天神 -残される人々-③
クレイスが無茶な訓練を繰り返していたのはやはり『天族』が滅ぼされたのが原因だろう。
更にその場へ出向いたヴァッツですらそれを止める事が出来ず、大怪我を負って返り討ちにあったとなれば普段は天真爛漫で明るい彼が落ち込むのも無理はない。
それでも『トリスト』の重苦しい空気はどうにかならないものだろうか?
メイは定期的に訪れる友人の部屋で気になる話題を振ってみると、ハルカも腕を組んで難しい表情を浮かべていた。
「どれもこれも事実として受け止めるには大きすぎるのよね・・・しかも全部同時に起こっちゃったのが益々不味いわ。」
特に最近姿を見せていないイルフォシアの悲しみは相当なものらしく、彼女の力になれない無力さからより過酷な訓練に身を投じるクレイスという悪循環は誰にも止められないらしい。
「・・・だからカズキ様が御相手をしている訳だが・・・それでもこの状態を放置する訳にはいかない。メイ、何か良い方法はないだろうか?」
過去には自身も最愛の兄を失った経験から彼女の心境はある程度理解出来る。ただ家族を失うという苦しみは千差万別なので気楽に触れられる問題でもないのだ。
「・・・・・お兄様。今日はハルカちゃんと2人でおしゃべりしようと思ってたのに何故ここにおられるのです?」
それよりも今はこの問題を先に片付けるべきだろう。さも当然のように同席していた兄に珍しく強い口調で問い詰めるとこれまた普段は冷静沈着なクンシェオルトが思わずたじろいでいた。
「い、いや。私もメイが『トリスト』でどのような生活を送っているのか話を聞きたいと思ってな。お前もかなり訓練場に通い詰めているそうじゃないか。」
「そうです。最近だとそれ以外のご報告はありません。さぁさぁ、お兄様もヴァッツ様の下へお帰り下さい。」
生前といえばいいのか。『ネ=ウィン』でかなり過保護に育てられていたのもあり、自宅近辺と兄という狭い世界しか知らなかったのは過去の話だ。
今では『闇の血族』の呪縛から解き放たれ、メイは自らの意思で戦う為に強くなるという道を歩み始めた。
そこに年頃の年齢や環境が拍車をかけたのだろう。本人でさえも追い付かない程自我が成長してきたせいで過干渉気味な兄と少し距離を取りたいと思うようになってしまったのだ。
ただし、以前と変わらず兄を敬愛している気持ちに嘘偽りはなく、それを常日頃から見せている分リリー達とは少し事情が異なる。
あくまで自分だけの時間が欲しいという自我の芽生えに過ぎないのだがクンシェオルトは今までに見せた事がない程顔面を蒼白させていたので思わずハルカが噴き出してしまった。
「まぁまぁ、今回はいいじゃない。しかしメイも変わったわねぇ・・・」
「あら?それはお互い様でしょ?いつの間にか婚約者を見つけちゃうんだもの。びっくりするわよ。」
少し前ならこの冷やかしにも慌てふためいていたが今ははにかむ程に気持ちの整理が出来ているらしい。それがとても羨ましく思う反面、自分にはまだまだ先の事だなと諦めもする。
「そういえばヴァッツ様も相当落ち込んでるんでしょ?ハルカちゃんも私なんかとお話してて大丈夫なの?」
「メイとのお話は何よりも優先されるの!それにあいつが立ち直るのって多分あいつの中で何かが変わらないと難しいと思うのよね。」
これは自分達が一度亡くなっているからこその順序付けなのだろう。以前より優しく、明るくなったハルカに心から笑顔を返すが施しを受けてばかりでは年上として、友人として気が済まない。
「・・・もっと私にも出来る事はないのかな・・・」
周囲がこれだけ様々な対応に追われているのだから自分にも何か出来る事はないだろうか。そこに後ろめたさを感じたメイはついぽろりと零すが2人は焦る必要はないと優しい言葉と微笑みを返してくれるのだった。
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