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生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
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ショッピングモールにて




俺たちの学園は山に囲まれた中にあり、そこから繁華街に行くには車かタクシー、バスという手段しかない。

運転免許を持っていない俺らに車という選択肢はないし、学生だし、そこまで金持ちでもないのでタクシーというのもない。

つまり残された選択肢――バスで俺と壱岐は移動するわけだけど――


(人に見られたりしたら……流石にやばいか)


俺と壱岐の関係は傍から見れば生徒会会計と、その親衛隊隊長って関係で。

壱岐が親衛隊隊長ってだけで俺との関係は誤解されやすい。身体の関係があるとか。

まぁチャラ男って設定の俺だから。別に設定的には問題はないんだけどよ。

私生活まで踏み込ませてるとか思われて、親衛隊の中で亀裂が生まれるのは避けたい。

そんなことをバス亭で待ちながらもぐるぐると考えていると、壱岐が口を開いた。



「安心してよ、孝センパイ――テスト前だからBクラス以下のクラスは外出禁止だし

 やっと部活動停止期間になって、勉強ができるようになった運動部連中は集団で勉強会。

 文化部は真面目な人間が多いから、この期間には外出する奴はあんまいないし

 それにこの時間帯に出かける人間は学園内にはそこまでいないから、誰もいないと思う」



俺の心配事を見事的中させるとか、エスパーかこいつ。

その情報はどこから持ってきてるのか分からねぇけど、喜美花のことも掴んでた奴だから、実家がそういうことに長けている職業なんだろうな。と勝手に納得した。



「……おう、サンキュ」

「俺が好きでやってることだから全然いいデスよー」



こいつの取ってつけたような敬語はもはやスルーだ。

【好きでやってること】っていうけど、その情報を得るために自分の家をフル活用する奴には見えねぇし。

多分色々大変な思いをさせてるんだなと思う。親衛隊のこととか、俺が苦手としてる転校生くんのこととか色々気にかけてくれてるし。

こいつもこういう外見で誤解されやすいけど、案外真面目な人間なのかもしれない。



「何?孝センパイ俺の顔ジッと見たりして~もしかして俺に惚れ」

「しつけぇなお前も」



ジッと顔を見つめていた俺も悪いけど、何回同じやり取りをさせるつもりなんだ。

俺は大きく溜息を吐くと、丁度バスが来たのでそれに俺と壱岐は乗り込む。

バス内には人はおらず、俺たちだけだった。学園より前の停留所はあまり使われていないから当然といったら当然か。

俺と壱岐は二人掛けの席に隣り合って座ると、俺は窓側にいる壱岐を見た。



「で、街に出るのはいいけどよ、何するとか決めてんのか?」

「んーとりあえずショッピングモール行って、本屋いってー飯食べてー服見て―ゲーセンいってー

 って感じにしようかなって」

「……思ったより普通で驚いてる」



壱岐の出したプランが思った以上に普通で目を丸くすると、壱岐が「えぇー何期待してんスかー」と笑う。

中学時代の友人と遊んでいた時みたいなプランだったから、なんか、友達みたいでいいなって思ったんだ。

そういえばこの学園に来て初めてだな。こういう風に外で誰かと遊ぶのは。

学校以外の場所で会うとボロが出てしまうかもしれないって、学園行事関係以外では外に全然出てなかった。



「たまにはさ、息抜きしないと駄目でしょ?」



窓の外を眺めながら、呟くように壱岐はそう言った。

……その息抜きっていうのは、やっぱり俺のってことだよな。

分かりにくい優しさっていうか…こいつも案外素直じゃねぇな。

ま、正面から言ってきたら俺が「テスト前だから」って断るだろうし。だからあんな誘い方してきたんだろうな。

それなのに、本当に来てくれるのか不安で早めに待ち合わせ場所に来るとか、見た目とのギャップありすぎだろ。

