天神 -神々の復讐-⑧
以前の『神界』は平和そのものだった。
様々な世界から自分達を崇める声は止むことが無く、毎日沢山の供物が献上されていたので食事に困る事など無かった。
ところが力を失ってからはそれを手に入れる事が困難になってしまう。当然だが『神族』はそれらを作った事も調理した事もない。
故に人間に成り下がった時は今まで感じた事のない空腹からまずそれが奪い合いとなったのだ。それこそ血で血を洗う醜い争いに。
「バカラ!キャプシ!!今日も可愛いわねぇ!!」
そんな凄惨な過去を好き好んで思い出す必要はない。力を失った影響もあるのか、不必要な矜持も捨て去りつつあるイラはワーディライの館で生活し始めて一週間ですっかりなじみ始めていた。
「イラ、その・・・何だ。そいつらは家畜じゃからな?あまり肩入れせんほうがいいぞ?」
その豹変に一番驚いていたのは他でもないワーディライだ。『神族』という事からかなりの警戒をしていたのだが、ここまで素直な一面を見せてくれるとは思わなかったのだろう。
仕事も不器用ながら真面目に取り組む姿を見てつい色々と教え始めるとイラもそれに応えてくれる。
それが嬉しくて更に色々教えこんでいたのだが自分にいち早く慣れ親しんでくれた羊や牛に名前を付けて可愛がり始める姿を見てやっと危機感を覚えたらしい。
「え~?でも家畜は大切だって教えてくれたじゃない?別におかしなことはしてないでしょ?ね~?キャプシ~?」
もちろん牛や羊も肉や皮以外の用途はある。ただ最終的にはそうなる事をもっと早めに教えておくべきだったと後悔し始めていたのだがイラにはそんな空気など微塵も伝わらない。
捕虜として下働きさせられているという立場など、初めて触れ合う動物達との体験の前では忘れ去ってしまう程に毎日が楽しかった。
だからワーディライも真実を伝えるのを憚られてしまう。まるで人間の少女のような様子を見せるイラに家畜だけではなく、彼もまた必要以上に気を許してしまっていたから。
しかし生きているからこそ知っておかねばならない。
『ダブラム』では王都が崩壊してしまっている為食料に余裕がなく、家畜達はいつ屠殺されてもおかしくないのだという事実を。
「あ~・・・イラよ。今夜は少し話がある。」
後で「聞いてない!」とか「知らなかった!」などと言われて落胆されたくなかったワーディライは食事後、意を決して話を切り出すとア=ディラファやダム=ヴァーヴァは真剣な雰囲気をいち早く察して表情を切り替える。
「あら?何かしら?面白いお話でもしてくれるの?」
ところがイラは今の生活を満喫しきっている為か、真逆の方向で双眸に期待を光らせるとこちらがたじろいでしまう。
「い、いや・・・決して面白い話ではないのだが。イラ、家畜とはただ仲良く暮らすだけではない。将来的にはその肉を食う為でもあるのだ。なので世話をするにしても少し割り切ってだな・・・」
「・・・・・な、なぁあぁんだ。そ、そんなことね?!わ、わかってるわよぉ?!わ、わたしだって海を率いてるんだからぁ?お、おおきな魚は小魚を食べるんだしぃ?」
強がりな性格によって強調されている部分はあるのだろう。とてもわかりやすい動揺を浮かべてきたので何故かこちらの方が罪悪感に苛まれてしまった。
「す、すす、すまん!!まさかお前がこれ程真面目に働いてくれるとは思わなんだ!!もっと早くに伝えるべきだった!!本当にすまん!!」
「い、いいわよぉ?!何であなたが謝るの?!わ、わたしだってお腹が減るし、食べなきゃ死んじゃう事くらいわかるんだから!!でも・・・・・そうよね。」
今夜用意した食事にも肉は入っている。そしてそれらによって別の命が支えられているという事実に目を背けない点は流石海の化身であり元『神族』だ。
「何だ?随分と聞き訳が良いではないか。我はもう少し我儘を言って泣きじゃくる姿を想像していたのに。つまらんな。」
ただいつまで経っても明るい表情に戻る事はなく、やはり伝えるべきではなかったかと後悔する中、何の役にも立っていない極潰しが初めて役に立ってくれるとイラは激高し、ワーディライもその元気な姿を見て静かに安堵するのだった。
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