天神 -残される決断-⑤
あれからヴァッツが重い口を開く事がなかったのには確かな理由があった。だがそれを理解出来る者などいる筈もなく、空気を換える意味でもバーンが別の話題を切り出す。
「・・・ところでウォルト、もしよかったら『魔界』で一緒に暮らさないかい?」
「え?」
「僕も元『天族』だしね。親族みたいに思ってくれて構わないよ。どうかな?」
親友でもあったセイラムへの配慮もあるのだろう。一度は『天界』を捨てたバーンから思いがけない提案を差し伸べられるがウォルトの心は決まっている。
「ありがとうございます。しかし某はこれ以上同胞を失いたくない。故にアルヴィーヌとイルフォシアの傍に仕えたいと思っております。」
「え?そうなの?」
これは自分の中で決意しただけなので何も聞かされていないアルヴィーヌは珍しく驚いた様子を浮かべている。だが猛者とは誰しもが芯が強い、要は頑固なのだ。
「うむ。セイラムの娘達まで失うわけにはいかんのでな。」
「え~・・・じゃあ私よりイルの傍にいてあげて。あの子、怒ると見境なくしちゃうから。」
元々自由奔放なので誰かに行動を縛られたくないという考えが根底にあるものの、妹を想う気持ちとウォルトの説得は難しいと本能で察したのだろう。代替案も納得がいくものだった為、今後はイルフォシアを中心に護ろうとまたしても本人の了承を得ずに心に誓う。
「その様子だと引くつもりはなさそうだね。」
「はい。我々は『天族』ですから。」
戦いを好まない『魔族』もウォルトらの気持ちを十分に汲み取ってくれているらしい。少し残念そうに苦笑を浮かべるはするものの反対する様子はない。
ただ彼の言う親族という言葉にはウォルトも少し心が動いた。
もしこの戦いを無事乗り越えた時、こちらから住まわせてくれるように頼んでみよう。こうして新たな目標や願望を見出したウォルトだけは気持ちと思考の整理を終える。
しかし依然、この部屋に残る大きな問題は解決に向かう気配すらない。
こちらのやり取りなど一切耳に入っていないのか、ヴァッツは何一つ言葉を発する事無く考え込んでおり、クレイスはア=レイが彼の父親だという事も含めて全てを直接教えて貰いたいといった視線を向けている。
2人の静かすぎる威圧感の前に誰も口を挟む事は出来ないだろう。そう思っていたのだがこの場にはこういう空気を全く気にせず割って入れる存在がいるのだ。
「ねぇクレイス、ヴァッツも色々考えてる。今日はもう止めにしない?」
アルヴィーヌがさらりと話しかけた事で周囲もやっと肺に新鮮な空気を送り込めたらしい。静かな筈の呼吸音が耳に届いて来ると先にクレイスが席を立った。
「・・・ヴァッツ。君が何も教えてくれなくても僕はセイラム様を、『天族』を滅ぼした『神族』を必ず叩く。」
ここで殺すと表現しなかったのは彼の優しさなのか。同じ目的を持つ者がいる事に心強さを得たウォルトは共にヴァッツの部屋を後にするとしばらくして落ち着きを取り戻したクレイスと改めて挨拶を交わすのだった。
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