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生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
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おもかげ




「真でいいって、俺あんま名字好きじゃねぇんだ、女みてーで」


安芸くんは俺の背中を軽く叩きながら「別に呼び捨てでいーから」付け足しながら言う。


「そうなら真って呼ばせて貰うよー、俺のことも名前でいいし」


俺は何て呼ぼうか少し迷ったが、安芸くんのお言葉に甘えて呼び捨てで呼ぶことにした。

正直、あんまり"くん"とか付けて呼ぶの慣れてねーんだよな、基本的に呼び捨てだったし。

そして俺は真って呼ばせて貰うなら俺のことも名前で呼んで貰おうと提案してみる。真とは出来れば仲良くしていきたいしな。悪いやつじゃなさそうだし。


「いいのか?」

「何でー?」

「こっちにも報告来てんぞ、若狭と名前で呼ぶ呼ばないで揉めたんだって?」


俺の申し出に、真は戸惑っているみたいだった。

何故か聞いてみると転校生くんとの一件が風紀委員の耳にも入っているらしい。

詳細まで知っていた俺は驚いた――報告した奴は多分その時一年S組にいた人間なんだろうな。


俺は正直言うべきか言わざるべきか一瞬考えたが、これ位なら別にいいかと吹っ切れる。

この一件で風紀は俺が転校生くんのことを苦手だと分かっているだろうしな。多分だけど。


「あーそれは若狭くんがさぁ……」


俺は口篭りながら言うと、真はハハハと笑う。


「ま、どうせあの若狭のことだから勝手に友達だって認識したんだろ?」

「……よくお分かりで」


真の言葉は的を射ていて、俺は苦笑するしかなかった。


「風紀もアイツには手ぇ焼いてるからなー、接触したら接触したで友達扱いだぜ?」


風紀も転校生くんを護衛しないといけない時があって、そこで転校生くんに挨拶をしたら即行で呼び捨て、タメ口だったらしい。

真は「そんとき周防先輩がいなくて助かったって」と言っていた。


多分周防先輩は、そういう礼儀とかに厳しいからだろう。転校生相手に何か言ってしまうかもしれない。

すると生徒会が黙ってない……と。うんその場に周防先輩がいなくてよかった。

俺は風紀委員に同情し、「あははは……」と渇いた笑いを漏らす。


「でも意外だな、お前って結構フレンドリーな印象なのに」

「そりゃあ、礼儀正しい子とかにはそうだけどさぁー……失礼な子は正直苦手なの俺」

「へぇー」


まぁ普段は軽い男を演じてるから、フレンドリーって言われても仕方ねぇよな。

でも俺は俺で許せないこともあるわけで。喜美花には悪いけど、それは譲れない。

それに真に言っても問題はねぇだろ。言いふらすようなことはしないだろうし。


「っていうかさ真ー」

「ん?」


そういえば、とふと疑問になったことがあったので、俺は話の流れを断ち切る様に口を開いた。


「君今年から風紀委員入ったでしょ?なのに何で副委員長なのー?」

「え、何で俺が今年からって知ってんの?」


そう。多分真は二年から風紀委員に入った男だ。

流石に二年間同じだったら名前も知ってるっての。そこまで馬鹿じゃねぇ。

ちなみに風紀委員はクラス毎に選出するのではなく、スカウト制らしい。


「流石に二年も同じクラスだったとしたら、顔と名前くらい分かるもん俺ー」

「あーなるほどな、そう俺春休み中に風紀委員になったんだよ元はC組だ」


真は春休み中にスカウトされて風紀委員に入って、二年からS組入りしたってことか。

俺も一年の最初だけはB組だったな……一ヶ月もいなかったけど。生徒の自主性を重んじるだけあって、割と自由な学校だ。


「ふーん……で?」

「風紀委員って実力主義なんだ」

「ふんふん」


俺はどうして二年から風紀委員になった真が、すぐに副委員長になれたのかが知りたかった。


「んで一年が入った後で、トーナメント戦やんだよ」


歩きながらも大人しく真の話を聞いていると、聞きなれない言葉が耳に入って来る。

トーナメント戦……?


「トーナメントって……何の?」

「殴り合い」

「へっ?!」


俺は殴り合いと聞いておもわず声を上げてしまった。

何て物騒な……っていうか初めて知ったぞそんなん。

よく理事長とか、教員が許したな。


「殴り合いっていうかまぁ手合わせな、んで強い順から委員長、副委員長二人って」

「強いんだー、真って」

「おう、これでも道場の息子だかんな!」

「まぁ強くないと取り締まり出来ないもんねー」


そして幹部も二人いるけど、そいつらは頭脳戦専用らしい。だからトーナメントには参加しねーんだと。風紀委員長は戦闘力も頭脳もパーフェクトらしいけど。

何か複雑な組織だなー風紀委員って。生徒会なんて単純だもんなぁー人気ある順とか。

つーことは真は風紀委員で、三本の指に入る戦闘力の持ち主ってことか。すげぇな。

俺喧嘩とか出来ねぇからなー。護身術くらいだな出来んの。


俺は真を褒めると、褒められた本人はえっへんと胸を張った。


ああ、やっぱり――


「手ぇ出してくる奴もいるからな」

「……」

「どうした?孝彦」


俺を見上げる視線と、俺の名前を呼ぶ声でハッと我に返る。

ボーッとしてたみたいだ。

いや、ボーッとしてたっていうか、正しくは思い出してたっていうか。


「いや……似てるなぁって」

「誰に?」

「俺の中学生のときのオトモダチ」


そう、さっきも思ったけど真は中学ん時に仲が良かった友人に雰囲気が似ていた。

身長が平均以下のところとか、はっきりものを言うところとか。

何か懐かしいなー、だから居心地がいいんだろうか。


いつの間にか寮に着いていた俺達は、寮内のエレベーターへと乗ると、目当ての階のボタンを押した。


「へぇーっていうかお前ダチいたんだ」


真が発した言葉に俺は地味にダメージを受ける。

どうせ俺は友達少ねーよ。ほっとけ。


「え、何それちょっとひどくなーい?」

「いや、だって教室でも相模としか話してなくね?」


俺はへらりと笑いながら言うと、真は委員長の名前を出してきた。

そうそう、委員長ってば相模っていうんだった。


「そりゃさー俺には話しかけ難いでしょー?親衛隊持ちだし……俺も話しかけるのはねー」

「相模はどうなんだよ、アイツ親衛隊持ってねぇじゃん」

「……いいんちょーは特別だよー」


まぁ、親衛隊持ちの俺に話しかけたら、親衛隊に目を付けられるって思ってる人間が多数なのもあるんだろうな。

それに俺もあんまり親しい人を作っては駄目だと、ラインを引いてるから尚更だ。


でも、委員長は特別なんだ。




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