天神 -残される決断-③
同族が全て滅ぼされた『天界』に戻る必要はない。いや、あそこに戻ると懐かしい記憶が心を蝕んでしまうと言った方が正しい。
「ウォルト様、しばらくはごゆっくりなさって下さい。」
その日、『トリスト』の好意から滞在を許されたウォルトは部屋を与えられると悲しみと喪失感を胸に一夜を過ごす。
そして翌日、気持ちの整理をつけると用意してもらった朝食をぺろりと平らげてから早速ア=レイや『神族』への復讐に向けて動き出した。
そんな事をしても死んだ同族は生き返らない事など重々承知だ。だが絶望から抜け出すには、立ち直るには薬が必要だった。復讐という名の劇薬が。
「ヴァッツ殿、少しよろしいか?」
なので迷わず破格の下へ向かう。自分の前で大怪我を負ったのも見ていたが、それでも現在この世界で最も強いのはセイラムも絶対の信頼を置いていた彼を置いて他にはない。
「あ、ウォルト。もう大丈夫なの?」
『天族』と違い、日を跨がずとも傷が一瞬で回復するのも彼ならではなのか。詳しい事情を知らないウォルトは軽く頷くとすぐに本題に入る。
「ヴァッツ殿、私は何としてでも『神族』とア=レイを殺さねばなりません。どうか御力を貸して頂けませぬか?」
もちろん自分の気持ちを第一に考えての提言だったがこれには確たる大義名分もあるのだ。あれ程危険な存在を放置していては更なる被害が及ぶであろうという大義名分が。
「ウォルト様、ヴァッツ様は戦いを好まれません。それを承知で提案されているのでしょうか?」
そこに黒く長い髪を持つ少女が口を挟んできたのでウォルトは一瞬で怒りを爆発させてからすぐに沈める。
「これは好き嫌いの話ではない。放っておけばこの世界の人間達も滅ぼされるのだぞ?」
自分は決して間違ってはいない。ただ自身を見失っていた為、つい語気を荒げると再び別の存在が会話に入ってくる。
「ウォルトとか言いましたね?あなたはヴァッツ様が力を失われているのを知っててそのような無理を仰っているのかしら?」
「何?」
まだ邪魔をしてくるのか。しかも今度口を挟んできたのは侍女だ。ただ身分関係が浸透していない『天族』はそういった考えではなく、単純に話の腰を折られた事で苛立ちを露にすると老人や黒い肌の青年も頷いて見せる。
「ヴァッツ様は外傷こそ完治されていますが相当な力を失われているそうです。その為再び『神族』から力を奪う事はもちろん、誰かを殺す、などは難しいかと。」
これは年の功がなせる業だろう。主が強く詰問されているにも拘らず、レドラがウォルトの心情も考慮して優しく諭すと僅かに理性を取り戻せた。
「・・・・・では奴らを野放しにしろと仰るのか?」
であれば現状、こちらから打てる手はないようだ。そんな落胆から苦々しく心境を吐露するとそこに意外な人物が待ったをかけてきた。
「なんでそうなるの?」
「・・・あれらに太刀打ち出来るのはヴァッツ殿以外にあり得ない。某はそう思いますが・・・アルヴィーヌ、貴女には何か策があるのか?」
「策?私がお父さんの仇を討つ。それじゃ駄目?」
「ちょっとアルッ?!」
さも当然のように彼女から提案されると少し離れた場所に座っていたハルカが止めるような声を上げている。だがこれこそが生粋の『天族』なのだ。
「・・・そうだな。我々は戦いを好む種族、であれば自らが動いた方が我々らしい。」
最後は同族の真っ直ぐな言葉に我を取り戻したウォルトは別の意味で吹っ切れる。ただアルヴィーヌはセイラムの忘れ形見であり『トリスト』の王女であり、ヴァッツの許嫁だ。
となると彼女だけは絶対に失う訳にはいかない。
静かに決意を固めたウォルトはやっと僅かな笑みを浮かべるとその心に復讐だけでなく守護という新たな難題を刻み込むのだった。
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