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8.ラーナ・フォルティス誕生



メアリーにそう聞かれ、私は送った“手紙の内容”を思い返した。






『メアリーへ。

突然ですが、急遽ヴェルヘイン王国に帰ることになりました。

しかし帰るだけではなく、王宮の医療部隊に派遣されることになって…

派遣される前に相談したいことがあります。


殿下に会わないようにしたいのです。


どうか力を貸してもらいたい。3日後以内に店に伺います。


                      ルーナ』






手紙の内容を改めて思い出した私は、メアリーの質問に強い意志を持って返事を返す。


「本気です。“殿下に会わないようにしたい”。」



こればっかりは曲げられない。


もう終わらせた恋なのだ。




そして………殿下が私に言ってきたのだ。



”俺に近づくな“と。




私の固い意志は伝わったようだが、メアリーは大きいため息をついた。


「…アンタの気持ちは分かったよ。ただね…王宮で働くという時点で、あの王太子殿下と完全に会わせないようにするのは難しい。」


「そっか…」



さすがのメアリーでも完全に会わないようにするのは厳しいようだ。

無理なら諦めるしかない、そう落ち込んでいると、


「だが、アンタを別人にさせることはできる。…ルーナだってバレないようにね」


東の魔女はそう不敵に笑った。





「それって、つまり変装させるってこと?」


さっきまで静かに私たちの会話を聞いていたソフィーが身を乗り出して質問する。


「そう。とりあえず、口で説明するよりやってみた方が良さそうだ。ちょっと待ってな。」


そう言うと、メアリーは奥の部屋から何かを取ってきた。

そして私の前に置いたのは、謎の小瓶とメガネだった。


「まずこの小瓶だが…ルーナ、とりあえず髪に塗ってごらん。」


「ええ!?髪に!?」


「いいから。危ないものじゃないから大丈夫」


メアリーに言われるがまま、小瓶の蓋を開けて中の液体を少し手に取り出し、恐る恐る髪に塗ってみる。


すると…塗った場所が茶色へと変化していく。


どうやら髪の色が変わる薬のようだ。少量塗っただけなのに、もう全体の色が綺麗な茶色へ変わっている。

すごすぎる。


「次にこのメガネをかけてみな」


小瓶の次にメガネを受け取り、かけてみる。

しかし、自分ではどこが変化したのか一切分からず、キョロキョロ周りを見渡す。


ひたすらどこが変わったのか考えていると、ふと横で見ていたソフィーが何かに気がつき、興奮気味に教えてくれる。


「瞳の色がピンク色に変わってるよルーナ!!すごい!」


どうやらこのメガネは、瞳の色を違う色に見せることができる魔法道具のようだ。

髪色も変わり、メガネもかけ、瞳の色も変わった姿を鏡で確認させてもらう。


「うわあ、別人みたい。」


髪色と瞳の色が変わると、一瞬自分でも誰かわからないほど別人に見える。

昔と比べて体型も痩せたため、3年前の私しか知らない人達はまず気づかないと思う。


「メガネの方はかけるだけでいいが、髪色を変える薬は24時間で効き目が切れるから気をつけな。一応予備の薬も渡しておく」



メアリーから説明を受けて、薬の予備をいくつか受け取る。

これで安心だななんて思っていると、


「ただ…ヴェルヘイン王国の王族は昔から、他人の魔力を感じる力が強いと聞く。他の人なら絶対気がつかないだろうが…。見た目を変えただけじゃ、あの王太子殿下はすぐ気づくだろう。」


メアリーからそう告げられる。


「え、それじゃあ…魔力を変えたりする薬とかってないの?」


メアリーは薬の魔女とも知られるほど、たくさんの種類の薬を作ることができる。

もしかしたら魔力を変える薬があるんじゃないか…そう期待したのだが、メアリーは困った顔になり、


「それに残念ながら、魔力を変えることは薬ではできない」


ハッキリと無いと言われてしまった。



見た目をここまで変えてくれたんだ。

それでも気づかれたらしょうがない。

そもそもメアリーができないことは私にはどうしようもできない。



そう自分に言い聞かせ、再び諦めそうになった私の隣で、ソフィーは何かに閃いたように鞄から物を取り出した。


「それで“これ”を持ってきてほしいって言ってたのね」



ソフィーが取り出したものは、赤い宝石が付いた小さなブローチだった。


「ソフィー、それって一体…」


「オーデンブルク家に代々伝わる魔道具の一つにね、魔力を相手に探知させないために魔力保護をかける魔道具があるの。」


「え、そんな大事な物を私に渡して大丈夫なの!?」


「いや、これはその魔道具を研究して作られた物なの。本物はもっと大きいのよ。ただね…これはまだ試作段階で、魔力保護も完璧にかけられる訳じゃない。だから、半径30cm以内に近づかれると魔力を探知されてしまうから気をつけてね。」


