本能 -黒百合の花-②
ヴァッツが家族や子孫について考えているという噂はどうにも疑わしい。
というのも彼はその辺りの成長がアルヴィーヌ以上に鈍く、今までの様子から全くそのような気配はなかったからだ。
(・・・いや。もしかしてもう誰かと・・・)
自分が気付いていないだけで既にそういった行為が行われている可能性もあるのか?
心の奥底に潜んでいた恐怖心を取り除く為にリリーと毎晩同衾していたという話も聞いていたし、彼も男なのだからあれ程美しい少女を前に何も感じないとは考えにくい。
「あんたもう少し隠したら?考えてる事が丸わかりよ?」
そこにハルカの指摘を受けると時雨は慌てて我に返りながら両手で頬を軽く揉み回す。
「・・・ハルカは気にならないのですか?ヴァッツ様が本気で子孫や家族について考えているという話が。」
「ならない事はないけどね~。ただ・・・本当にそんな風になるかな?」
「どういう意味だ?」
彼の帰りを待ちながら談笑していると思わぬ話題になってしまったがリリーも不思議に思ったのだろう。小首を傾げながら尋ねると言った本人もよくわかっていないらしい。同じように小首を傾げながらそれに答える。
「あいつって確かに強いし優しいし頼りになるんだけど、時々異性っていうより別の存在に思えるのよね。」
失礼な奴と感じるだけで済むのは彼女を良く知っているからだろう。だが言いたい事が何となくわかってしまうと反応に困ってしまう。
「う~ん・・・強さが群を抜いてるからなぁ。お前のいう別の存在っていうのは畏れ多いって事じゃないか?」
「う~~ん・・・あいつって他の男から感じる猛りがないのよね。極端な話、同性みたいに思う時もあるくらいよ。それで子供が作れるのかしら?」
「あ~ら?それはただ単に貴女が女の魅力を身に着けてないからそういう対象に思われてないだけでしょ?」
相変わらず侍女という身分を弁えていないハーラーは格好や仕事こそこなしはするものの、ヴァッツの許嫁と位置付けられる自分達の話に平気で割って入ってくる。
「おいハーラー。お前はヴァッツ様の恩情で仕える事を許されてるんだからな?」
「あと色目を使わない約束は既に反故されてますよね?もし追放されても文句は言わないで下さいね?」
「ああ怖い怖い。これはヴァッツ様が御帰りになったら早速報告しないと。」
これが年の功というやつだろうか。ああ言えばこう言うといったやり取りにはいい加減辟易しているのだが、そんな中露台の扉が開くとヴァッツが静かに部屋へ入って来た。
「ただいま!!」
「おかえりなさいませ。」
レドラが代表して答えると時雨達は席を立って静かに首を垂れる。このやり取りにも随分慣れたものだ。
「ねぇヴァッツ。ちょっと気になってたんだけどあなた、ハーラーの事どう思ってるの?」
そしてハルカが突然そんな話を切り出したので時雨とリリーと端に控えていたクンシェオルトはぎょっとした表情を、ハーラーだけはにんまりとした笑顔を浮かべている。
「え?どうって・・・どう?」
「うん。ハーラーの事、私達みたいに婚約相手としては見てないわよね?どういう風に感じてるのかなって気になったの。」
(あれ?そうなの?)
ところがそういった話にならないよう釘を刺したのか、それとも彼女だけは何か確信めいたものを抱いていたのか。希望を打ち砕くような発言を前置きに尋ねるとヴァッツが珍しく照れているので、より深く気になった。
「・・・笑わない?」
「笑わない。約束するわ。」
「・・・あのね、オレが知らないからかもしれないけど、ハーラーってなんかお母ちゃんみたいだなって。オレにお母ちゃんがいればこんな感じかなってずっと思ってて・・・あ?!笑わないって言ったのに!」
そうか。そういう事だったのか。
何故ハルカがあれ程余裕を見せていたのか。何故ヴァッツが彼女の事を妙に気に入っていたのか。事実を知ってしまうと時雨でさえ安堵から笑みを浮かべてしまうのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




