表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
18/106

贈る言葉



社会科準備室の扉をノックし、返事が聞こえると俺はすぐに扉を開け、逃げ込むように室内へと体を滑り込ませた。


俺が顔を上げると目の前の石見先生は目を丸くしていて、俺は平然を装いへらりと笑ってみせる。


素がばれそうになって焦ったなんて、知られたくない。


「はぁーい、いわみーん書類持って来たよぉー」

「あぁ、それはありがたいんだけど……どうかしたのかい?」


俺が書類を石見先生へと手渡すと、それを受け取った先生は心配そうな表情で俺を見た。


その顔に確信めいたものは感じられなかったから、俺は誤魔化そうと笑みを深める。


「別にぃーなぁんにも?」


すると石見先生は空いてる手を俺へと伸ばし、俺の目の下を擦った。

あ、隈がばれてーら。


「無理を、させてしまっているね」

「いわみんが気にすることじゃないってー、俺ってこれでも会計だしねぇ」


悲しそうな顔へ変化させる石見先生を見て、俺は申し訳なくなる。


別に先生が悪いわけじゃないのに。悪いのは仕事しない奴だろ。先生が胸を痛める必要なんてないだろ。

俺は笑顔を作り、俺の目の下に触れている先生の手に触れた。


「でも普段は六人分の仕事なのに、それを一人でするなんて無茶だ」

「大丈夫だよー、別に今は特別なイベントとかないんだしー」


文化祭やら体育祭やら、新入生歓迎会があるわけじゃないからまだマシだ。

とはいえ仕事量は結構なもんなんだけど。特権使ってるし。


しかし流石に夏休み前らへんからはやばい。秋には文化祭と咲華祭(所謂文化祭だ)があるから、仕事量が一気に増える。


まぁ咲華祭実行委員会や体育祭実行委員会もあるから、その手伝いや、最終確認をするって感じなんだけどな。


「それに俺、今日までの書類ちゃんと仕上げでしょー?俺を信用してよー、まぁこんな俺出来ないとは思うけどさぁ」


今日までの書類が終われば後は三日後が期限だったりと、まだ時間があるものばかりだ。


授業を休みながらやれば終わらない量じゃない。まぁ出れたら授業も出るけどよ。


俺はあははーといつもの調子で笑いながら言う。だから石見先生は心配する必要なんてないんだ。なんて。

心配してくれるのは嬉しいんだけどな。うん。


「してるよ」

「え?」


「――信用してるよ、甲斐くんのことを」


石見先生はふわりと優しく、包み込んでくれそうな微笑みで言ってくれた。


俺のことを信用してる、だなんて。


一年の時から迷惑掛けてたのに。俺の所為で不機嫌になった会長を宥めたりなんだりさせたのに。


せめてもの償いのつもりで、ちゃんと仕事は提出期限前に終わらせていたけど。

今は一緒に仕事を背負う仲になったけど、それでも何だか申し訳なくて。


でも先生は俺を信用してる、って言ってくれた。


「なら俺頑張らなくっちゃねぇー」


うん。頑張ろう。

俺は決意を新たにした。

石見先生の信用に応えたいしな。

何て思いながら俺は目を細めると、先生は頭を左右に振った。


「違うよ、甲斐くん」


まさかの否定の言葉に、俺はおもわず目を丸くしたが、一瞬でまた笑みへと変えふざけてみせる。


「えー?」

「甲斐くんは頑張ってるよ、でしょう?」


先生が言ったその言葉は確か――



「いわみんは頑張ってるよーってのがいいよねぇー」



俺が、石見先生に言った言葉だ。

何かしてやられたって感じ。

自分が言った言葉を返されるなんて、何だか照れくせぇ。


「へへ、ありがとうねぇーいわみん」


頬に熱が集中する。柄にもなく俺は照れてるみたいだ。

俺はそんな所見られたくなくて――思わず顔を俯かせた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