望まぬ遭遇
「孝彦じゃん!貴一!孝彦がいるぞー!」
……げ。
本当目敏い。別に構ってくれなくていいですから。
しかも生徒会役員呼ぶなって。しかも会長あれでも三年だからせめて先輩つけろや。
ああもうなんなのコイツ。若狭、だっけ。
俺は自分の名前を大きな声で口にする相手に肩を落としながらフォークとスプーンを置き席を立つ。
「いいんちょー、俺、用事が出来たからさぁー」
「孝彦!何残そうとしてるんだよ!食堂の人に失礼だろっ!」
お 前 が 来 た か ら だ よ 。
確かに食堂の人には悪いとは思うがあんまりお前と接触したくねぇんだよ。分かれコラ。
って言ってやりたかったけどそんなのチャラ男の俺には無理で。
俺の後ろに立っている転校生くんに笑顔を向け
「違うってー若狭くんが来たから迎えようと思ってさー」
「あ!そうだったのか!ごめんなっ誤解して」
んなわけあるかぁああ!
誰がお前なんか迎えるかよ。俺的にお前は苦労の種なんだっての。
しかし俺の嘘を相手は簡単に信じ、頭を掻きながら謝ってきた。
その髪で頭を掻いてるとかなんか昔の探偵みたいだな……
座ってる委員長の顔もなんか引き攣ってるし。
あんまり表情豊かじゃない委員長も表情に出す位だ、委員長も転校生をあまりよく思っていないらしい。
「甲斐か」
会長が俺を嫌そうな声で呼ぶと俺はそれに最高の笑顔で答える。
「あれぇー皆さんお揃いでー」
甲斐か、逆から読んでも甲斐か。なんちゃって。
ってんなくだらねぇこと考えてる場合じゃねーっての。生徒会役員勢揃いしやがった。
仕事しないで何やってんだこの野郎って思いを込めながら。
「生徒会室には来ないのに食堂には来るんだね、甲斐」
「そーだぞ孝彦!仕事サボんなよ!皆に迷惑かけることになるんだからなっ!」
薄っぺらい笑顔で俺に遠まわしに仕事をしてないと責めてくるのは、副会長である和泉先輩だ。
それに便乗するのは転校生くん。ってか俺仕事してるから。お前らがしてないだけだから。
勝手に決め付けんなよ。生徒会室にいてもただ喋ってるだけの先輩らと、部外者である奴にんなこと言われたくねぇんだよ。
「ごめんねぇー俺も忙しくってさぁー」
「「それってセフレとのセックスにってことぉー?流石下半身男だよねー」」
心の中で先輩達に文句を言いながら笑顔でそれを受け流すと、
二人の掌を合わせながらねーっと互いに顔を見合わせたのは庶務である双子、因幡大地に大気。
瓜二つな二人は俺も見分けつかねー、ってか瓜二つの時点で違うものになろうとしてねーよな。こいつら。
ってかセフレとかいねーっての。どっからそんな噂流されたんだ。まぁその方が動きやすいからいいんだけどよ。
「まーご想像におまかせってやつー?」
双子の確定に近い質問をはぐらかすと、でかい男が俺を見下ろしていた。
「……光、困らせる……駄目」
片言で話すこの男は後輩で書記の日向。しかも名前は読み方だけでいうと"けん"――犬か。
別に俺は転校生くんを困らせたつもりはない、彼が勝手に言ってるだけだ。
しかも彼の後ろにいる二人の男、不良くんと爽やかくんは俺のこと睨んで来てるし。
そんなに転校生くんに絡まれてる俺が羨ましいのかよ。なら変われ。今すぐ変われ。
駄目だ。本当に怒りたい。だが落ち着くんだ俺。今はチャラ男。へらりとかわさなくてどうする。
心に余裕を!頬の筋肉を上げて笑顔で!
「あはっ、ごめんねー今度顔出すよー」
転校生がいないときにな!
俺は嘘は言ってないぞ。嘘は。
「ずっと思ってたんだけど、孝彦その笑い方やめろよ!気色悪いぞ!」
……は?
真っ直ぐな瞳で(まぁ瓶底眼鏡で目は見えないが多分)俺を見ながら言った転校生くんに、俺はそのままの表情で首を傾げた。
まぁ副会長の笑顔が偽物だと分かっている時点で、俺も言われるってことは予想付いてたけど、ここで言うか普通。
人、人、人な食堂だぞ。しかもさっきから生徒は俺達に注目してるし。
「――失礼じゃないのかお前」
それを言ったのは俺じゃない。
ずっと俺達の様子を傍観していたーー委員長だった。




