天神 -神々の復讐-⑥
思考と呼べるものは残っておらず、今はただ絶望感で打ちひしがれていたのに何故か空腹だけは感じてしまうらしい。
「お。思ったより元気そうじゃな。さぁ、まずは腹ごしらえをするといい。」
ワーディライが優しく促してくれるとイラは用意してくれた食事に迷う事無く手を付ける。昨日は酷い事をしないと言っていたがそんなのは出まかせだ。食べ物を与えてくれるのもこれから家畜のように扱う為に他ならない。
であれば再び力を取り戻すその日まで、あらゆる屈辱を耐え抜こうではないか。
「・・・私に変な事をし始めたら全力で暴れるからね?本気だからね?」
そう覚悟を決めるとイラは彼を睨みつつ蒸餅や汁物、目玉焼きをぺろりと平らげる。この先何が起こるかわからないが、少なくとも何時でも満足に動けるよう体力を維持しなければならないのは間違いないのだ。
「ほっほう?こりゃまた不思議な女の子だね。」
それから満腹で僅かな満足感に浸っていると突然声を掛けられたので驚いた。どうやら彼は最初から同じ卓に座っていたらしい。
見ると相対する椅子には小柄で優しそうな初老の老人が座っている。更にワーディライの様子から彼はそれなりの地位に就く人物のようだ。
「・・・あなたは誰?」
「私はメラーヴィ。『ダブラム』の王だよ。昨日は『神族』を捕らえたっていう話を聞いてね、面白そうだから朝一で駆け付けたんだ。」
という事は彼を人質に取れば身の安全は保障されるのではないか?思わぬ好機にイラは静かに目を光らせるが猛者であるワーディライの眼を誤魔化すのは不可能だったらしい。
「・・・王に危害を加えるとお前が想像する酷い事を全て課すからな?」
「・・・・・わ、わかってるわよ?!」
「こらこらお前達。王を差し置いて随分楽しそうな場を設けているではないか。」
そこに捕虜である2人が部屋に入ってきてくれたおかげで不穏な空気は一掃される。立ち回るにしても慎重に動かねば。改めて人間に成り下がったイラはしおらしい仕草を演じて見せるとワーディライも含めて5人が長卓を囲む形で座る。
「さてさて、イラだったね。君が『神族』でどんな力を持っているのか、どんな立場なのか、他の『神族』についてと『神界』の様子も聞きたいな。」
それからいきなり沢山の質問をぶつけられると驚きから思考が停止してしまった。それもそのはず、尋問を受ける人間達こそ沢山見てきたが自身は初めての体験なのだ。
故にまず答えるべきかという所から悩んでしまうのだが、もし口を割らねば酷い目に合う人間達の記憶も鮮明に蘇った事で冷や汗が流れ出す。
「・・・え、えっと、わ、私は海の化身、です。力さえあれば海を使って世界を飲み込む事くらいなら簡単に出来ます・・・立場は・・・序列ですか?それなら下から二番目でした。」
強姦も嫌だが痛いのはもっと嫌だ。そんな生物として単純な答えを導き出したイラは目を泳がせつつすらすら答えると周囲は目を丸くして驚いている。
「何と。それ程強力な力を持っていても序列は下から数えた方が早いのか。『神族』とは恐ろしい存在だね。」
まさか自分の力を失ってから求めていた畏怖を受けるとは。悪い気がしなかったのもあってか、僅かに心の余裕を取り戻すが捕虜と言う立場が揺らぐことはないのだ。
「では最も強い『神族』とはどんなものなのだ?」
しかしそのお陰で昨日から感じていた違和感と嫌悪感がゆっくり顔を覗かせる。
「・・・あなたも捕虜でしょ?何でそんなに偉そうなの?そもそもあなたに答える必要はなくない?」
そうなのだ。自分の事を王と名乗るア=ディラファがどうにも何か勘違いをしているように思えてならないのだ。とにかく常に相手を見下す態度が『神族』としても許しがたい。
故にイラも自分の状況を忘れて苛立ちを見せると何故か最も権力を持つメラーヴィが宥めに入るのだからよくわからなくなってくる。
「まぁまぁ。それは私も聞きたいね。どうかな?イラ。」
「はい・・・『神族』で最も強い・・・長の地位に立つのはザジウスです。『全知全能』の力を持ち、全ての『神族』の能力を持っています。」
「むぅ・・・メラーヴィ様、この先は『トリスト』にも立ち会ってもらった方が・・・」
「え~?議事録も残すしいいじゃない。私はもっと深い部分も聞きたいよ?ねぇイラ、そんなに強い『神族』達はそのザジウスによって統治されてるんだよね?それはやっぱり圧倒的な力から?」
どうやらある程度の情報を教えている間は酷い目にあうことはないらしい。
それがわかっただけでもかなりの安堵を覚えたイラだったがすらすらと気分よく答え始める彼女を他所に、メラーヴィ達の顔色はどんどんと曇っていくのだった。
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