天神 -天族について-①
「やっと春が来たか!!待ちかねてたぜぇ!!」
ヴァッツが大怪我を負う少し前、ここ『天界』では恒例となりつつある作物の種まきが一斉に始まる。
「おいウォンス、今年こそはもう少し仕事をするのだぞ?有り余る力を戦い以外のものに注ぐことで『天族』の繁栄につなげるのだ・・・って聞けい!!」
ただ、戦いの柵から抜け出せたものの、それにより各々の性格が少しずつ明るみになってくると仕事への向き合い方にも大きな差が生じてきた。
特にウォンスは酒好きの女好きというどうしようもない方向に振りきってしまい、ウォルトも毎回叱ってはいるのだが一向に治る気配がないのだ。
(やれやれ、これが平和の代償か・・・)
自身も戦いだけの人生から解放された事に喜びはある。ただ世界に平穏が訪れた後は真面目な性格とセイラムの側近という立場から自然と周囲を監視、指導する立場に変化していた。
そして思い知らされたのだ。戦いとは命を取り合うものだけではないと。
「それでしたら一度ショウ様をお連れしましょうか?」
「確かにウォルトはショウっぽい所がある。退屈な話を聞かされるかもしれないけど気は合うかも?」
そんな折、週に2、3回ほど『天界』へ遊びに来ているセイラムの愛娘達が提案すると同席していたウォルトも顔を見合わせる。
『神族』の支配から解放されて2年、未だはっきりとした国家の形を持っていなかった『天族』にとってこれは好機なのかもしれない。
しかし農作物の知識を授けてもらうだけでなく更に国家の形成まで手伝ってもらうとなるといよいよ頭が上がらなくなるのでは?誰よりも外国との関係を意識し始めていたウォルトは思考の小部屋に引きこもりそうになったがセイラムはとても嬉しそうに笑っている。
「だったら是非クレイスやヴァッツも連れてきて欲しいな。お前達の様子を彼達からも聞いてみたい。」
どうやら国王的には他国の介入を受け入れる方向らしい。いや、考えてみればアルヴィーヌとイルフォシアは彼の娘なのだから『トリスト』も全くの部外者ではないのだろう。
特にイルフォシアは話にも出たクレイスと懇意の中であり、アルヴィーヌもヴァッツを許嫁と呼んでいる。将来的に親族の関係となるのであれば余所余所しいのもまた違うのかもしれない。
「えっ?!か、構いませんけど・・・」
「・・・ああ。イルは何かとやきもちを焼くから城内では有名になってきてる。それを告げ口されたくなもも?」
イルフォシアの独占欲についてはセイラムが直接万里の眼を使って見ている筈なのに今更隠す事だろうか?妹が姉の小さな口を慌てて抑える姿も父からは微笑ましいものらしく、最後は手招きすると2人を優しく抱きしめた。
「良い良い。では今度来る時は5人分のおもてなしをせねばな。」
国家というものを全く想定していなかったにも拘らず彼に王として君臨してもらっていたのは本当に良かった。強さだけではない、唯一同族同志で夫婦となって子を授かり、気丈に立ち振る舞ってきた姿を見て強く思う。
(家族、か。)
『神族』達によって無理矢理搔き立てられていた闘争本能も鳴りを潜め、今は500人程度の同族がとても仲良く暮らしているがこれも最近になってからだ。
これまで戦い以外の接し方を知らなかった彼らはまずセイラムと自分達の関係を見習う事で少しずつ打ち解けてきた。といってもウォンスとウォルトも強力な暗示によって従っていた為、参考になったかどうかはわからない。
それでも最も強い同族に敬意を抱いていたのは間違いないのだ。だから暗示が解けた今でも彼に従う事を選んだのだが型にはまっていた関係性も少しずつ溶けてくると様々なものが見えてくる。
「・・・セイラムはよく笑うようになったな。」
「む?そうか?」
「ああ、今の『天族』の中で最も楽しそうだ。某も妻を娶ればそんな風になれるのだろうか。」
「さて、どうかな?しかし・・・そんなに笑っているか?」
自覚が無いのもまた彼らしい。愛娘達が帰った後、不思議そうに自分の頬をかるく揉む姿を見たウォルトは確かな平穏を感じるのだった。
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