1.満月の塔から派遣される
この世界には4つの大国でできている。
ヴェルヘイン王国、アークレイル共和国、バルト帝国、サーストウルフ国
その中で唯一どこの国にも属さず、世界平和のために日々魔法の研究をし、優秀な魔術師を多く輩出している研究機関が“満月の塔”だ。
満月の塔は大国から集められた魔術師の卵が、国に属さずに独自の魔法や魔術を学び研究を行うことで、悪の有力者から優秀な人材を守り世界の魔法技術に貢献している団体である。
8才の頃、お母さんは天国に行った。
満月の塔が管理するセーデルマイム島の出身だったお母さんは、毎日寝る前に島での暮らしを沢山話してくれていたのを覚えている。
島にはどんな魔法道具でも作れる森の魔女がいること、空飛ぶエレベーターがあること、満月の夜に光り輝く砂浜があること…などいろんな話をしてくれた。
話を聞いた後に私がその島に行きたいと言うと、
『あの島はお母さんとお父さんを出会わせてくれた女神様がいるのよ〜!ルーナがもしその島に行って女神様に会ったら、お母さんの代わりによろしく伝えてね』
そう優しく笑ってくれたあの笑顔を一生忘れない。
そんな私、ルーナは満月の塔の団員になって3年の月日が経った。
そして、お母さんの言っていた女神様は…今私の目の前で優雅にお茶を飲んでいる。
「突然呼び出しちゃってごめんねぇ〜座って座って〜」
今朝、急に塔の場内アナウンスで呼び出されて特別応接室に入ると…満月の塔の最高責任者である、女神様ことアンナ様がソファーに座って待っていた。
人間離れした綺麗すぎる美貌に金色に輝くロングヘアが今日も眩しい。
あまりの美しさに初めて会った時、倒れそうになったのを覚えている。
しかし、この人は一体何歳なのか…噂では100歳は超えてるらしいが…
「何〜?じっと人の顔見つめちゃって〜もしかして私の顔にシミがあるとか!?」
「いえ、今日もお美しいです」
シミ一つないそのスキンケア方法を教えていただきたいくらいだ。
「突然ごめんね〜実はルーナちゃんを派遣することになってね」
「は、派遣ですか…?満月の塔は1度入ったら卒団するまで外に出られないんじゃないんですか?」
満月の塔は研究される内容のほとんどが機密性の高いものばかりで、卒団するまで外部の情報が一切入ってこないどころかセーデルマイム島から出ることができない、完全に俗世と縁の切れた場所で有名なのだ。
「そう、通常はありえないことなんだけどね〜。最近サーストウルフ国で物騒な宗教が流行っていてね。その宗教が怪しい呪いをかけるらしくて…ほら!こないだルーナちゃんが解いてくれた呪い!」
「あれですね…」
実は3日前に謎の呪いにかかった男性が満月の塔にやってきた。
その人は身体中に謎の痣ができており、呼吸困難な状態ですぐにアンナ様の治癒魔術を試したが効く気配がなく、浄化魔法も試したが状況は悪化する一方だった。
そんな中、私の魔法無効化能力が役に立ち、呪いを消すことができたのだ。
「あの呪いに関するデータは、今急いで調べている途中なんだけどね…困ったことにどうやらサーストウルフ国はあの呪いを使って他の国を侵略しようとしてるみたいでね」
「あの呪いを戦争に使うなんて…ひどい」
「今のところ、解呪方法がまだ見つかっていなくって…ルーナちゃんの能力だけが頼りなのよ。派遣に行ってくれるかしら?」
「もちろんです。自分に少しでも救える命があるならぜひ行かせてください。」
力強く頷く私に嬉しそうに微笑むアンナ様は、「紅茶冷めちゃったわね〜」と言いながら再び紅茶を入れ直してくれた。
「せっかくの美味しい紅茶なんだから是非飲んで〜」
「いただきます。」
甘い紅茶の香りに癒される。
一緒に食べてとケーキまで出してくれるアンナ様とプチお茶会になり、昔のお母さんの話を聞いたりとすっかり話に夢中になる。
「あ!…そういえば派遣先はどこの国になるんですか?」
ずっと疑問に思っていたことを思い出し紅茶を飲みながら、ふとアンナ様に問いかける。
「あれ?最初に言わなかったかしら?」
急にすっとぼけたような演技をし始めるアンナ様。
「意地悪しないで教えてくださいよ〜どこですか?」
すると、女神のような微笑みでこう言った。
「ヴェルヘイン王国よ」
「ブフォッ!」
驚きのあまり思わず、私は飲んでいた紅茶を吹き出した。
……女神の前で盛大に。