3.久しぶりの実家に帰る
次の日の夕方、荷造りがようやく終わり再び特別応接室に訪れた。
「荷物少ないけど大丈夫?忘れ物はない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「本当に一緒に行かなくても大丈夫?」
さっきから初めておつかいをする我が子のように心配してくれるアンナ様。
「大丈夫ですよ、アンナ様とヴェルヘイン王国に行くとかえって目立ちます」
「それもそうね……じゃあ、実家まで転送するわね」
「お願いします」
そう言うとフワッと体が光に包まれて足下に魔法陣が浮かび上がる。
「気をつけて行ってきてね〜何かあったら連絡してちょうだい」
「もちろんです!いってきます」
手を振って見送ってくれるアンナ様に手を振り返した瞬間、視界が急に真っ白になる。
気づくとフォルディナント公爵家の庭にいた。
「ただいま」
私は3年ぶりに実家に帰省した。
久しぶりの庭は昔と変わらず綺麗に手入れされており、ちょうど薔薇が見頃の時期ということもあってたくさんの薔薇が咲いていた。
薔薇のいい香りに包まれて、思わず荷物を持ったまま庭を眺めていると、
「お、お嬢様でございますか!?」
庭師の1人が気付いて声をかけてくれた。
「急に挨拶もなく現れちゃってごめんなさい。転移魔法で送ってもらったから玄関じゃなくて庭に着いちゃったみたい。」
「…思わず薔薇の女神でも現れたのかと思ってしまいました」
3年ぶりに会ったからか、突然帰ってきたからか、庭師に気を使わせてお世辞を言わせてしまった。
やっぱり玄関前に転送してもらえばよかった。
「気を使わせちゃってすみません」
「いや…気を使うとかではなく本当に…「ルーナ!!!!」
庭師が何か言いかけていたのを遮ってどこからか声がする。
声のした方に目を向けると、すごい勢いで走ってくる男性が…そのままの勢いで私に突撃してきた。
「うっ…お、お父さん勢いが凄すぎる…」
「我が子に3年も会えなかったんだぞ!?父さんは心配で心配で…」
突撃してきたお父さんはそのまま私を抱きしめて半泣きになっていた。
フォルディナント家の当主であり、普段は外交大臣としてバリバリ働いているお父さん。
そんな人が娘に抱きついて半泣きになっているなんて、部下が見たら本気でドン引きすると思う。
「うっ…苦しいってお父さん…」
私を抱きしめる力が半端なく強すぎて、思わず抗議していると、
「姉さん、許してやってよ。父さん今日一日ずっと、まだ来ないのかって心配しながら待ってたんだから」
お父さんの後ろから弟のルーカスもやってきた。
3年ぶりに会ったルーカスは、声変わりをしている低い声になっていて、背もすっかり伸びて私より高くなっていた。
「ルーカスすごい大きくなったね!」
「そりゃあ成長期だからね。…姉さんも雰囲気が変わって、一瞬誰かわからなかった。」
「ええ!?どういうこと!?悪い印象になった!?」
「いや、むしろ逆。すごい大人っぽくなって綺麗にな「2人とも父さん抜きに話盛り上がらないで」
ルーカスの言葉を遮って拗ねた声を出すお父さん。
その姿が拗ねた子どものようで、思わず姉弟そろって声を上げて笑う。
3年間も帰ってこなかった私を、昔と変わらず暖かく迎えてくれる2人。
ヴェルヘイン王国に帰るのは嫌だったが、こうして実家に帰ってこられて本当によかった。
「ルーカス、お父さん。…ただいま。」
私がそう言うと、2人は嬉しそうな笑顔で「おかえり」と言ってくれた。