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生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
105/106

金と銀





「ちょっとー孝センパイ!まじで脇は駄目なんだって!」



さっき「うぎょはぁ?!」と奇声を発した壱岐は、脇腹を押さえながら涙目で俺に訴える。

……重い空気をどうにかしたくてついついやってしまったけど、本当悪いとは思ってる。スマン壱岐。

多分、壱岐もそのことは理解しているのか、本気で俺を非難しているわけではないのが声色で分かる。

そして、壱岐の捨て身?の奇声のおかげか少し場の雰囲気が和らいだ気がした。

すると先程まで黙っていた武蔵が口を開く。



「意外だな」

「は?」



武蔵の発した言葉に、壱岐はギロリと鋭い視線を武蔵に向ける。

言われた言葉が気にくわなかったのか、それを言ったのが武蔵だったから嫌だったのか理由はわかんねぇけど。

壱岐は俺と武蔵が友人であることを知ってるから、微妙に対抗意識があるみたいなんだよな。



「くすぐってーの、平気そうなのに」

「お前には関係なくない?俺のカラダの事を知ってくれるのは、孝センパイだけでいいんだけど」



……あーこれは、武蔵に言われたことが嫌だったパターンか?

いつも語尾伸ばしたような話し方をするくせに、怒ったりしてると普通の喋り方になるから分かりやすいよなぁ。

さっき和らいだと思った雰囲気が一瞬で凍り付く。

さっきの俺の行動が無駄になっちまったじゃねぇか。



「……喧嘩売ってんのか」

「別にお前のことはどーとも思ってないし」



おいおいおいなんだこの不穏な空気はー!

険悪すぎるぞ壱岐!何がお前をそうさせたんだ。

いつもの壱岐なら軽く流すとこだと思ったんだけど、どうしちまったんだ。



「壱岐」

「――……」



でもあんまり絡むと、武蔵にも迷惑かけちまうし。

俺は壱岐を止めるために、その名前を呼んだ。

俺に名前を呼ばれた壱岐は、視線を武蔵から俺へと移し――いつもと違う冷たい笑みを俺に向けた。


こんな瞳を俺に向けたのは、初めてじゃないだろうか。

何か壱岐の気に障ることをしちまったか?



「――孝センパイ」

「へ?」



俺の名前を口にすると、壱岐は俺の手を引き速足で歩き出した。

いきなりのことで俺は唖然としてしまい、その歩き出した壱岐に声をかけることも、動き出した足を止めること出来ず、後ろから転校生くんが「ちょっと待てよ!」と声を掛けてきたのも聞こえたが、俺はそれに答えることも出来なかった。


壱岐は人と人の間を上手く躱しつつ進み、どんどんと人がいない方へと進んでいく。

その間一言も言葉を発さず、俺は気まずくて仕方なかった。

片方の人間が黙っちまうとこっちもなんか――黙ってしまう。


そして人影もない場所まで来たと思ったら、ぴたりと壱岐の足は止まった。

そこで大きく一つ、深呼吸をすると壱岐の背中を見据えて



「壱岐、お前どうしたんだよ」



そう俺が言うと、壱岐はゆっくりと俺の方へと振り向いた。

その顔は前も見たことがある表情だった。



『お願い、孝センパイ』


『誰と交流しようが構わないから――俺に隠さないで』



泣きそうな、情けない顔。


俺に置いてかれて寂しい、っていっているような顔。


またこの顔をさせちまった、と俺の胸が何かに刺されたように痛んだ。



「――孝センパイ」



壱岐の手が伸びてきて――俺を抱きしめる。


拒んでは、いけないような気がした。


さっき――転校生くんから隠れた時と同じようなシチュエーションなのに、全然違う。


壱岐の身体が、手が、冷たい。でも耳元にかかる息は熱くて――



「――駿河と何かあったよね」



疑問形ではなく、断定した言い方をする壱岐は確信している。


俺と勇助くんと何かあったということ。


そうだ、俺は壱岐に言っていなかった。勇助くんに告白されたことを。


だから俺は壱岐にあんな顔をさせちまったのか――でも――でもさ――


俺はどう説明すべきか、どう声を掛けるべきか言葉を探しておもわず天を仰いだ。



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