本能 -黒百合の花-①
カズキが『神族』侵攻の為に準備をし始めてから既に3か月。季節は夏も中盤を過ぎた頃だというのに世界はとても静かで平和だった。
「これもヴァッツ様の御力がなせる業ですわ。」
ただし例外もある。
それがヴァッツの周辺で巻き起こる女同士の抗争だ。
「ハーラー様。毎回申し上げてますがその行動は侍女としての範疇を越えています。お控え頂けますか?」
今まで堂々と甘える存在がいなかったのもあるだろう。この女狐は目を離すとすぐにヴァッツと何かしらのふれあいを始めるのだからこちらも気が気ではない。
「まぁ私達の価値観からすれば安い女だと思われるわよね~。」
その都度注意するしか対応策がない現状は様々な理由が重なり合っているのも大きい。
まず時雨とハルカは東の国『モクトウ』出身の為、女から男に媚びるような行動をあまり良しとしない価値観が植え付けられている。もっとわかりやすく言うとそれは売女のやる事だという決めつけがあるのだ。
故に異性から迫ってもらうのを待つしかない。受け身こそが美徳だという自らを柵で縛る思考が根底にある為、どうしても積極的になれないでいた。
「ハルカは私側だと思っていたのですが・・・気にならないのですか?ハーラーがヴァッツ様に色目を使うのを。」
「う~ん。まぁ確かに鼻にはつくけど多分大丈夫だと思うのよね~。」
今もヴァッツにお茶を用意しつつ自身も同席している姿は明らかに身分を越えた行動であり、真面目に従者として働いて来た時雨は誰よりも強く不快感を覚えるのだ。
「ヴァッツ様。そろそろ『アデルハイド』で講義が始まるお時間です。」
そんな自分達の不満を察して場を取り持ってくれるのは今の所、執事のレドラしかいない。
というのもクンシェオルトがあまりにも強く諫めてしまったので、ヴァッツから注意を受けた後は主の機嫌を損ねまいと一切口を挟まなくなってしまった為だ。ちなみに不満は誰よりも抱いているらしく、今も視界に入らないよう体を震えさせながら顔を背けて必死に我慢している。
「あ、うん。それじゃ行ってくるよ。えっと・・・」
しかしこの日は何かが違っていたようだ。
少し前まで元気のなかったヴァッツは以前の調子を取り戻すだけでなく、プレオスから授かっていた様々な知識をしっかり身に付けていたらしい。
彼は横に腰かけていた時雨をじっと見つめた後、ゆっくり肩に手を回して優しく頬に唇を当ててきたのだから嬉しさを通り越して全身が石像になったかのように固まってしまった。
しかもその後は逆隣りに座っていたハルカにも同じような仕草をして見せたのだからレドラは優しい笑みを、クンシェオルトは感涙を浮かべている。
「あの・・・私には・・・駄目でしょうか?」
駄目に決まっているだろ?!
もしこの場にリリーがいれば激高しつつそう叫んでいただろうが今はその声を望めない。となると優しいヴァッツはその希望に応えてしまうだろう。
「あ、そうだね。じゃあハーラー、行ってくるね。」
ところがヴァッツは彼女を立たせて軽く抱きしめるという仕草を見せたので何がどうなっているのか、唇を頬に当てるのと価値や気持ちはどちらが上なのかという問題を一日中脳内で討論してしまうのだった。
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