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生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
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駿河勇助の嫉妬*駿河視点




甲斐先輩にフラれてしまった。

けど、俺はまだ甲斐先輩のことが好きなままだ。

甲斐先輩が俺に返そうとしてくれた上着を見ると、まだ胸は痛んで仕方ないけど。

それでも甲斐先輩が与えてくれるものだからと、耐えられる自分がいる。


頭を真っ白にして、自主練して。

でもテスト前になるとそれも許されなくて。


俺は成績は平均以上だったので、周りの部員よりも焦ってテスト対策をしないで済んだけれど、勉強はしないとなと思っていたら光が「遊びに行こうぜ!」と誘ってきた。

光は授業態度はそこまで悪くないけど、小テストとかの点数を見た感じ俺よりも勉強しないといけない気がするけど…

そのことを光に伝えてみても「大丈夫だって!」というばかりで、俺の言うことは聞いてくれなかった。

俺は今でも友人として光のことは好きだから、光が赤点を取らないように祈るばかりだ。


でも正直、学校や寮にいると甲斐先輩のことばかり考えてしまうので、この誘いには救われる。

少しでも甲斐先輩から離れて、少しでも早く甲斐先輩のことを――忘れないと、いけないんだよな。きっと。







俺と光、そして武蔵の三人は一番近いショッピングモールへと来ていた。

学園が隔離された場所にあるので、うちの学園の生徒が遊ぶとしたら皆ここへ来るだろう。

さすがにテスト前だし、今日は学園の生徒はそこまでいないみたいだけど。



「で、光まずは何する?」

「やっぱゲーセンだろ!ゲーセン!」



ショッピングモールには服屋や本屋、CDショップなど様々な店舗があったけど、俺の予想通り光はゲームセンターを選択した。

光は本もあまり読まないし、音楽も興味ないみたいだしまぁ妥当かな。

そういえば休日に寮以外で光達と遊ぶのは初めてだ。いつも寮の部屋で話したりゲームしてはいたけど。

なんだか新鮮な気分だな。これはいい気分転換に――



――なると、思っていた。



「待って孝センパイ、ストップ!!!脇は駄目だって!」



ふと、聞いたことがある声が耳に届いた。

それは俺だけではなく光や武蔵にも届いたようで、光は勢いよく周りを見回すと、その声の人物を探し出した。

――正しく言えば、その声を出させた【孝センパイ】を見つけ出したんだけど。



「孝彦!!?」



光の目が爛々と輝いている。見つけてすごく嬉しそうだ。


俺だって――正直言えば、嬉しい。

まさか休日に会えるとは思ってなかったし。しかも私服だって初めてみるし。

わりとシンプルな恰好なんだな、とか。でも似合ってるな、とか頭の中でぐるぐると色々な考えが巡る。

でもやっぱりフラれた手前、気まずさもあってうまく表情は作れなくて。


しかもなんか甲斐先輩と長門の距離が近いし…二人でボソボソと話してるし…

俺は駄目なのに、長門は近くにいていいってことなのかな。親衛隊隊長なのは分かるけど、なんかちょっと…モヤモヤする。

俺と長門の違いってなんだ?身長?髪色?性格?


――俺はどうすれば甲斐先輩に近づける?傍にいられる?

忘れないとって思ってたけど、そんなの出来るはずない。

甲斐先輩を目の前にするだけでまだ、こんなに頬が火照って、鼓動が高鳴って――泣き出しそうになるのに。



「甲斐先輩」



絞り出すように、声を出す。

変に聞こえてないかな。声は震えてないかな。

不安に思いながら、俺は甲斐先輩を見る。

甲斐先輩の表情が一瞬、固まった気がした。



「しばらくぶりだねー勇助くん」



前と変わらない対応に見える。

でも、なんかやっぱちょっとぎこちない気がする。

――俺が告白したから、俺を意識するようになってる?


そうだったら、少し嬉しい。

俺の事を意識して、俺の事を考えて。

いつか、この人の内側に踏み込むことを許してくれたら。

俺はすごく幸せになれるんじゃないか。



俺が「ありがとうございます」とお礼の言葉を口にすると、甲斐先輩は首を傾げた。

この前の貸した上着の返却の事を言ったつもりだったのだけど、甲斐先輩は何について俺がお礼を言っているのか分からなかったらしい。

そんな小さなしぐさでも、ときめくように胸が弾んでしまうから俺は重症なのかも。



「上着、わざわざ洗って下さって」



俺がそういうと、甲斐先輩は小さくだけどホッ、と安堵の息を吐いた後、それを誤魔化すように「まぁそれくらいはねー?」とへらりと笑った。

多分返そうとしたときに俺が告白してしまって、その場から立ち去ってしまったからきちんと俺の手元に戻ってきたのか心配だったんだな。


ああ、やっぱり俺――



「やっぱり、甲斐先輩は――優しいです」



甲斐先輩が好きだ。

すごく、好きだ。

不器用な優しさも、隠れて気遣ってくれるところも、笑った顔も――今してるみたいな、悲しさを隠しきれていない顔も。

全部、全部好きです。

甲斐先輩。きっと先輩は自分の優しいところを隠したがってる。でも、それはきっと気付かれちゃいますよ。

だって鋭くない俺が気付いたから――きっと日向も気付いてしまったから「ああ」なったんだろうし。


でも、どうかまだ他の人は気付きませんように。

貴方の優しさに気付く人がこれ以上増えませんように。


醜い独占欲、醜い嫉妬。


フラれた俺がこんな気持ちを抱くのはお門違いで、許されないのは分かってる。

でも自分ではどうしようもできなくて。

もし、俺以外の人が甲斐先輩を好きになって、その人はフラれずに甲斐先輩の傍にいることを許されたりしたら――耐えられない。

想像しただけで涙が出そうになるのを、グッと目に力を入れて堪える。



どうかこの汚らしい感情に、甲斐先輩が気付きませんように。





駿河視点......end




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