事言えねぇんだけど。
俺の中途半端な笑みに気付いたのか、武蔵は歩き出した足を止めた。
「柄じゃねぇって思ったろ」
「……わりぃ」
ほらばれてるって。
俺は眉をハの字にしながら武蔵を見上げながら謝ると、武蔵はフッと笑い、俺の頭をポンポンと軽く叩くと今度こそ俺へと背を向けた。
「謝んな、別に構わねーよ……じゃあまた」
「ああ、またな」
武蔵の背中へ向かい俺も挨拶をすると、武蔵は廊下を駆け抜けていく。廊下はあんま走るなよー、まぁ今はあんま人もいねぇみたいだから大丈夫か。
「みーちゃったぁー」
ずしり、と俺の背中へと重い何かが圧し掛かってきた。
うげぇ。ヤバイ奴に見つかったな、こりゃ。
俺へと圧し掛かってくる奴なんて一人しかいないし、声で分かった。
「――壱岐」
名前を呼ぶと、俺の首に巻きつけられた腕の力が強められる。
俺は嫌な予感がしながらも、顔を壱岐へと向けた。




