天神 -天族について-②
『天族』は見世物としての戦いを強いられていた為、生き残った同族は強く若い世代が多い。だが呪縛から解き放たれた今はそれが功を奏したと言えるかもしれない。
「ウォルト様、一度休憩されてはいかがですか?」
動植物というのは本能に繫栄を刻み込まれているのだ。ウォルトにもいつの間にか隣に異性が控えるようになったのはそういった意味が多分に含まれている。
どちらが先に好意を寄せたのか、どういった経緯で関係に至ったなどの話題を楽しむのはまだまだ先の世代の話だろう。今はただ後世に自分達の記憶を繋ぐ為に、ほんの少しだけ愛おしい気持ちを添えて家族を構える事が求められている。
「そうするか。ふむ・・・これはいつもと違う茶だな?」
「はい。クレイス様が新しい品物をご用意して下さいまして。美味しかったので是非ウォルト様にも、と思ったのですが、お口に合いませんでしたか?」
しかし今まで戦う対象にしか見えていなかった同族達にとっては地上の人間達のように簡単にはいかない。まずは挨拶という習慣を取り入れて少しずつ交流を進め、食卓を囲むという行為で更に親睦を深める。
そうしてやっと互いを理解し、認め合う訳だがそういった過程をすっ飛ばして女を抱けるウォンスは今の『天族』の中では最も強い存在なのかもしれない。
「・・・某も奴を見習った方が良いな・・・」
「あら?それはもしかしてウォンス様の事ですか?」
ところがまだ慣れていない書類仕事に気が滅入っていたのか、温かいお茶の効果により緊張した思考を弛緩させてふと何気ない言葉を漏らすとザウジェが珍しく驚きと僅かな不機嫌さを放ってくる。
ショウやクレイスからも聡明だと判断された彼女は一体何が気に入らなかったのだろう。初めての部下というものあって少し焦ったがこういう時にこそ会話でのやり取りが重要なのも教わっている。
「・・・そういえばザウジェはあまりウォンスに近づかないな。やはり酒臭いのは嫌か?それとも女を手あたり次第口説くのが嫌か?」
「どちらもですわ。」
つまり嫌いな人物の話題が出た事で機嫌を損ねたのか。ウォルトも同僚と言う腐れ縁から仕方なく付き合っている部分はあるものの嫌うまではいかない。
「ちなみにウォンスが酒と女を止めればお主の嫌悪感は拭えるか?」
「・・・どうでしょう?私は軽薄な性格をあまり好まないので。」
軽薄か。ああ見えて彼は結構熱い性格なのだが酒癖と女癖の悪さが邪魔をして理解を得られていないらしい。
「ならば今度某と一緒に話してみるか?酒が抜けると多少は・・・」
なのでこれからの『天族』を考えて少しでも距離を縮めてもらえればと提案してみたのだがここで情操の格差がはっきりと浮き彫りになる。
「ウォルト様?私を生贄にするおつもりですか?」
何故そんな話になるのだ?仕事の合間の一息でまさかこんなにも険悪な雰囲気が生まれるとは夢にも思わずウォルトは久しぶりに目を開けそうになったが彼女も少し言い過ぎたと感じたのだろう。
「すみません。ただ、私はウォルト様の御傍が良いのです。出来れば妻、とやらに迎えて頂きたいとも考えております。」
「ふむ・・・・・某の方こそすまんな。何せまだまだわからない事だらけなのだ。」
どうやら女好きのウォンスに紹介される事で自身も彼に抱かれるのではという忌避感からより激しい怒りを生んでしまったようだ。ただ彼女の気持ちも貞操観念もよくわかっていないウォルトは妻という言葉こそ脳裏に残すがこの日に進展する事はなかった。
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