天神 -残される人々-⑦
世界が少しずつ混乱に蝕まれていく中、ヴァッツとは別にもう一人、苦悩の渦に飲み込まれた人物がいる。
「・・・・・クレイス様、大丈夫ですか?」
それが現実から全力で逃避していたクレイスだ。
あれからセイラムを含めた『天族』を弔う儀式も終わり、人々が仮初の日常生活に戻っても彼の心が休まる事はない。
「え?うん、僕は大丈夫さ。」
「嘘です!クレイス様はずっとおかしいですよ?!」
「今はイルフォシアより落胆してみえるの。マーレッグとの戦いで命を救われたって言ってたし、大切な恩人だったんだよね。」
ウンディーネの言う様にセイラムは自分にとっても大切な存在だった。それは間違いない。ただ落胆している最も大きな理由を説明するのは非常に難しいのだ。
何故ならこれはクレイス自身の、信仰にも近い思考の問題だからだ。
『ネ=ウィン』から夜襲を受けた時、自分の人生は想像した事もない道に迷い込んでしまった。
何よりも悲しみが心を支配し、足を進めるなど考えられない中、破格の少年ヴァッツとの出会いで少しずつ前を向く事を覚え、立ち直り、そして彼の強さに憧れを抱いていったのも懐かしい。
もし自分が国を取り戻した暁には二度とこのような悲劇が生まれないよう、祈りを込めて彼に頼んだ大将軍という口約束も果たされつつある。
今ではカズキやショウといった同い年の頼りになる友人にも、人生を共に歩みたいと思える大切な人にも恵まれた。国王への太く、確かな道も見えているのだから今更億劫になる理由もない。
自分も成長してきたという自覚と自負もあったのだ。きっとこの先、世界は平穏に包まれるだろうと信じて疑わなかった。
なのに・・・なのに何故ヴァッツより強い存在が現れてしまったのだ?何故彼に大怪我を負わせる程の存在がこの時期に、しかも『天族』を滅ぼすような真似をしてしまったのだ?
クレイスにとってヴァッツとは親友以上に心の支えでもあった。彼さえいればどんな困難にも立ち向かえるし、彼の力があれば人が不幸になる事はないという確固たる妄信は反動となって心に大きな衝撃を与えてしまったのだ。
故にあれから一度もヴァッツとは会っていない。会うと自分でも何をしでかすかわからないから。
セイラムが亡くなった事、『天族』が滅んでしまった事はとても悲しいし悔しい。だが今は絶対だと思っていたヴァッツの存在に疑問を抱いてしまった自分が怖くて、醜くて、そして情けなくて再び道を見失っていた。
わかっている。一度戦いに負けた所でヴァッツはヴァッツのままだ。それは少し前にアルヴィーヌが直接彼に告げた言葉でもある。
だったらクレイスもヴァッツに会いに行くべきなのだ。彼を打ち負かす存在についてよく聞いて、一緒に対策を考えるべきなのだ。
一方的に寄りかかる存在ではない。苦境の時こそ共に支え合って歩む者同士が本当の友なのだから。
「やぁ。随分悩んでいるね?」
その答えには辿り着いていた。後は実行に移しさえすれば・・・ただア=レイという存在が先に動いた事でクレイスの部屋には妙な雰囲気が流れると全員が瞬時に戦闘態勢へと移行していた。
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