2.派遣先はヴェルヘイン王国
「きゃあ!ルーナちゃん!大丈夫〜!?」
「大丈夫じゃないです!ヴェルヘイン王国ですか!?」
盛大に紅茶を吹いてしまったが、今はそれどころじゃない。
派遣先がよりにもよって一番行きたくない場所だった。
「…アンナ様、わざと行き先言いませんでしたね?」
「ごめんね〜!行き先言ったら嫌がると思って〜」
「嫌です。ヴェルヘイン王国だけは絶対に嫌です。」
「ごめんけど、さっきの『ぜひ行かせてください』って言葉、録音させてもらったからね〜」
アンナ様はミニサイズの録音機を手に持ちながら、ニヤニヤしている。
「ひどい!罠に嵌めましたね!」
「罠って失礼しちゃう〜!でも、ちょっとだけ申し訳ないなと思って、紅茶もケーキも高級なものを用意したのよ〜」
「それでやけに美味しかったんですね!ケーキ食べる手が止まりませんでしたよ!」
アンナ様の高級ケーキ紅茶作戦に気づかず全部食べてしまったため、文句が言えない…。
やけに紅茶も勧めてくるなと思ったら…。
「何でそんなにヴェルヘイン王国に帰りたくないのか分からないけれど、もし呪いの被害を受けるとしたらヴェルヘイン王国の可能性が高い。……貴方の力が必要なのよ。」
急に深刻な様子で話すアンナ様。
アンナ様が深刻に話すのも当然だ。
ヴェルヘイン王国とサーストウルフ国は隣国ということもあって長い間戦いが絶えない。
そのため、サーストウルフ国が呪いの研究をしているのも、ヴェルヘインとの戦争で使用するためと考えても不思議ではない。
呪いの被害を受けるとすれば……間違いなくヴェルヘイン王国だろう。
「そう言われましても…」
「それにあくまでも派遣という形だから、名前は偽名でもいいし!
ルーナちゃんの正体が誰かにバレるのが嫌なら、向こうで何人か協力してもらうのはどう?
例えば東の魔女なら貴方がヴェルヘインから満月の塔に来た本当の理由を知っているんでしょう?」
「そうですね…メアリーには全て話しています。」
「ヴェルヘイン王国には私の信頼できる人がいるから、その人の助手として派遣できるようにするから…行ってくれないかしら?」
アンナ様の強い説得に否定する言葉が出てこない。
「…わかりました。派遣の話、お受けいたします。」
「やった〜!ありがとう本当に!」
満月の塔で一番権力のある最高責任者がこんなにもお願いしているんだから、私の能力で少しでも救える命があるなら行かないと。
改めて気を引き締め直す。
「ちなみにいつからになりますか?荷造りとかもしたほうがいいですよね?」
「ルーナちゃんの気が変わらないうちにと思って、3日後からってお願いしちゃった!」
急すぎる!!3日後って!!考える時間を与えないほどにタイトなスケジュールだ。
「もう最初から行かせる気満々じゃないですか…」
「ルーナちゃんの実家までは転移魔法で送ってあげるからね〜準備できたら声かけてね」
ヴェルヘイン王国に帰るからといって、実家に帰るとは一言も言っていないのに、もう実家に送られることが確定している。
きっと派遣の話も私が行くと最初から分かっていたんだろうな、、
満面の笑みで微笑んでいるアンナ様だが、改めてこの人に逆らうことはできないなと実感する。
「……急いで荷造りします。ちなみに派遣に行く前にメアリーの店に寄りたくって…事前に手紙を送したいんですができますか?」
「もちろんよ!満月の塔で開発した特別な封筒を渡しておくわ。手紙を書いてこの封筒に宛先を書いたら届けてくれるから」
アンナ様から魔法陣が薄ら書かれてある封筒を受け取る。
「ありがとうございます。それでは急いで準備するので失礼します!」
「はーい!急で悪いけど荷造り頑張ってね!」
アンナ様に挨拶をして部屋を後にする。
そして自分の部屋に戻ると、真っ先に机に向かい手紙を書き始めた。
送り主は東の魔女と呼ばれるメアリーに向けて…