爽やかくんとの遭遇
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「あ」
「あれー?」
俺が昇降口へと着くと、そこには転校生の取り巻きの一人爽やかくんこと勇助くんがいた。
Tシャツに下はウィンドブレーカー。そして額に浮かんでいる汗。頬は薄っすらと赤みを帯びていて。
朝練か何かの帰りだろうか。
爽やかくんは、俺を見て目を丸くして立ち止まってるし。別に俺なんて無視してくれて一向に構わないんだけど。
「ゆーすけくんじゃんー、朝練?」
とりあえず何か会話した方がいいんだろうな、と俺はへらりと首を傾げながら笑顔を浮かべる。
前のことがあるから、あまり顔を合わせたくはないんだけどよ。
「あ、いえ……今日はなくって、自主トレです」
「ふーん」
でも爽やかくんは、肩に掛けているタオルで首元の汗を拭きながら、戸惑いつつも答えてくれた。
朝練がない日も朝から練習ねー、俺にはそこまで熱中するものがないから、素直にすげーって思う。
本当、惜しい奴。
「頑張ってるんだねぇーカッコイイじゃーん」
「は?」
「そういうの、いいと思うよー俺」
「へっ?!」
はい?何だコイツ。
俺が素直に認めて、褒めてるってのに変な声上げやがって。
まぁ確かにチャラ男の俺が笑いながら言ってるから、本気に取れなくても仕方ないんだけど。
しかもさっきよりも心なしか顔が赤くなってるけど、今更体温上昇か?
「な、何言って……」
「あ、いいんちょーだ!それじゃーね、ゆーすけくん」
爽やかくんが何かを言おうとしていたけど、俺は階段の方に委員長の姿を見つけそちらへ向かおうとする。
だって、あんま爽やかくんと話してると周りになんか言われそうだし、転校生がきたら嫌だし。
爽やかくんには申し訳ねーけどさ。
俺はヒラヒラと片手を振るとウィンクを一つ。
ウィンクも特訓の賜物だ。喜美花にチャラ男はウィンクが出来ないと!と特訓させられた。
「あっ……」
爽やかくんが手を伸ばしたのが視界の端に見えたけど、その手もすぐに引っ込められる。
悪ぃな爽やかくん。
俺は小走りで委員長の背後まで迫ると、委員長の肩に腕を置き、背中に覆いかぶさる。
「いいんちょーおっはよー」
委員長はその衝撃をグッと堪えて、キッと鋭い瞳で俺を見た。
「っ……!朝から五月蝿いぞ、甲斐」
怖ぇ怖ぇ。イケメンが台無しだぞー委員長。
「あははー、ごめんごめんって」
俺が口だけで謝ると、委員長はそのまま俺を半ば引き摺る格好で歩いて行く。
そして委員長はふと口を開いた。
「……さっき、話してただろ」
「ん?」
「生意気な転校生の取り巻き」
俺は最初何を言っているか理解出来なくて首を傾げたけど、転校生っていう単語でピンと来る。
「あらー見てたのー?」
「お前は目立つからな」
爽やかくんと話してとこ見られてたのか。
早めに退散して正解だな。他の生徒にも見られてたかもしんねーし。
「まぁ、挨拶だよー挨拶」
「そうか、まぁ別に俺には関係ないがな」
あははと苦笑して見せれば、委員長は眉間にシワを寄せる。――また、不機嫌になっちまった。
「何々?ヤキモチ?大丈夫だっていいんちょーの方が大事だからさー」
多分そんなことはないだろうけど、今の俺はチャラ男だからそれらしく振舞わなければいけない。
俺はぎゅ、っと片腕で委員長の首を抱きしめながら耳元で言う。まぁ俺は上総先生みたいにエロい声なんて出さないけどな。
すると委員長は俺の頭をベシッと叩いた。軽くじゃなくて普通に叩いた。痛ぇ。
「……馬鹿かお前」
俺は委員長を解放すると、叩かれた部分を押さえて「いた〜い」と声を上げるが、委員長はそんな俺を無視してスタスタを廊下を歩いて行く。
見捨てられた……




