遅れてきたヒーロー?
「ごめん」
壱岐は笑いながら、そう一言。
笑ったって分かったのはふ、と息の吐く音が聞こえてきたからだ。
俺はその言葉に返答する代わりに、ぎゅ、っと壱岐の袖を握る。
言葉にしてしまったら俺のキャラじゃねぇし――っていうか、今この状況も俺のキャラじゃねぇな。
俺の目を覆っている壱岐の手を剥がす。
驚いた表情を浮かべている転校生くんと、勇助くん――眉間のシワが更に深くなっている武蔵が見えた。
「お前誰だよっ!」
「んー?別に君に知られたくないし?っていうか自分から名乗るのが礼儀デショー?」
転校生くんが咬み付くように言うと、壱岐は微笑みを浮かべる。
まぁ、目は笑ってねぇし、何処か見下してる雰囲気を醸し出してるけどな。
「お、俺は若狭光、よろしくな!ほら、お前も教えろよ!」
「……長門壱岐、別によろしくしなくていいよー」
ちらりと後ろを振り返り見てみれば、すっげぇ嫌そうな顔してる壱岐。
――俺は同情をせざるをえなかった。
転校生くんの怒涛の攻撃だもんなー……俺もそうだった。
何で自分に対して好意的でない相手にも、笑顔で踏み込んで来ようとするんだ。
もしかして嫌われてるって気付いてもいないのか?鈍感過ぎるだろ。
「壱岐な!お前って孝彦の……」
「気安く名前で呼ばないでくれる?俺のこと名前で呼んで良いのは孝センパイだけだから」
しかも転校生くんは勝手に名前で呼んでくるしな。
今回もそうみたいだったが、転校生くんが言葉を紡いでいる最中に壱岐の言葉がそれを遮る。
笑みは完全に消えていて、とても冷たい目で転校生を見ていた。
「な、何でだよ?!」
「っていうか何で許可も得てないのに勝手に名前で呼んでるワケ?そっちの方が俺には疑問ー」
「と、友達だからだろ!」
「友達?名前を名乗っただけで友達?そんな簡単に相手のこと分かったつもりでいんの?友達ってそんなに簡単に出来るもんなの?
仲良くなったつもりでいるワケ?自意識過剰だよねー君って、皆君のこと好きになるとでも思ってる?本当愚かだねー
生憎だけど俺は君のこと好きでもないし寧ろ嫌い、孝センパイを困らせる存在だから」
おーすげーなマシンガントークっていうの?
壱岐がこんなにペラペラ一方的に話してるの初めてみた。
「そ、そんな言い方しなくてもいいだろ?!」
「俺はこれ以外の言い方知らないし?っていうかそれじゃ何?君は何て言われたいわけ?」
「おっ……俺は……!」
壱岐見て思ったが、転校生に言い分を言うにはこういうのがいいかもな。
転校生の表情は雲ってはいたが、ちゃんと食いついてくるし。
っていうか俺の周りって皆転校生くんにズバスバ言うよなー委員長もだし。ま、いいけど。
「後甲斐孝彦親衛隊隊長のからの忠告――これ以上孝センパイを困らせたら、たとえ孝センパイが止めたとしても――潰すから」
「――壱岐」
おいおい、それは聞き捨てならねぇな。
俺はこう見えても平和主義者だぞ。制裁なんてもってのほかだ。
本当に辛くなったら俺は自分で行動するし――他の奴等を巻き込む気はねぇ。
「ちょーっと言い過ぎ」
「スイマセーン」
俺が笑顔で壱岐を諌めると、壱岐は鼻で息を吐き肩を上下させ、ベ、と舌を出し言葉だけで俺に謝る。
全然謝る気ねぇだろ。




