天神 -神々の復讐-②
海を操れるというのは非常に強力だ。
ただこれをそのまま戦力として用いるには少し工夫がいる。というのも力を振るったとしても地上を覆う程度にしかならないからだ。
もちろん陸の上で生活している生き物は成す術もなく滅びていくだろう。だが海中で暮らす生き物にとってはほとんど影響がない。つまり相当局地的な力という訳だ。
「・・・ふ~ん?復興作業中って感じかな?」
そうして立ち寄ったのが旧ユリアン公国の港町レナクだった。
ここは少し前、我を失っていたメラーヴィ王とワーディライによって激しい侵攻を受けた街で未だ復興の最中である。人口こそ少しずつ増えてはいるものの繁栄までは早くても数年はかかるだろう。
であれば丁度良い。彼らも作業に勤しんでいる為他者を怪しむ余裕などない筈だ。
そこでイラはまず適当な姿に変身しながら様々な場所に潜り込む。そして近辺の様子を聞き出すとこの街が現在『ダブラム』という国に属している事、『ダブラム』も侵攻を受けた為王都でも復興作業が続いている事、国王メラーヴィが重用しているワーディライという将軍がとても強いという事などがわかる。
(・・・まぁ人間の強いなんてたかが知れてると思うけどね。)
ところが彼女はあまり頭が良くない為『悪魔族』を見下した時と同じような思考で軽く流すだけでなく、その強いと言われる人間を『悪魔』にぶつけられないか?という飛躍した作戦に舵を切り替えてしまう。
『神族』だからといって全員が万能の力を持っている訳ではない。
イラは存在そのものが海で出来ているので姿形を自由に変える事が出来るものの、『天族』や『天人族』のように他人を洗脳、支配するような能力はない。故に頭の中で浮かんでいる策を実行するには自ら立ち回る必要があるのだ。
(さて、どうやってワーディライと『悪魔』を戦わせようかな?)
目立たないよう空は飛ばず、王都に向かう馬車へ忍び込むと作戦を立てている間に目的地へ到着する。
この大陸とイェ=イレィが居を構える大陸は相当離れている。つまり『悪魔』をこちらにおびき寄せるだけでも相当時間を稼げるのだ。後はその間にイラがイェ=イレィを殺せば万事解決。素晴らしい策略だ。
そう考えたイラはもう少しだけ弱い頭を働かせつつ、自分が神である事を利用する方向で方針を固めると早速ワーディライとやらが住む場所へ向かう。
この世界の宗教観はよくわからない。ただ自分も神としてしっかり名乗り、堂々と姿を現せば信じこんでしまうに違いない。人間とはいつの時代も、どの世界もその程度だ。
「・・・ワーディライ。私は海の神イラ。今日は貴方にお告げを授けに参りました。」
そんな浅はかさと見下した心を彼が見抜けぬはずがないのだが人物像を知らないので無理もなかった。ただ農作業に従事していた隻腕の老人は神々しい光を放ちながら空からゆっくりと降りてくるイラに訝しい表情こそ浮かべるものの、その眼差しには敬意も畏怖も宿る事はなかった。
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