ルーナにあげるわと小さなブローチを渡してくれるソフィー。

私はそのブローチを服につける。

小さなブローチは普通の服につけても違和感のないデザインで可愛い。


「ソフィー、ありがとうね。試作段階の貴重な物なのに貰っちゃって申し訳ない。」


「いいのよ!私は何があってもルーナの味方だからね。」




ソフィーはそう言って笑ってくれた。


しかし、ソフィーは殿下とも昔から知り合いで、騎士団の仕事をしているならきっと仕事で関わりも多いはず。

私の協力をさせることで、ソフィーを共犯者にしてしまったような気持ちになり、すごく申し訳なくなる。


そんな気持ちで思わず俯いていると、“バンッ”と凄い力でソフィーに背中を叩かれる。


「なーに申し訳なさそうにしてんの!私はルーナにまた会えて嬉しいし、もし今回東の魔女が私を呼んでくれなかったら、ルーナが帰ってきたこと知らずに過ごして会えなかったかもしれない。それよりこうして再会もできて、ルーナのこと協力してあげられる方が嬉しいから!!!気にしないの!」


メアリーの言葉はいつも私のネガティブな考えを吹き飛ばす。

本当に自慢の親友だ。


でも、叩かれた背中が痛すぎる。


「ありがとう…でもメアリー、背中めちゃくちゃ痛いっす…」


「ご、ごめん!つい騎士団の人たちに叩く力でやっちゃった!」


「ちなみに一番最初に突進してきたのも痛かったよソフィー、」


「ごめんってば〜」


そんな会話を続けていると突然メアリーが笑い出した。



「ハハハっ!アンタら2人本当に公爵令嬢かい?面白いねえ!片方は逃亡中の破天荒令嬢だし、片方は怪力女騎士だし」


ナチュラルに私たちの悪口を言いながら高らかに笑うメアリー。

しかし、昔から私は破天荒令嬢と言われているため、言い返せない。

ソフィーも昔から怪力と言われていたせいか、メアリーに言い返さない。


「「…よく言われます。」」


思わずソフィーにそう返すと、ちょうどソフィーと言葉が被ってしまった。

それを聞いて更に笑い転げる魔女。


私たち2人はそんなメアリーに何も言えず、メアリーの笑いが止まるまで沈黙になったのだった。



笑いがようやく収まったメアリーは思い出したように私に話しかける。


「そういえば、殿下にバレないように名前も変えきゃいけないねえ」


メアリーはなんて名前にしようかなんて言っているが、


「実はもう名前考えてて、その名前で派遣してもらうことになってるの」


ヴェルヘイン王国に派遣されると聞いた時、真っ先に名前を変えなければと思ったのだ。


私が帰ってきたということを殿下にバレないためでもあるが、何より、私が何かやらかしてしまった時にフォルディナント家に迷惑をかけるのが嫌だから。


満月の塔に行く前にもたくさん噂をされて、お父さんや弟に迷惑をかけた。

王宮で働く2人のためにも、せめてフォルディナントの名前を名乗らないようにしたい。

そう思い、事前にアンナ様に相談していたのだ。



「ラーナ・フォルティス」



私はあらかじめ考えていた名前を2人の前で発表した。


お母さんの名前を借りて考えた名前だ。アンナ様もいいじゃないと言ってくれて、この名前で仕事ができるようにあらかじめ手配してくれている。



「じゃあ、今日はラーナ・フォルティスの誕生日だね」




ソフィーがそう言い微笑んでくれる。

メアリーも頷き笑っている。



「メアリー、ソフィー、ありがとうね」



2人が協力してくれたおかげで、ヴェルヘイン王国で働く準備が整ったのだ。

本当に感謝しかない。






明日から、いよいよ初出勤だ。



気を引き締め直さないと、



私は改めて気合を入れ直したのだった。

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