さっき【可愛いとこある】は撤回したから、本人には言ってやらねぇけど。



「……ありがとな」



でもまぁ、礼を言わないのもあれだしと、壱岐に聞こえるか聞こえないか分からない位の声量で言葉にする。

俺はバスの通路を見ながら言ったので、壱岐に聞こえたのかも、聞こえたとしても壱岐がどういう顔をしているのかは分からなかったが、

壱岐がそっと俺の手に自分の手を重ねて、ポンポンとあやすように軽く叩くから。


振り払うのも面倒なので、暫くはそのままにしておこう。

ちゃんと伝わったことが嬉しかったわけでも、照れ臭かったからってわけでもない。







あのまま無言でバス移動は続き、やっと繁華街へと着くと、時刻は十二時を指していた。

壱岐は「お昼は店が混むから、ちょっと外して後でご飯でもいい?」と俺に聞いて来る。

確かに今からお昼を食べたとしても、店内で待つことになるだろうしなと俺は壱岐の申し出に頷く。



「じゃあ最初に本屋に……」



壱岐は本屋の方向を指差しながら、そちらへ向かおうとしていたが

なんとなく疑問に思ったので、俺はその疑問を伝えようと口を開く。



「別に本屋なのはいいけどよ、何で本屋なんだ?」



俺のその疑問に、壱岐は「え」と硬直した。

そんなに俺は答えにくい質問をしたか?と首を傾げる。

壱岐は言いにくそうに何度か言いかけては口を噤んでいたが、観念したようにちらちらさせていた視線を、真っ直ぐ俺に向けた。



「……孝センパイって、読書好きでしょー?」

「あ、あぁ……でも何でそんなことお前が知って……」



確かに、俺は読書が好きだ。別に何の作者が好きとかっていうのはないがミステリー系を好んで読む。

でもそれは高校では誰にも言っていないはずなのにどうして壱岐が……ってそうか、情報収集が得意なんだった。

で、壱岐は俺が壱岐に言ってもいない情報を知っているのか、絶対不審に思うから理由を言いたくなかったって感じか?

別に自分が欲しい本があるとか、嘘でも言えばいいのにな。まぁでも、こいつは俺には嘘を吐かないか。これは俺の勘だけど。

俺の顔色を窺っている壱岐に、俺は息を吐いて。



「……別に、お前が情報収集が得意なのは知ってるから怒りはしねぇけど」

「ほ、んとに?」

「でもこれからは、俺に対して聞きたいことがあったら直接俺に聞けよ」



「答えられない質問以外は答えるから」と俺が言うと、壱岐は嬉しそうに笑った。

いつもみたいなニヤリって笑う不敵な笑みとは違う。普通の笑顔。

何か今日は調子が狂うな……いつもとは違う壱岐ばっかり見せられてるからか。怒る気になれねぇや。



「孝センパイの好きな本のジャンルは?」

「ミステリー」


「孝センパイの好きな人のタイプは?!」

「ノーコメント」


「孝センパイの好きな後輩のタイプは?!」

「ノーコメント」


「孝センパイの好きな男のタイプは?!」

「ノーコメント!」



ニコニコしながら質問してくるけど、最初の質問以外まともなのねぇじゃねぇか!

二番目の質問と最後の質問ほとんど同じ内容だしよ。

何で少し見直したら、いつもこうなるんだよこいつは!



「孝センパイ!」

「んだよ今度は……」



いきなり壱岐が焦ったような声を出したと思ったら、俺の腕をいきなり引っ張った。

咄嗟のことで俺もうまく反応できず、壱岐にされるがままになり建物の狭間へと引きずり込まれる。

質問に答えなかったからって、腹でも立てたのか?それにしても突拍子のない行動だしな……と言葉も出せないでいたら、壱岐が俺の耳元で何かを言おうとした。

耳に吹きかかる息でくすぐったいと身を捩ったら、手で頭を抱き込まれて動けなくなる。くすぐってぇ。



「動かないで、いるから」

「いるって何がだよ」

「若狭光とその取り巻き」



……まじかよ。

俺の休日はどうなっちまうんだ。



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