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生徒会会計の憂鬱な日々  作者: とみお
春、崩壊した日常に希望はあるか
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待ち合わせ





朝、目が覚めると時計は午前七時を指していた。

一瞬焦りを感じ、ガバッと勢いよく体を起こすが、よくよく考えてみると約束の時間は十一時。

風呂に入って、そのあと朝食を食べても余裕がある。俺は安堵の息を吐き、ゆっくりとベッドから出た。

とりあえず風呂に入ろうと俺は脱衣場で服を脱ぎ、それを洗濯機に放り込む。


何が冷蔵庫に残ってたっけか…ささみは使ったから、残ってる鮭でも焼いて、豆腐とわかめの味噌汁に卵焼き……あとは漬けておいたキュウリの漬物があったはず。

元々実家が自分達で漬物を作る習慣があったから、自然と俺も自分で漬けるようになったんだけど、もしかしてこれっておかしいのか?委員長とかには聞けないし、壱岐はやるわけねぇし……今度武蔵にでも聞いてみるか。


そんなことを考えつつもシャワーを浴びていたが突如、今日壱岐と出かける時のことが気になりだした。

どこに行くかも聞いてねぇし、昨日は少し楽しみだなんて思ったけど。あいつって一応俺のこと好きなんだよな……?まぁ二人きりになったことは今までにもあったし……


……考えても仕方ない。

テスト勉強ができない分、今日はあいつに何か奢らせてやる。

俺の方が年上とかそんなの関係ないからな。半強制的に俺にOKさせた責任を取って貰わねぇと。


俺は風呂から上がり、髪をドライヤーで乾かすと朝食つくりを始めた。



そういえば、昨日寝ちまう前に昔の事を思い出した気がする。

昔へこんでた時にその人に会って、俺は救われたんだった。

俺が小学生の時に高校生っぽかったな。その人もなんか悩んでたみたいだった気がする。


何を話したかとかは覚えてんのに、その人の顔が思い出せねぇんだよなぁ。


どんな顔してたっけかなー……真面目そうではなかった気はするんだけど……


俺はうんうん唸りながら朝食を食べている間中、その人の事を考えていたが、その顔を思い出すことはなかった。







午前十時五十分。

Tシャツにパンツ、それにストールといったシンプルな服装に着替えた俺は、待ち合わせ時間より十分前に寮の前に着くように向かう。

別にギリギリに来ても良かったんだけどよ、もし壱岐の方が先に来てて

「孝センパイおっそーい」とか言われたら腹立つし。


一分でも遅れてきたら、二発殴ってやる。


そう心に決め、寮の前へと到着したが――



「孝センパイ、おっはよーございマース」

「……」

「何?どしたの?」



何で、そのチャラそうな見た目で待ち合わせ時間十分前に着いてるんだよ!

もっとキャラクターを大事にしろよ!そんなキャラなのかよお前は!

呆然と壱岐を見つめていたが、俺は目を瞬きさせると



「……お前、何分前に着いてたんだ?」



周りには人がいなかったし、いいかと思って素の自分で話しかける。

俺の質問に壱岐は一瞬目を丸くしたが、その後ニィといつものように笑い



「俺も今着いたとこデスよー」



――その言葉が嘘なことはすぐに分かった。

今日は普段よりも暑くて、壱岐の首筋には汗が滲んでいた。

今着いたというなら、本来ならまだ汗は滲んでいないと思う。

何で壱岐がそんな嘘を吐いたのかわからないけどよ。



「……お前、嘘下手だな」

「へ?」



俺は鞄から汗拭きシートを取り出すと、それを壱岐へと差し出す。

それだけで壱岐は、何故俺が嘘だと指摘したかを理解できたみたいだった。

「あ」と声を上げた後バツが悪そうにそのシートを受け取り、自分の顔や首筋をシートで拭く。



「別に何分前に来ようといいんじゃね?」

「……恥ずかしいでしょー」



……何が?

自分のその外見で早く着いてるってことがか?

でもそれは俺のただの憶測だ、本当は違う答えなのかもしれないとジッと壱岐を見る。

壱岐は俺から目を逸らし、首に自分の手を当てた。



「本当に来てくれるのか、ちょっと不安で……三十分前からいたとか……」



……三十分前にいたとかまで聞いてなかったけど。

なるほど、そういうことか。

ほぼ無理やり誘ったってことは壱岐本人も分かっていたみたいだ。

「孝センパイのことだから、絶対来てくれるとは思ってたんだけど」とか「念のため」とかべらべらと壱岐一人でずっと話続けてる。


なんだ、こいつ。



「お前、ちょっとは可愛いとこあるんだな」

「は、はぁ?!何それ!」



俺の「可愛い」という言葉に壱岐は勢いよく顔を上げる。

いつもとは違う焦りを感じる表情だ。

顔が赤くなっているのは、暑さのせいだけじゃないだろう。


うん。初めて壱岐の後輩らしいというか――年下らしい部分を見た気がする。

いつもこいつは不敵な笑みばかり浮かべて、俺を振り回してたから。

まぁそれで助かった部分もあるのは事実なんだけど。


――少し、うん。少しだけ俺の弟に似ている。

照れると耳が真っ赤になるところとか。

壱岐も高校一年生なんだよなぁ。



なんだかおかしくなって、昨日から会ったら殴るつもりだったけど、

もうすっかりそんな気はなくなっていた。



「もしかして孝センパイ……俺に惚れ」

「ちげぇよ」



……前言撤回。

やっぱりこいつ可愛くない。




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